[画像] 「Jリーグに帰ることになるかと…」欧州3年目、好機を掴んだ日本人SBの存在感がベルギーで増大中! 支えてくれた“同胞レジェンド”に感謝【現地発】

 STVVの新加入アタッカー、ビラル・ブラヒミが9月15日の対ルーバン戦の81分、ボックスの外から鮮やかなミドルシュートを決め、ホームスタジアムは興奮の坩堝と化した。しかし、レフェリーがVARのチェックを仰いだことで、しばしの静寂が訪れる。この間、STVVの左ウイングバック、小川諒也は、ルーバンのサイドアタッカー、コナン・エンドリと肩に手を置きながら何か会話を交わしていた。
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「たぶん、お前の手が俺の肩にかかっていたからファウルだ」(エンドリ)
「ファウルはなかったと思うよ」(小川)

 そんな内容だったという。問題のシーンはGK小久保玲央ブライアンが蹴ったロングフィードのこぼれ球をエンドリが拾って、ドリブルを仕掛けた場面。体勢が不利だった小川は腰に手を回すように密着。その結果、バランスを崩したエンドリのボールタッチが大きくなり、CBブルーノ・ゴドーがボールを回収して、ブラヒミのゴールに繋がるロングカウンターを発動させた。

「結局ファウルはなかったので、『ドンマイ』みたいな感じの言葉を言いました」

 険悪な雰囲気はゼロ。それは互いの力を認め、リスペクトしながらワン・オン・ワンを繰り広げた者同士の特別な世界だった。

 2季前にオイペンで7ゴール・5アシストのキャリアハイを記録したエンドリは、立ち上がりから小川に対してイニシアチブを握って背後を取ったり、執拗なフェイントからクロスを入れるなど積極的に仕掛けてきた。それでも徐々に小川はエンドリとの間合いを把握し、五分の勝負に持ち込んでいく。

 後半、小川がエンドリと対峙すると、ブラヒミが挟み込みに来てくれて、コートジボワール人俊足アタッカーの自由を奪った。前半、ブラヒミに背後への走り込みを許したシーンもあった小川だったが、51分にはしっかり詰めてボールを奪い、カウンターの起点になった。

 時間の経過とともに小川は高い位置にポジションを取るようになり、74分には左サイドを小川→ブラヒミ→山本理仁のトリオで崩し切る。だが、エンドリも負けてはいない。75分、小川との1対1を挑むエンドリに対し、ブラヒミが援軍に駆けつけたが、この2人の間をエンドリはシザースを交えて抜き去り、シュートまで持ち込んだ――。
こんな白熱の一騎打ちを繰り返したからこそ、小川とエンドリは敵味方を超えた空気をピッチの上で作ったのかもしれない。
 
 今日の11番(エンドリ)との1対1は面白かったですね――。そう声をかけると、小川は「いやあ、自分的にはもっと詰めることができたなというシーンが何個もありました」と言って続けた。

「彼がルーバンのストロングポイントだった。でも、どっちもどっち(の勝負だった)というか。ぶち抜かれたシーンもあんまりなかったですが、そうかと言って全部止めることができたわけでもない。もっと厳しく行けたなと反省している部分もあります」

 スタンドから見ていて、小川とエンドリの間にライバル関係が生まれ、互いに良いムードでプレーしていたように感じたが。

「そうですね。対面したのは初めてだったと思いますが、試合中、どっちかがファウルをしたシーンでも称え合っていたというか、いい感じのバチバチ感がありました。激しく行くけれど汚いプレーはせずにやってました」

 清々しささえ感じられた2人の好勝負だった。
 今季、小川は開幕から7試合連続で先発出場。第2節のアントワープ戦(1-6)を除いてフル出場を果たしており、1ゴール・1アシストを記録している。昨季は公式戦9試合(リーグ戦4試合・プレーオフ3試合・カップ戦2試合)にとどまった男にとって、天と地の違いほどのシーズンを過ごしていると言えるだろう。

 FC東京から「このたび、小川諒也選手が、Vitoria Sport Clube(ポルトガル)へ期限付き移籍することが決定しましたので、お知らせいたします」というリリースが出たのは22年5月28日のこと。しかしビトーリア・ギマラエスでは公式戦11試合の出場機会しかなく、日本代表5キャップのレフティーはBチームの一員として3部リーグに出たこともあった。

 23年夏、STVV加入選手たちによる合同記者会見で、小川はポルトガル時代の状況を「自分を呼んでくれた強化部長が、移籍してからすぐいなくなってしまい『お前、誰だよ』という状態からスタートした。急に監督が変わったり、コーチが変わったり、いろいろなことがあったので難しかった」と説明してから、欧州での再挑戦の場となったベルギーでのプレーにこう意気込んだ。

「欧州に来て2年目になりますが、英語が通じるのがまずは嬉しい。日本人選手がたくさんいてサッカーの面でも共有できる部分があるので、楽しみなシーズンです」

 しかし、アタッキング・フットボールを志向するチームが喝采を浴びるなか、小川のコンディションはなかなか上がらす、開幕から17戦続けて招集外。やっと18節のRWDM戦で3分間出ることができたが、その後はベンチに座る日々が続いた。
 
 この不遇から一筋の光明が差したのが24節のセルクル・ブルージュ戦だったのではないだろうか。当時のレギュラー、ボキャの負傷により70分から出番を得た小川は0-4ビハインドのアディショナルタイム5分、高精度のクロスを蹴り込んでバーンズのゴールをアシストしたのだ。STVVにとって1-4の大敗に変わりはないが、「捨てゲーム」を「次に繋げる試合」にした意義は大きい。

 その後、レギュラーシーズン最後の2試合にチャンスをもらった小川は、最終節のクラブ・ブルージュ戦でまたもアシストを記録し、2対1の逆転勝利に貢献。プレーオフのスタンダール戦ではベルギー初ゴールを決めた。こうして小川は6月、FC東京からSTVVへの完全移籍を勝ち取った。

「(このままでは)たぶん、Jリーグに帰ることになると思ったんですけれど、ありがたく(契約をいただけた)。昨シーズンは(プレーオフを合わせたリーグ戦で)7試合ぐらいしか出ませんでしたが、新シーズンを見越してシント・トロイデンが契約してくれたので嬉しかったです。よりシント・トロイデンのために、このチームのために結果を残さないといけないという思いは、今年のほうが強くなりました」
 試合に絡むことがなかった日々はメンタル的にも厳しかったはず。当時、支えとなったのは何だったのだろうか?

「やっぱり岡崎慎司選手の存在が大きかったと思います。岡さんも去年は怪我が多く、一緒にメンバー外の練習などで、話す機会が多かったんです。そこで岡さん自身もいろんな経験をしてきて試合に出られない時期もあったという話をしてくれました。それで支えてもらった部分がありますね。去年、岡崎選手がいてくれたというのは自分の精神的にもすごく大きかったと思います」
 
 ルーベン戦のアディショナルタイムに入って、さらに敵陣深い位置までボールを運び、そこで失ってもすぐにスライディングタックルでタッチラインの外へ蹴り出し、軽やかに疾走しながら帰陣する小川。もうコンディションにまったく不安はなさそうだ。

 11月に28歳を迎える左ウイングバックが完全カムバックを果たした。

取材・文●中田 徹