[画像] エミー賞席巻の「SHOGUN 将軍」はなぜこれほどアメリカで評価されたのか…背景に多様性の受容と字幕慣れ

 15日(現地時間)に発表されたエミー賞を、日本が舞台の時代劇「SHOGUN 将軍」が席巻した。なぜこれほど米国で評価されたのか。ハリウッド在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀さんに受賞の背景を聞いた。

 「将軍」の成功は、最近の米国のエンターテインメント界の状況を反映している。

 同じくジェームズ・クラベルの小説を原作とするテレビドラマは1980年に放送されて人気になり、米国では今でも中高年層によく知られている。リメイクの話は何度も出ていた。

 幸運だったのは、オールアジア人キャストの映画「クレイジー・リッチ」や、韓国の配信ドラマ「イカゲーム」、米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した「ゴジラ−1.0(マイナスワン)」が大ヒットしたこと。米国でなじみのない人たちが出演している作品が、広く受け入れられた。

 ハリウッドでは、「白人は白人の作品しか見たくなく、米国人は字幕が嫌」という価値観が大勢を占めていた。しかし最近の若者は「面白ければ見る」というオープンなスタンス。特に大都市では学校に様々な人種の友達がいるので、白人以外の俳優たちが多数出演していても抵抗感はない。字幕作品にも慣れてきた。

 米国のエンタメ業界では今や多様性は常識で、無視すると批判される時代になった。テレビ界は映画界より自然な形で多様化していたが、2016年には米映画アカデミーが本気で多様化への努力を開始。アカデミー会員に女性や非白人を増やし、ハリウッド作品に多様な俳優が登場するようになってきた。そしてそれらの多くは成功している。

 作品の質には自信はあっただろうが、制作陣にとって、より良い環境が整ってきていたといえる。製作したディズニー傘下の「FX」は創立以来最大の予算をかけたとされている。

 とはいえ、「将軍」がエミー賞を席巻したのは、物語が面白かったからに尽きる。世界的に人気となったドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」を想起させるような熾烈(しれつ)な権力争い、かけひきがあった。細部の美術や日本の描写は素晴らしかったが、物語自体がつまらなければ、視聴者はこれほどまでに魅了されなかっただろう。