日本サッカー協会(JFA)審判委員会は11日に都内でメディア向けレフェリーブリーフィングを開催し、競技規則に規定されていない事象への対応について「競技規則の精神」をもとに審判団が判断していることを示した。

 今回のレフェリーブリーフィングでは最初のトピックとして、FC町田ゼルビアのFW藤尾翔太がPK前にボールへ水をかける行為が扱われた。佐藤隆治JFA審判マネジャーはジュビロ磐田戦で主審がボールの交換を命じたことを支持しつつ、根底には「フェアにゲームを運営していく」という考えがあることを強調。審判員それぞれにさまざまなゲームコントロール手段があることを伝え、「最後はレフェリーの裁量」と現場の判断に委ねた。

 こういった方針の背景には、サッカーならではの競技規則がある。佐藤氏は以下のように述べた。

「サッカーの競技規則ってすごくシンプルで、だから皆さんに受け入れられやすいというか、世界でナンバーワンと言われる人気のあるスポーツ。それはやっぱり分かりやすさ、17条しかない。そこには一つ一つの事象に対して『こういったことはしていいんですよ』と、『そういうことはダメなんですよ』とは書かれていない」

 その中で審判員がジャッジを下す基準になるのが、1条から17条までに規定されている規則と、佐藤氏が「フェアに安全でお互いに公平」と示す競技規則の精神になる。実際、競技規則にも「発生し得るであろうすべての状況に対して言及することはできないので、 具体的事象についての規定はない」とあり、「審判が競技と競技規則の『精神』に基づき判定を下すよう求めている。これにより、しばしば『サッカーは何を求めているのか、何を期待しているのか』といった質問を投げかけられることになる」と記されている。

 佐藤氏は明文化されていない事象に対応するため、審判員が「フットボールアンダースタンドとか、フットボールエクスペクテーションとかそういったものを学んでいる」と話す。こういったテクニカル面とは異なる分野を強化する方法として期待されているのが、今季ドイツやイングランドなど複数の国から審判員を招聘し、今月にはメキシコとカタールから主審が来日する交流プログラムだ。

「国によって大陸によっていろんな考え方があるし、多分ラテンの国はもっといろんなことが起きている。そういったものを情報交換することで、僕らもそうですし、現役審判員のレフェリングの幅といったものを身につけたい。それを今年多くの海外のレフェリーが日本に来てくれて、Jリーグがサポートしてやってくれている」

 当然ながら競技規則の精神に基づいて判断する場面は“藤尾のルーティーン”だけではない。佐藤氏は「ひとつひとつこれは正しい、これは正しくないということをしていくかといったら(サッカーの求めるところは)多分そういうことではない」と述べ、「レフェリーが目くじらを立てて細かい重箱の隅をつつくようなことをしろとは言っていないし、彼らだってそんなことは望んでいない」とコメント。臨機応変に対応しながら、競技規則の精神に基づいて判断することで一貫していることを強調した。

 ただ、試合運営の観点からJリーグと協議して改善を図る場合もあることを示した。コロナ禍のJリーグでは、副審がピッチサイドに置かれたクーラーボックスに接触して転倒する事案が発生し、設置場所の変更が行われた。

 最近では町田対浦和レッズで浦和ベンチサイドに置かれた町田のロングスロー用タオルを巡って両チームスタッフが対立する場面も。佐藤氏は「レフェリー側だけでこれはダメだということは(できない)。基本(Jリーグが)認めているものなので」と現状を説明しつつ、相手ベンチ付近に備品を用意したことが対立の原因になったことを推測し、「リーグと話をしながら、みんながそうだよねと言える着地点を見つけながらやっていければ」とコメント。「より良いゲームをよりスムーズに」と円滑な試合運営を目指して関係各所と協力していく姿勢を示した。

 最後には扇谷健司審判委員長が「先ほど佐藤からの言葉もあったが、競技規則には『いろいろなことについて書いていない』と書いてある。サッカーの競技規則はそのようにできていると議論したい」と述べ、レフェリーブリーフィングを締め括った。

(取材・文 加藤直岐)