[画像] 痛恨すぎた山東戦での敗戦。ACLの悔しさはACLでしか晴らせない...川崎・鬼木達監督が臨む7度目のアジアの舞台【インタビュー2】

 ACL制覇は川崎の悲願である。だが、その挑戦は悔しき敗戦の連続でもあった。忘れられない今季始めの山東戦。まさかの敗戦を新たなフォーマットとなった“ACLエリート”へどうつなげるのか。鬼木達監督の想いに迫ったインタビューの第2弾だ。

――◆――◆――

「切り替えられないけど、切り替えます」

 その表情と言葉に胸が締め付けられる想いになった。

 今季のリーグ開幕前、昨季、無敗でグループステージを突破した川崎はACL2023-2024のラウンド16・山東戦でまたも大きな忘れ物をしてしまった。

 アウェー中国での第1戦は3−2で勝利。貴重なアドバンテージを手にして臨んだホームでの第2戦はまさかの結末が待っていた。

 開始8分にミスから失点すると前半を1−2で折り返す。それでも59分に同点に追いつき、トータルスコアで再び上回る。だが、73分、そして後半アディショナルタイムに被弾。痛恨の敗退を強いられたのだ。

 シーズンをまたがる大会であり、オフには新たな挑戦として山根視来、登里享平、山村和也らが移籍。少なくない選手の入れ替わりがあったなかで、キャンプでは山東戦に照準を合わせて駆け足でチームを作ってきたが、大事な場面で綻びが生じてしまった。

 昨季、天皇杯を制したとはいえ、覇権奪回を目指したなかで、リーグ戦は鬼木体制で最も成績が振るわない8位。指揮官の去就が注目される時期も少なくなかった。本人も考えるところがあったに違いない。それでも天皇杯決勝の約2週間前、11月29日に鬼木監督は続投を発表。覚悟を決めた背景にはACLへの想いがあったと山東戦の前に振り返ってくれていた。

「昨季は納得のいく成績ではなかったですが、基本的に自分からチームを投げ出すとか、そういうことをする気はなかったです。そう思ったら勝負に対する運と言いますか分かれ目のところを引き寄せられなくなると強く考えていたので。このチーム、このクラブをなんとかするんだという想いでした。

 ただ、自分のなかで成績とか関係なく、自分がどういう形でこのクラブに貢献できるのか、自分が必要なのか、必要とされているのかは考えさせられる時期でした。

 それでも、当時まだタイトル(天皇杯)が残っていましたし、自分自身もチームもまだ成長できると感じていました。もうひとつはACLのグループステージを良い形で戦えていた時期でもありましたし、まだ手にしていないACLは中途半端な形で獲ることは絶対にできない。だからこそ自分が決断しないと、そこへのパワーが出しづらいと考えました。決断してパワーに変えていく。その想いはありましたね。

 僕ら監督は最も姿勢を見せるべき存在で、その姿勢がチームに波及する。僕が緩くなればチームも緩くなるし、僕が勝ちたいと思えば、みんなも勝利への想いをより強くしてくれる。実際、選手たちがどう感じてくれているのか分かりませんよ。でもそう信じて指導している。そういう意味では、自分の決断を自分も信じますが、僕は周りの人たちを信じて生きてきている。そこはブレちゃいけないと感じていました。

 そこは捉え方であって、僕はそういうことをできる立場でもありますし、それをすることで自分も変わっていけたり、人を自分が変えようとしなくても、自分の姿を見て変わっていってくれたりする。勝利への道筋ひとつとっても、姿勢の部分って強制するって言ったら変ですが、自分が思っているようにやってもらうことってなかなか難しいことじゃないですか。だからその人の頭を変えたかったら、自分が変わらないとダメだな、示さないとダメだな、という想いがやっぱり強い。自分が示し続けたら変わってくれるだろうという信じる気持ちが僕は強いのかもしれないです。

 それにやることをやってダメだったらしょうがないと思えるんですよ。試合でも準備し尽くして負けたら悔しいですが、切り替えられる。ずっとその繰り返しです。だからスタッフらに本当に助けてもらっていますし、自分ひとりでやれることに限界はあります。ひとりで抱えていたら難しいこともみんなでだったらやっていける。だから基本的に僕は何も変わらない。そのなかでサッカー面でもっと面白いことができないか、日々考えています」
【画像】セルジオ越後、小野伸二、大久保嘉人、中村憲剛ら28名が厳選した「J歴代ベスト11」を一挙公開!
 ACLを本気で獲りに行くんだという意志を背中で見せる。次の大会からはフォーマットが変わることも分かっていた。だからこそ、2024年5月の決勝に向けてすべてを懸けて臨んでいた。アジアで結果を残せばクラブとして新たなフェーズに行けると信じていた。何より川崎の素晴らしきサポーターたちを、アジアへ、世界へ発信したいという想いが強かった。

「フロンターレというこんなに素晴らしクラブが日本にあるんだよって伝えたい。そして選手にクラブワールドカップを経験させてあげたい」

 監督としての願いは明確だった。それでも届かなった。

 山東戦の直後にはリーグ開幕戦が迫っていた。それでもスタジアムの片隅で鬼木監督がもらした「切り替えられないけど、切り替えます」という言葉。そのショックは計り知れなかった。

 何が足りなかったのか。何がいけなかったのか。

 その答え探しは今も続いているのだろう。やはりACLの屈辱はACLでしか晴らすことはできないのである。

 あの山東戦、今、振り返れば多くの反省点も浮かび上がってくると言う。

「アウェーの第1戦は、みんながかなり気持ちを込めて戦ってくれ、勝って帰って来られたのは非常に大きかった。一方でホームではもっと細かいところにこだわっていれば、伝えきれていれば、ああいうゲームにはならなかったのかなっていう想いはあります。

 あの試合、あのような状況になってしまった以上、同点のまま延長戦に入ってもいいと考えていたんです。とにかく時間をかければ、チャンスは絶対に自分たちに多くくると読んでいたので。でも少し慌てて勝負を決めにいってやられてしまった。ミーティングでもっとホームでの延長は問題ないと強調していればと思ったし、ピンチの選手にも声が届くまで伝え続ければ良かった。冷静に戦わせられなかった。

 1点目はミスからの失点で、ああいう大舞台では起こり得るんですけど、起こしちゃいけないプレーがいくつかあって、自分たちのウィークの部分が、もろに出てしまったゲームでもあります。ショックは大きかったですね。昨年からまたがっている大会で、シーズンの最初に本当に大きな目標がなくなる難しさは計り知れない部分がありました」
 それから3日後、川崎は湘南とのリーグ開幕戦を制す。しかし、その後は昨季以上の苦しい戦いのスタートであった。

 湘南戦以降、失点がかさみリーグ3連敗を喫するなど勝利に結びつかない日々。なかなか浮上のキッカケを掴め切れずに、今も降格圏から離れることができずにいる。

 そんななかで鬼木監督はチームにどんな指針を示そうとしているのか。

パート3に続く

■プロフィール
おにき・とおる/74年4月20日生まれ、千葉県出身。現役時代は鹿島や川崎でボランチとして活躍。17年に川崎の監督に就任すると悲願のリーグ制覇を達成。その後も数々のタイトルをもたらした。“オニさん”の愛称で親しまれる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

※ACLの新フォーマット
 2024−25シーズンからAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、AFCチャレンジリーグ(ACGL)の3つのレベルの大会に再編。

 ACLEはこれまでより少ない24クラブの出場で、グループステージは東地区、西地区それぞれ12チームに分かれ、8クラブと1試合ずつ対戦(ホーム4試合、アウェー4試合)。各地区上位8クラブがラウンド16(東地区の1位対8位など各地区内の順位によって対戦相手が決定)に進出し、ホーム&アウェーの2試合合計スコアで勝利したクラブが準々決勝へ。準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定。
 
 優勝クラブは賞金1000万ドル(約14億6000万円)に加え、4年に1回開催されるFIFAクラブワールドカップ(2029年大会)の出場権を獲得する。
 
 川崎はグループステージで蔚山(韓国/アウェー)、光州(韓国/ホーム)、上海申花(中国/アウェー)、上海海港(中国/ホーム)、ブリーラム(タイ/アウェー)、山東(中国/ホーム)、浦項(韓国/アウェー)、セントラルコースト(オーストラリア/ホーム)と対戦する。