近年、クルマとの付き合い方は多様化が進んでいる。クルマの利用頻度やライフスタイルに応じて「マイカー購入」や「カーリース」、「カーシェア」など、さまざまな選択肢がある。
 そんななか、購入でもシェアでもなく、新しいクルマの持ち方として注目されるのが、クルマのサブスクリプション(以下 サブスク)だ。

◆「KINTO」のサブスク累計申込数は10万件を突破

 2019年にサービスを開始したトヨタのKINTOは、クルマのサブスク市場における牽引役として事業を拡大しており、サブスク累計申込数は10万件を突破している。

 KINTOをきっかけに「ファーストカー(人生で最初に乗る車のこと)」を持つ若年層に主に支持されており、サービス利用者の4割が20〜30代を占めているという。

 同サービスを運営する株式会社KINTO マーケティング企画部 部長の曽根原由梨さんへKINTOの現在地やクルマのサブスクの未来について話を伺った。

◆自動車業界における長年の“商慣習”に切り込みたかった

 2010年代後半は、自動車業界における「100年に1度の大変革期」が叫ばれ、既存のクルマのあり方や売り方などを変えていくことが求められた時代だった。

 トヨタも「自動車を作る会社」から「モビリティカンパニー」への変革を目指し、新たなビジネスモデルの確立やものづくりの進化に取り組むことを掲げたのだ。

 その一環で生まれたのがKINTOである。背景にあるのは「長年の商慣習からの脱却」だ。

 家電業界では、各メーカーの町の電気屋さんから家電量販店、Amazon等のEコマースに売り場が広がった。しかし、自動車業界では売り場が販売店しかなく、値段についても交渉するという商慣習が続いており、KINTO代表の小寺氏はそこに課題意識を感じていたという。

 その課題を解決するために「インターネットを介した新しいクルマの販売」を考えていくうちに、クルマのサブスクに着目したというわけだ。

「レンタカーやカーシェアの領域では、グループ内のトヨタレンタリースがサービス展開していました。このような状況で、インターネットを通じていろんなお客様にクルマの持ち方を提供する際に、カーシェアでも所有でもない第3の選択肢としてクルマのサブスクを考えて始めたのがKINTOになっています。

 クルマの販売だと、数百万円単位のお金を払っていただかないといけないですし、全国統一の価格で出すためにはサブスクのビジネスモデルが一番フィットしました」(曽根原さん、以下同)

◆立ち上げ当初は「こんなに売れないとは思わなかった」

 だが、2019年2月にKINTOを立ち上げ、クルマのサブスク事業に参入したものの、初年度の申し込み台数は1,200件程度にとどまった。

「こんなに売れないとは思わなかった」

 曽根原さんは当時の苦労を次のように語る。

「『まだクルマ買ってるんですか?』というキャッチフレーズを掲げた奇抜なテレビCMを打って話題喚起を狙いましたが、当初は日に数件の申し込みしかありませんでした。事業を始める前にイメージしていたものとのギャップをすごく感じていましたね。

 やはり、クルマのサブスクが新しい形態ゆえにお客様も怖くて申し込みづらく、販売店で働く現場のスタッフからの理解を得られないと売り上げが伸びないのを痛感しました」

◆失敗を恐れない新規事業の発想と実行力が成長の鍵になる

 そこで行った企業努力が「高速でPDCAを回すサービス改善」と「連続的なサービス拡充」の2つだ。

 ユーザーの要望や意見、潜在的なニーズを汲み取り、モビリティプラットフォームとしての付加価値を増やしていくために、新サービスを“矢継ぎ早”にリリースしてきたと曽根原さんは述べる。