[画像] 中高生から圧倒的な人気、エモい系小説「ブルーライト文芸」が大人世代にも刺さっているワケ

 最近、書店の文芸棚に行くと、何かと目にするのが、透明感あるエモさを感じる景色が描かれた表紙が集う、“青い”一角。その作品群こそ、昨今注目される「ブルーライト文芸」です。2016年ごろに登場して以来、中高生を中心に人気を誇り、数々の作品の実写化が実現しています。

 これら“青い”作品が人気を博す理由について、X上にて140字小説の投稿を続け、小説投稿サイト「ノベルアップ+」でも総合1位(日間)を獲得。

 ついには今年7月、ブルーライト文芸作品『ぼくと初音の夏休み』で初の長編作品デビューを果たした作家・掌編小説(しょうへんしょうせつ)さんに聞きました。

◆ハンデを抱えた男の子と女の子の成長物語が描かれる

 若者を中心に話題を呼ぶブルーライト文芸。そんなブルーライト文芸作品を初めて執筆するにあたり、分析を重ねたという掌編小説さんは、同作品群の特徴についてこう語ります。

「ブルーライト文芸の基本構造は、『ボーイ・ミーツ・ガール』だと思います。何かしらの病気や障がいといったハンデを抱えていたり、コミュニケーションが苦手だったり、家庭環境に恵まれなかったりする主人公が、同じような境遇のヒロインと出会い、困難を乗り越えて成長していく……というのが、王道の展開だと思います」

◆ブルーライト文芸の作品群が持つ共通項

 また、「ブルーライト文芸」の名づけ親であるぺシミさん(@pessimstkohan)は、同作品群には「田舎」「夏」「ヒロインの消失」といった共通点が見られると指摘しています。こうした“装置”が作品の魅力を際立たせる理由について、掌編小説さんは次のように話します。

「『田舎』という舞台は世代を問わず、ノスタルジーを感じさせるものなのでしょう。また、花火、お祭り、海水浴などイベントが多い『夏』は、人間関係が深まりやすい季節だとも言えます。

 子どもたちにとっては日常から解き放たれる夏休みがあり、けれどもその非日常は必ず終わる。ドラマチックなストーリーを紡ぐにはうってつけなのだと感じます」

◆最も強く特徴づける要素は「ヒロインの消失」

 なかでも、ブルーライト文芸を強く特徴付けるのが、「ヒロインの消失」です。

「ペシミさんも言及されていることですが、『ヒロインの消失』は、古くから日本の恋愛小説で繰り返し描かれてきたモチーフです。たとえば1936年の『風立ちぬ』。堀辰雄によるこの小説では、結核を患った婚約者と主人公である“私”との悲恋が描かれています。

 比較的新しいところでは、2001年に発表され、320万部超の大ヒットとなった『世界の中心で、愛を叫ぶ』(片山恭一著)も、主人公が最愛のヒロインを白血病で失う話です。

 また、2015年に発売され、累計発行部数が300万部を超えた『君の膵臓を食べたい』(住野よる著)も、膵臓の病気を患う美少女と孤高な男子が出会い、少女が悲劇的な最後を迎えるというストーリーです。

 こうしたヒロインの『消失』や『喪失』は、昔から日本人が大好きなモチーフなのだと思います」

◆『ぼくと初音の夏休み』執筆に至った3つの理由

 7月に刊行された掌編小説さんの『ぼくと初音の夏休み』。その内容も、人付き合いが苦手な主人公の男の子が高校1年生の夏休み、変わり者の同級生の女の子と湘南の海で出会い、浜辺のごみ拾いに巻き込まれる、というところから物語が動き始めます。

 まさにブルーライト文芸の王道を行くようなボーイ・ミーツ・ガール作品ですが、掌編小説さんが執筆に至った理由は、大きく3つあったそうです。

「私自身、ブルーライト文芸をいくつも読んできました。すばらしい作品ばかりでしたが、同時に、『困難を抱えた主人公やヒロインが、健気にそれを乗り越えようとする姿を描くことにより、同情や感動を生み出し、読者に消費させてしまっている側面もあるのではないか』という気持ちを抱いたことがあったのです」

◆「少年少女が健気に頑張る姿」を消費する行為への違和感

 障がい者が頑張る姿を、健常者がコンテンツとして消費し、感動する。そんな行為に対して、2012年、身体障がいがあるオーストラリア人のコメディアン、ステラ・ヤングが、批判と共に投げかけた言葉が「感動ポルノ」。

 病気や障がい、複雑な家庭の事情を抱えながらも頑張る少年少女を描いた物語の一部が、感動ポルノと重なるようにも感じられてしまったそうです。

「私には比較的重いハンデを抱えた身内がいるので、必要以上にそういうことを感じてしまったのだと思います。

 ただ、日本でもチャリティー番組で病気や障がいのある方が切磋琢磨する姿を、視聴者が安全圏から眺め、寄付をしていい気持ちになるのは、果たして正しいことなのか、と議論になったことがありました。

 一部の作品に対し、自分が感じてしまった引っ掛かりを、なるべく解消しつつ、同じような枠組みの中で物語を成立させられないか、というのが執筆を決めた理由のひとつでした」

◆悩み、迷う大人の姿を描くことも執筆理由の一つ

 加えて執筆理由となったのが、ブルーライト文芸における「親の不在」に気が付いたことだといいます。

『ぼくと初音の夏休み』では、主人公の父親の死因や母親とのやりとり、またヒロインと両親との不思議な距離感など、「親」の存在を色濃く、そしてリアルに感じさせる描写が多数登場します。

「ブルーライト文芸の中には、親の描き方がやや記号的ではないか、と感じられるものもありました。たとえば、主人公やヒロインを抑圧するような親か、子どもに理解があって仲が良い親か、といったことです。

 自分自身が思春期の頃、『大人になったら今のように迷ったり悩んだりせずに済むのかな』と考えていました。ですが、実際に大人になってみると、相変わらず迷い、悩みまくっています(苦笑)

 自分が成長していないだけかもしれませんが、『大人は子どもの延長のような存在』で、死ぬまで未完成なんだ、と感じています。大人だって成長し得る。子どもと大人はどこかで綺麗に二分できるものではないのではないでしょうか。

 当たり前のことですが、親にも子どもだった時期があり、青春時代を通ってきた。その経験を胸の奥に宿しつつ、大人になり、迷い悩みながら必死に親をやっている。

 ですから、子どもときっぱり切り分けられた『敵対する存在』や『成熟した理解者』としての大人ではない親の姿を描きたいと思ったんです」

◆金銭・性についての問題も取り上げたかった

 そして、3つ目の要素として掌編小説さんが意識したのは、ブルーライト文芸ではあまり描かれない「性」や「お金」といった生々しい部分もきちんと描くということ。

「性とお金の話が出ると、急に現実に引き戻されるので、フィクションを描く以上、『あえて触れない』という選択ももちろん正しいと思います。

 ただ、人間が生きていく上ではお金は必要だし、自分たちが生まれたのも誰かの性行為があったからですよね。それを描かないのは、個人的にはどこか嘘っぽい気がしてしまったんです。

 そこで、ヒロインの過去や親との葛藤の中に、意識的に性やお金の要素を盛り込んでみました」

◆意外だったのは、親世代からの共感の声が多かったこと

 これまでにない、新しいブルーライト文芸を描いてみたい。そんな想いのもと執筆を進めていった掌編小説さんですが、いわゆる“王道”から外れてしまうことに、ためらいはなかったのでしょうか。

「私は長く文字に関わる仕事をしてきましたが、プロの小説家ではないので、『自分が好きなもの、読みたいものを書いたらいいんじゃないかな』とあまり気負わず書いていました。

 でも、出来上がった作品を小説投稿サイト『ノベルアップ+』で公開すると、びっくりするほど多くの方から反響をもらえて……。

『ノベルアップ+』や作品を紹介した自分のXのコメント欄には、主人公やヒロインと近い世代の方ばかりでなく、その親世代の方々が、ご自身の若い頃と重ねてくださったり、お子さんとの距離感についてコメントをくださったりしました。これはうれしい驚きでした」

◆執筆を通じて改めてブルーライト文芸の魅力に向き合えた

 さらに、自分自身が実際にブルーライト文芸を執筆してみたことで、改めてその魅力について深く考える機会も増えたそうです。

「ブルーライト文芸って、案外裾野が広いと思うんです。読者層の中心は主人公やヒロインと同じか近い世代なのでしょうけど、自分の作品に限らず、もっと上の世代の方々にも読まれていると感じています。

 大人になれば、子どもの頃より複雑で、広く、ままならない世界を生きていかなければなりません。仕事、家庭、子育て……と、背負うものも増えてくる。個人の努力や正論、きれいごとだけでは済まされない局面も当然あります。

 でも、そんな日常を続けるなかでも、『こんなふうに生きられたらいいな』と思っている世界があると思うんです。先ほどお話したように、みんな子どもを胸に宿したままで大人になる、と私は感じています」

◆恋焦がれ、がむしゃらに生きた経験は生きる原動力になる

 初めて誰かを好きになり、焦れる思いでその人のことばかり考えていたあの季節。その相手のため、不器用に、がむしゃらに、頑張ることに価値を見出し、成長したいともがいていたあの時代――。

 大人の誰もがそういう時期を通り過ぎてきた。それは未熟だけれども尊くて、大人だからと冷笑し、切り捨てるにはあまりに惜しいし哀しい。

「大人として、もう二度とそんなふうには振る舞えないけど、その経験は彼方にあるかつての自分への憧憬として、大人にとっても今を生き抜く原動力になると思うんです。

 もちろん、今まさに青春時代を送っている若い方にとっても同じです。だからこそ、ブルーライト文芸が描くボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーが、年代を問わず多くの人の心に刺さるのだと感じています」

 TikTokがきっかけで大ヒットにつながるケースもあるブルーライト文芸。若者だけでなく、大人世代にも響く内容がブームの後押しをしているのかもしれない。

【掌編小説(しょうへんしょうせつ)】
神奈川県生まれ。2020年から小説投稿サイトやX(旧Twitter)で作品を発表。著書にX発の140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)。ウェブトゥーン(縦読み漫画)やボイスドラマ(声劇)にも原案を提供している。『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)で長編小説デビューを果たした。

<構成/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
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