社会風刺が効いた作品を、とんねるずという「悪ふざけ」がメインのコンビが歌う違和感は、多くのファンの心を揺さぶることになった。
さらに、この流れは1992年リリースの『一番偉い人へ』に引き継がれることになる。お笑いで天下を取ったとんねるずが、あえてもがき苦しむ同世代の気持ちを汲み取ったようなメッセージソングを発表したことで、カリスマ性を高めることに成功した。
◆『ガラガラヘビがやってくる』140万枚超え
このシリアスな名曲たちに挟まれる形で、1992年には『ガラガラヘビがやってくる』をリリース。下ネタ全開のコミックソングで、とんねるずのアーティストとしての幅の広さをここでも見せつけることになった。
『ガラガラヘビがやってくる』は140万枚以上というミリオンセールスを達成。『情けねえ』、『一番偉い人へ』よりセールスが良いというのも、何ともとんねるずらしい結果だと思える。
その後は、『がじゃいも』、『フッフッフッってするんです』、『ガニ』と番組にあわせたコミックソングが多くなり、コンビの人気の高さもあっていずれもヒットしていく。
ただ、アーティストとしての勢いは薄れ始め、最終的には1996年にリリースしたJ-POP調の『おまえが欲しい』で、とんねるずとしてのシングルは終焉を迎えている。
普通であれば、ここで音楽活動は終わらせるところだが、とんねるずの場合は「野猿」、「矢島美容室」でブレイクを達成。それぞれでヒット曲を発表し、長い期間にわたって音楽業界で偉業を達成し続けることになった。こんなお笑いコンビはとんねるず以前にも以降にもいなく、伝説を作り上げていった。
◆とんねるずの歌手活動終焉と同時期にダウンタウン浜田の台頭
余談だが、とんねるずとして歌手活動が終焉した時期には、同じくお笑い業界の大物がヒット曲を発表した時期と重なる。
ダウンタウンの浜田雅功が、小室哲哉と組んだ「H Jungle With t」で『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』をリリースしたのが1995年3月。その後、1996年までに3枚のシングルを発表し、いずれも大ヒットを記録している。
とんねるずがアーティストとして勢いを無くしたのと同時に、H Jungle With tが台頭してきたのは偶然なのか?
とんねるずとダウンタウンは不仲が常に報じられていただけに(現在では当事者たちが否定しているが…)、浜田の歌手活動は、とんねるずに何かしらの影響を与えたと考えるのが普通だろう。もしかしたら、浜田の活躍がとんねるずの歌手活動を終わらせたのかもしれない。
そんなライバル同士の2組だが、今年5月には浜田がテレビ番組『ごぶごぶ』(毎日放送)の音楽フェスで、小室とタッグを組み『WOW WAR TONIGHT』を熱唱。
「H Jungle with t」は実に約29年ぶりのライブ出演となったが、なんの因果かとんねるずのライブも2人だけのステージは29年ぶりとなる。今年は2組が一時的ながら復活を遂げたわけで、お笑い業界にとって記念すべき年になったと言えるだろう。
◆悪ふざけとシリアスのバランスが歌手としての魅力
最後にとんねるずの歌手としての魅力を解説したい。どの楽曲でも言えるのだが、悪ふざけとシリアスが良いバランスで混ざり合っているところが最大の魅力だ。
コミックソングだけに偏らず、かといってまじめなシリアス路線にいきすぎない。絶妙なバランス感覚があるからこそ、それぞれの楽曲の良さが引き立ち魅力を増幅させていくと考える。
また、活動の中で2人は生歌にこだわっていた。お世辞にも石橋に関しては歌がうまいとはいえないが、それでも魂を揺さぶるような歌唱は多くのファンを引き付けて離さない。
歌手活動にも真剣だったからこそ、ここまでとんねるずの楽曲は、いまでも支持をうけているのだろう。
◆『みなさんのおかげでした』最終回の歌唱を超えるか?
今回、『とんねるず THE LIVE』はどんな構成になるのか分からない。ただ、石橋が「テーマは泣かせる」だと宣言しているだけに、推測するなら『迷惑でしょうが…』、『情けねえ』、『一番偉い人へ』などを軸として、さらに「懐かしすぎて泣ける」楽曲も用意するのではないだろうか。
現時点では、2人での歌唱という意味では、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の最終回でラストに歌唱した『情けねえ』が強烈なインパクトと感動をファンに残している。
果たして、このパフォーマンスを超えるライブをみせてくれるのか、期待して11月を待ちたい。
<文/ゆるま小林>
【ゆるま 小林】
某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆
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