同じ傘下のラーメンのずんどう屋も大阪など関西の既存店が特に好調に推移しており、新規出店した13店舗も順調のようで、店舗数は87店舗(2024年3月期)と増えている。

 トリドールホールディングスは、現在、21のブランドを展開しており、適切なポートフォリオマネジメントができるようモニタリング体制を強化中だ。事業・業態・店舗を資本収益性(効率性×収益性)×成長性で把握し、投資に対して優先順位付けしているようだ。

◆製麺・調理シーンを見て楽しむ店内

 丸亀製麵の特徴としては、単に美味しいうどんを提供するだけでなく顧客に感動価値も提供するなど演出力の強化に力を入れている。従業員にもモチベーションの向上として、独自の「麵職人制度」を導入し、労働意欲を喚起している。オープンキッチンのために従業員の動きをお客さんは目の当たりにするが、イキイキ働いている姿を見て気持ち良く食事ができる。

 麺職人の全店配置による品質訴求を徹底しており 2024年3月に全店に麺職人の配置を完了したそうだ。麺職人の制服は襟元が紺色になっており、それを目標に頑張る従業員も増えている。資格取得後もそれに満足せずに、技術向上のため、日々研鑽を積む社風は素晴らしい。

 お客も自分が注文した料理の出来上がりを行列に並びながら待っているが、その間、製麺・調理シーンを見て楽しんでいるから待つ間も苦にはならない。調理シーンだけでなく、生地熟成庫、小麦粉見本、製麵機の製造シーンなどを見やすく配置されている。全店に製麺所を設置したうどん店は他店にない明確な差別的要素になっており、この競争優位が2位以下を引き離す原動力になっているようだ。

 今年1月16日に価格改定した後も、客数は増加基調だ。テイクアウトなどの新たなオペレーションに対応した改装と、本格的な製麺所の風景を再現した改装を同時に実施し、前期に改装した店舗売上は改装前と比較して、平均15%以上増加しており、今期も約100店ペースで改装を予定している。

 肝心の商品力も、季節ごとのフェア商品をさらに強化しており、人気商品、新作を続々投入する予定のようだ。今年6月に導入した「丸亀うどーなつ」は売れ行き好調で、1人3個までと購入制限されるくらいである。昨年は「丸亀シェイクうどん」の異物混入で出鼻をくじかれたが、SNS上で丸亀製麺を擁護する投稿が相次ぐほど顧客ロイヤリティの高い店である。

値上げしても顧客が離れない店づくりを

 家庭の食卓であらゆるモノの値段が上がり、水光熱費の上昇も含めると生活コストが上がることは回避できない現状である。賃金アップが追いつかず、国民の生活が苦しくなる中、品質や量を変えずに実質値下げで提供してくれる小売店や飲食店はありがたい。

 それが生き残り戦略になるだろうが、実際にはそれが原因で倒産する企業が増えているのも事実である。昔と違い今は、値上げしてもお客さんの理解度が高まっているから極端な顧客離反はないようだが、ブランド力がない店はそうはいかない。みんなで値上げすれば怖くないには限度があることを認識しなければいけない。

 そのため、普段から顧客に支持される店づくりを徹底することが求められる。今回、取り上げた2社が属する業界は1位と2位の店舗数の差が大きく、1位企業が強すぎると、プライスメーカー的な存在になりそうだが、けっしてそうではないことがよくわかった。この弛まぬ努力を今後に活かしていただきたい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan