[画像] なぜ現場に戻らなかった? 反町康治GMは何と答えたか。すべては清水のサッカー復活のために「持てる力を注ぐつもりです」

 2020年から4年にわたって務めていた日本サッカー協会(JFA)技術委員長を今年3月末に退任し、5月から清水エスパルスのGM・サッカー事業本部長として新たなキャリアをスタートさせたのが、反町康治氏だ。

 これまでアルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本山雅FCの3クラブで「J1昇格請負人」として卓越した手腕を振るった指揮官だけに、「現場に戻るのではないか?」という声も関係者の間では根強かった。実際、本人も技術委員長の退任間際に「海外という選択肢もある」と発言。「国外での監督業」で再出発する可能性もないとは言えなかった。

 だが、本人が選んだのは、“故郷”清水に戻る道。オリジナル10の名門クラブ再建が次なる大仕事となったのだ。

「今の気持ちをポルトガル語で言うと、『サウダージ(郷愁)』という感じ」と5月1日の就任会見でも語っているが、高校時代は清水東高で全国制覇を成し遂げるなど、いつか地元に帰って恩返ししたいという思いは、心のどこかにあったのかもしれない。

 そんな反町GMに6月下旬に単独インタビューを実施。真っ先に「なぜ現場に戻らなかったんですか?」と直球質問をすると、こんな回答が返ってきた。
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「まぁ、ジャージを着てグラウンドの上には降りてはいないけど、現場というイメージでサポートをしているから、戻らなかったという感覚はあまりないですね。JFAで4年働いていたから、現場に戻っても何ができるか分からないところもあるしね。多くの人から『監督をやらないの?』って言われたけど、監督業を長くやっていた人間が次のステップに進むことも大事だと思っています。

 監督として現場で采配を振るった後に、協会や会社のマネジメントに携わっている人はそんなに多くない。頭に浮かぶのは岡田(武史=FC今治会長)さん、西野(朗)さん...くらいで、ホントに数えるほど。だったら、こうした先駆者になるのも大事かなと。もちろん全ての物事はタイミングとやりがいを感じるかどうかだけど、今回はオファーをいただいた清水でチームマネジメントに携わらせてもらうことを決めました」と、彼は静かに言う。

 目下、清水の指揮を執るのは、反町GMの新潟時代の教え子・秋葉忠宏監督。彼は昨季途中に就任し、最終節で水戸ホーリーホックに引き分けてJ2・4位に転落。J1昇格プレーオフ参戦を強いられ、決勝まで勝ち上がったが、東京ヴェルディに終盤に追いつかれ、1年での最高峰リーグ行きを逃してしまった。

 その秋葉監督が続投した今季は序盤から快進撃を見せていたが、5月途中から思い通りの試合展開にはならず、6月突入後は3敗。第21節・ブラウブリッツ秋田戦で負けた時点で首位の座を明け渡す形になっている。

「エスパルスはJ1にいるのが望ましいチーム。今、目ざすべきなのはJ1昇格」と就任時のマニフェストに掲げた反町GMも今、強い危機感を覚えているはずだ。

「JFAで技術委員長をやった時もそうでしたけど、自分は現場には口を出さないのが基本。日本代表の森保監督と仕事をしていた時は、試合後に毎回、改善点と収穫をまとめた資料を作成し、それを渡して説明。現場に取り入れるかどうかは監督の判断に任せていました。

 秋葉監督に対してもスタンスは変わりません。客観的に見ても、今季のトップチームがやっていることは間違ってはいないと感じている。ここ最近は結果が出ていませんけど、何かを大きく変える必要があるとも言い切れない状況です。

 とはいえ、6月に入って勝てなくなったこともあり、秋葉監督とは長い時間をかけて話をしました。ただ色々な事をたくさん挙げてランダムに話をするというよりも、焦点を絞って改善してほしいところは言わせてもらいました。彼とは新潟時代に一緒に仕事をしているので、オープンに話せるし、秋葉監督自身も積極的に意見を吸収しようという姿勢を見せてくれている。それは有難い限りです」

 規律や基準を重んじ、責任の所在を明確にしようという反町GMの考え方は、現場を指揮していた頃と全く変わらない。2012〜19年の8年間、チームを率いた松本時代を振り返っても、反町GMは選手の実績や知名度に関係なく、チームの約束事やタスクを確実に遂行してくれる選手を迷わず起用。基準に満たなかったり、役割を果たさなかった選手が短期間で外に出ていくケースも見られた。
 
「現代サッカーはうまい選手の集団ではダメ。某牛丼チェーン店の『うまい・やすい・はやい』じゃないけど、うまくて走れる選手が何人いるかが重要なんです。今のエスパルスを見ると、うまい選手は数多くいますけど、両方をこなせる選手はたくさんいるとは言い切れないところがありますね。

 J2全体のレベルが上がり、J1昇格は決して容易いことではない。それを再認識したうえで、チーム全員が目線を合わせ、走力や強度を引き上げていく必要があるという認識はあります。そういった意見も現場に伝えて、アプローチを考えてもらっています。

 とにかく、『1年でJ1昇格』というのはGMである自分に課せられた責務。それは強く自覚しています。今はまだ2か月も経っていないので、会社の研修、組織の把握、関係先とのネットワーク作りに忙殺されていますが、自分が何をすべきかをより真剣に考えて、できることをやっていきたい。清水のサッカー復活のために持てる力の全てを注ぐつもりです」と、反町GMは目を輝かせる。

 彼が赴いたクラブ・組織は必ずと言っていいほど前向きな方向に進んでいる。だからこそ、清水の山室晋也社長も彼を抜擢したのだろう。その期待にどう応えていくのか。新たな挑戦は始まったばかりだ。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)