◆確実に当選を狙おうとする「選挙戦術」だった?

現職の石原氏は選挙活動をしなくても、震災対応という公務に専念すれば、その動向を新聞・テレビが伝えてくれます。そこで名前も伝えられるわけですから、公務の名を借りて実質的に選挙活動ができるのです。

しかし、ちゃんとした選挙活動はしていないので、新聞・テレビがほかの候補者の動向を伝える時間は短くなります。現職はステルス選挙に持ち込むことで、選挙戦を有利に戦えるのです。

小池氏もステルス選挙に持ち込もうとしていたフシがあります。なぜなら、4月に実施された東京15区補選で、小池氏はつばさの党から執拗に追いかけ回されたからです。小池氏は乙武洋匡候補の応援演説のために連日にわたって江東区に足を運びましたが、そのたびにつばさの党が現場に現れました。

今回の都知事選では、事前から小池氏の学歴詐称疑惑などが取り沙汰されていました。また、つばさの党から代表の黒川敦彦候補が獄中から出馬しています。黒川候補は街頭に立つことはできませんが、埼玉県朝霞市の外山麻貴市議会議員が代理者となって選挙活動をしたのです。

そうした事情を踏まえれば、小池氏がステルス選挙に徹して選挙を乗り切ろうと考えることは確実に当選を狙おうとする選挙戦術といえます。実際、小池氏は告示日となる6月20日には少ない支持者だけを集めて出陣式を実施しただけで、街頭に立って第一声を発していません。

◆15年以上蓮舫候補を取材した筆者が出馬表明に思ったこと

選挙戦初日に実施する街頭演説を第一声と呼び、陣営の気を引き締ることや支援者に意気込みを伝えるといった意味合いもあります。だから、第一声は非常に重要です。

小池候補は選挙の常道でもある第一声を封印しました。それによってステルス選挙へと持ち込み、都知事選を勝てると踏んでいたのかもしれません。しかし、石原氏がステルス選挙で勝った2011年と、2024年では選挙を取り巻く情報環境は大きく変わっています。

2011年はインターネット環境が整備されていたとはいえ、まだ選挙でSNSを駆使するような環境にはなっていなかったのです。

というのも、公職選挙法では文書・図画の頒布が厳しく制限されていたからです。当時はインターネット、特にSNSの更新も文書・図画の頒布にあたると解釈されていました。しかし、現在は選挙戦でSNSを更新することは当たり前になり、街頭演説の予定をお知らせしたり、リアルタイムで映像を流したりといった行為が選挙戦でも大きな力を発揮するようになります。

人気の高い蓮舫候補が街頭演説を実施すれば、それはインターネット空間で拡散されていき、選挙戦をリードできるのです。筆者は、これまで15年以上も蓮舫候補を取材してきました。都知事選へ出馬表明した際には「正気か!?」と疑い、勝てないと直感しました。

◆「嫌われ役・恨まれ役」になりやすい立場だからこそ…

蓮舫候補は2004年に参議院議員に初当選して以来、常にスポットライトを浴びる存在でした。特に2009年の事業仕分けで話題を集めましたが、20年間という長い参議院議員生活ではほかにもたくさんの実績を残しています。

しかし、それはあくまでも15年以上も取材してきたから熟知しているだけで、世間一般では事業仕分けや行政改革というイメージが固定しています。

事業仕分けや行政改革が、非常に大変な仕事であることは理解しています。これまでの予算を無駄と断じて廃止すれば、それまで予算をつけてもらっていた人たちや部署からは恨みを買います。

誰もが必要な仕事と認識しながらも、他方で嫌われ役・恨まれ役になりやすい。それが行政改革であり、事業仕分けです。それが旗印の蓮舫候補が、無敵の強さを誇る現職の都知事に勝負を挑んでも勝てるはずがありません。