[画像] 【A4studio】東京の「子供部屋おじさん」は裕福…地方とは大きく異なる「実家暮らし」の事情

「子供部屋オジサン」なる言葉を聞いたことがあるだろうか。この言葉は2014年ごろに日本のネット掲示板サイト「2ちゃんねる」(現「5ちゃんねる」)が発祥とされている、「社会人になってからも実家の自室で暮らす中年男性」といった意味の造語だ。

そんな世間的に揶揄されがちな「子供部屋オジサン(オバサン)」であるが、一方では給料が上がらない物価高の現状のなかでは、実家で暮らすのが合理的な選択肢だ、という声もある。今回は「パラサイト・シングル」という言葉の生みの親であり、家族の在り方についても研究する中央大学教授・山田昌弘氏に、“中年の実家暮らし”の実情などについて話を聞いた。

記事前編は「『中年・実家暮らし』に厳しい視線…子供部屋おじさんはなぜバカにされてしまうのか」から。

地方では実家暮らしは当たり前

また山田氏によると、地方と都会とでは実家暮らしの事情に大きな違いがあるとのこと。そこで実家が地方にある場合と東京にある場合を比較しつつ、それぞれの実情を解説していただこう。

まずは地方における実家暮らしについて。

「地方では、企業から転勤を命じられるケースなどを除けば、地元に生まれて一人暮らしをする人はほぼいないでしょう。その理由は3つあります。1つめは地方の若者の収入が低いこと。2つめは実家が広いため子供が悠々自適に暮らしやすいこと。3つめは世間体を気にして親が一人暮らしをさせないようにしていること。これは親と離れて暮らすことで親子の不仲を周囲に噂されるといった、地方社会ならではのリスクが考えられるからです。

地方は東京に比べると実家の敷地面積が広く、兄弟姉妹が2、3人いてもそれぞれが1人部屋を使えるというのがよくあるケース。こうなると子供たちもわざわざ実家を出なくてもいいのではないか、という考えに落ち着くのでしょう」

東京の「子供部屋オジサン」は裕福?

それに対して、東京の実家暮らしはだいぶ事情が異なるそうだ。

「東京は地方と比較して単身世帯の割合が高く、地方から上京してきた人たちのほか、実家が狭くて居心地が悪いため一人暮らしをする人もいます。こうしたケースは以前より少なくなってきているものの、東京における一人暮らし世帯が多い一因だと考えられます。

一方、東京で実家暮らしを続ける人たちは、実家が広くて居心地がいいと感じている場合が多いです。要するに親が比較的裕福であるというケースのため『子供部屋オジサン』が生まれやすい環境となります」

深刻なケースは……

そんななか、深刻な問題に発展してしまう可能性があるのが、親がそこまで裕福ではない家庭の「子供部屋オジサン」だという。

「親がまだ働ける年齢のうちはいいのですが、親が高齢になり仕事ができなくなると、今度は依存していた子供側が稼いで養わなければならないという、“逆パラサイト”のようなことも起こります。しかし子の経済力では生活を支えられず、貧困に陥ってしまうというケースが近年は散見されているのです。実家暮らしでも裕福な暮らしができるかどうかは、まさに“親ガチャ”と言えるでしょう」

親が高齢になって危機に直面

「子供部屋オジサン」はどんな“未来”にいきつくのだろうか。分析すると問題点が見えてくる。

「現代において独身で実家暮らしを続けるメリットは、親がある程度裕福であれば自分の好きなように自由にお金を使えることですが、そのメリットも当然ながら永遠には続きません。親が高齢になって介護が必要になったとき、また親が亡くなったときに親に依存していた子供は初めて危機に直面します。

私がこれまで取材、研究してきたパラサイト・シングルたちは、その多くが将来のことをきちんと考えていませんでした。いつか結婚して親の家を出て行くはず、と思っている人がとても多かった。そして、親の高齢化で危機が訪れた際に、そこではじめてどうしていいかわからず、慌てふためくといったケースを多々見てきました。短期的な目先の快適さに流されて自立することを怠っていると、後々になって大きな問題がふりかかってくるわけです」

親に依存し続ける人が増える

最後に、今後の日本における実家暮らしの形がどうなっていくのか予想してもらった。

「今後は昭和のころのような親に収入のすべてを託す実家暮らしのスタイル、そして近年目立ってきている親に依存し続ける実家暮らしのスタイルが併存していくでしょう。しかしその割合は五分五分というわけではなく、前者のようなスタイルは親が貧困でない限りなかなか見られないケースですので、後者のスタイルが増えていくと予想しています。そして、晩婚化・未婚化にさらに拍車がかかってしまうのではないかと大変危惧しています」

――Xのポストで指摘されていたように円安、物価上昇、賃金横ばいなど厳しい経済状態が続けば、「一人暮らしへのハードルはより高くなっていく」と山田氏は言う。

いずれにしても、実家暮らしの独身者を「子供部屋オジサン(オバサン)」と一括りにして揶揄するのではなく、経済的に親と協力し合っているのか、それとも親に依存状態になっているのかで、内情や将来性はだいぶ違うということだろう。

(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)

「中年・実家暮らし」に厳しい視線…子供部屋おじさんはなぜ揶揄されるのか