[画像] 「予想外の結果」になる可能性が高まった…都知事選「最新の情勢調査」で見えてきた"勝敗を分ける要素"

東京都知事選挙が6月20日に告示され、これまでで最も多い56人が立候補した。フリージャーナリストの宮原健太さんは「自民党が告示前に計3回実施した情勢調査によると、いずれの調査でも現職の小池氏がトップの支持を集めている。一方、8〜9日実施分では蓮舫氏との差が5.7ポイントにまで縮んできている」という――。
写真左=時事通信フォト/写真右=筆者撮影
東京都知事選が告示後初の週末を迎え、街頭演説する(左から)小池百合子氏、石丸伸二氏、蓮舫氏 - 写真左=時事通信フォト/写真右=筆者撮影

■告示前に行われた「情勢調査」から見えてくるもの

6月20日に告示された東京都知事選。現職の小池百合子氏と民進党代表などを歴任した前参院議員の蓮舫氏の対決が焦点となっているほか、ネット上で人気を集める前安芸高田市長の石丸伸二氏がどこまで支持を伸ばすのかに注目が集まっている。

永田町では自民党が告示前に実施した情勢調査が出回っており、その内容から選挙戦の今後の行方も浮き彫りになってきた。

筆者が入手した自民党による情勢調査は、投票先として「小池百合子」「蓮舫」「石丸伸二」「その他の候補者」「わからない・まだ決めていない」を挙げ、6月1〜2日、8〜9日、15〜16日の3回にわたって実施。

その結果、1〜2日は小池氏が43.1%の支持を集め首位となり、蓮舫氏が33.0%と続き、石丸氏8.1%、その他6.6%、わからない9.2%となった。

自民党が告示前に実施した情勢調査を基にプレジデントオンライン編集部作成

同じく8〜9日は小池氏40.3%、蓮舫氏34.6%、石丸氏9.7%、その他6.4%、わからない9.0%。

15〜16日は小池氏43.6%、蓮舫氏32.1%、石丸氏8.3%、その他7.8%、わからない8.2%となっている。

どの時点でも小池氏がトップとなっているが、8〜9日は蓮舫氏との差が5.7ポイントにまで縮んでおり、逆転可能性が考えられる情勢となっている。

■国民民主党の支持者の投票先が割れている

さらに情勢調査では支持政党別の投票先についても集計されているのだが、そこからは今後の情勢を左右すると見られる要因について分析することが可能だ。

小池氏は自民党、公明党、国民民主党東京都連が自主的な支援を表明しているが、実際に自民と公明の支持者のそれぞれ約8割が小池氏を支持している一方で、国民民主の支持者は約4割の支持にとどまっている。

そして、立憲民主党、共産党、社民党が支援している蓮舫氏は、3党の支持者のそれぞれ約7割の支持を集めているが、国民民主からも35%の支持を集めているのだ。

つまり、国民民主党の支持者は小池氏を支持するか、蓮舫氏を支持するかで割れている状況となっている。

写真=時事通信フォト
街頭演説する小池百合子氏(2024年6月23日、奥多摩町) - 写真=時事通信フォト

国民民主党と言えば、日本最大の労働組合の中央組織「連合」の中でも、民間企業系の労働組合が中心となる「同盟系」によって支えられている政党だ。

民間企業は政府の経済政策によって業績が左右される可能性があるため、国民民主は自民と協調路線を取ることもあり、民主党系の中でも政治的にはやや保守的な立場になる。

また、連合は経営陣と協力して会社の利益を上げ、その中で労働者の待遇を改善していこうとする「労使協調」の路線を取るため、資本主義から共産主義への転換を訴える共産党とは相容れず、共産との選挙協力も忌避する傾向にある。

■人口移動が激しい東京都ならではの選挙戦略

一方で、蓮舫氏については共産が前面に立って支援を行っている。

人口移動が激しい東京都では、そもそも都内の民間企業などに勤めている人たちが千葉や埼玉、神奈川などの近郊から通勤していて、都内の投票権を持ってない場合も多いため、連合による集票力は他の地域に比べて弱くなってしまいがちだ。

それよりも、市民運動の参加者や共産党の支持者など、リベラル層の票のほうが稼ぎやすいという事情があり、立憲の東京都連は共産との選挙協力に積極的で、連合とは距離を取る傾向にある。

こうしたことから、蓮舫氏は「立憲共産党」とも揶揄されているわけだが、その中で国民民主都連と連合東京は小池氏の支持に回ったわけだ。

ただ、小池氏は自民からの支援も受けているため、小池氏を応援することは自民と一体だと批判されかねない。

現在、自民党は裏金問題で大逆風となっており、その再発防止のために行われた政治資金規正法の改正も不十分ということで、支持率は現在進行形で低迷しており、野党各党は自民との対決姿勢を強めている。

■公約に「労働政策」を盛り込んだワケ

実際に、国民民主も19日の党首討論では、玉木雄一郎代表が岸田文雄首相に対して辞職を求め、20日には立憲が提出した内閣不信任決議案に賛成し、岸田政権に対してノーを突き付けた。

こうした中、連合東京も都知事選において傘下の産別組織が蓮舫氏を支援することを容認する考えを示しており、それが今回の情勢調査では国民民主党支持者の投票先の分断に繋がったと言えるだろう。

こうした流れに対して、蓮舫氏も支持を広げようとしている動きが見て取れる。

筆者撮影
街頭演説する蓮舫氏(2024年6月23日、錦糸町駅前) - 筆者撮影

蓮舫氏は都知事選の公約として「7つの約束」を掲げたが、その1つ目に「現役世代の手取りを増やす」という政策を掲げ、具体的には「新しい条例で、東京都と契約する企業に、働く人の待遇の改善を要請する」ことや、「東京都の非正規職員を、専門職から順次正規化するなど処遇改善を進める」ことなどを盛り込んだ。

これらの労働政策は連合東京や国民民主支持者をターゲットにした内容とも言え、蓮舫氏がリベラルの岩盤支持層だけでなく、さらにそこからパイを広げようとしていることが分かる。

選挙戦の中でこの蓮舫氏の戦略が功を奏するか否かが、小池氏と蓮舫氏の勝敗を分けることになるだろう。

■「第三の勢力」支持拡大の背景にあるもの

こうした中で第三の勢力として台頭しつつあるのが石丸氏だ。

石丸氏の支持層を分析するとほかの候補にはない特徴が見て取れる。

筆者撮影
街頭演説する石丸伸二氏(2024年6月23日、戸越銀座商店街) - 筆者撮影

支持政党別の投票先を見てみると、れいわ新選組と参政党の約2割から支持を受け、さらに調査の一覧にはない「その他」の政党(NHK党や日本保守党などが含まれると見られる。無党派層は別に聞いているため含まれない)の支持者から約3割の支持を受けているのだ。

新興政党の中でもれいわ新選組はリベラル、参政党は保守のイメージが強い。

実際にれいわの約45%は蓮舫氏を支持し、一方で参政党の約6割は小池氏を支持している。

なぜ、この両極端な2つの政党から、2割という一定の支持を石丸氏が集めているのか。

それは、石丸氏の支持層においては保守とリベラルというようなこれまでの対立軸は通用せず、それよりも「現状を変えてくれそうか否か」に重点が置かれていると言えるからではないだろうか。

小池氏は自民党など、蓮舫氏は民主党などで長く活動を続けてきた政治家で、既存政党とは切っても切り離せないような存在だ。

そうであるが故に、既存政党の政治に辟易としている新興政党支持の有権者が、石丸氏の支持に流れたわけだ。

そのように考えれば、「その他」から3割もの支持を受けていることも合点がいく。

石丸氏の支持拡大の背景には、既存政党への信頼の失墜があるとも言えるだろう。

都知事選の投開票日は7月7日の七夕だ。

その結果は都政だけでなく国政にも大きな影響を与えることになるかもしれない。

都内各地で舌戦が繰り広げられる中、都民は誰に次の都政4年間を託すのか、選択が迫られている。

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宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。
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(ジャーナリスト 宮原 健太)