来日したオアシスのセス・フィッシャー氏は会見を開き、複数の花王製品を手に取りながら熱弁を振るった(撮影:尾形文繁)

「花王は今こそよりよい企業になるべきだ」

モノ言う株主として知られるオアシス・インベストメント・マネジメントのセス・フィッシャー最高投資責任者が来日し、4月8日の会見で花王に対する要求をぶちまけた。

オアシスによれば、花王にコンタクトしたのは約9カ月前のこと。社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された。

オアシスは花王株の3%超を握っているとする。直近ではドラッグストアのツルハホールディングス(HD)やエレベーターメーカーのフジテックなどの株式を買い増してきた。ただ、花王の時価総額は約2.8兆円。オアシスの日本での投資案件としては最大規模とみられる。

強面ファンドの変化

オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。

フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ。

ツルハHDでも取締役会が鶴羽順社長ら創業家に牛耳られており、ガバナンス面で問題があると訴えた。最終的にイオンに保有株式を約1000億円で売却することでエグジットしたが、手法は似ている。

今年3月にはMBO(経営陣による買収)をめぐって買い付け価格に異議を唱えた大正製薬HD案件でも、土地の売買について創業家を攻撃している。

だが今回、花王に突きつけた要求は、これまで得意としてきた“戦法”とは中身が異なる。

ブランド集約は”不十分”

8日の会見でセス氏は「海外大手ブランドと比べても花王のブランドは多すぎる。もっと絞り込むべきだ」と主張。さらに「優れた製品があるにもかかわらず、積極的な海外展開が見られない」と日本国外の市場へのより積極的な進出を訴えた。


花王の日焼け止め商品を手に取り、経営課題について熱く語るオアシスのセス・フィッシャー氏(撮影:尾形文繁)

確かに花王はここ数年、業績不振に悩まされてきた。

2019年度まで7期連続で営業最高益を更新したが、20年度以降は4期連続の営業減益。19年度に2117億円あった営業利益は、23年度に600億円まで縮小。23年度に計上した547億円の構造改革費用を除いても、収益悪化は明白だ。

背景にはインバウンド需要剥落や原料高騰といった外部要因のみならず、花王固有の問題が重なっている。

オアシスの指摘どおり、花王は過去10年間で商品数が倍増している。消費者ニーズの広がりに合わせて商品を細分化したためだが、結果として1つの商品に充てるマーケティング費用や研究費が分散した。

海外進出も出遅れている。花王の消費者向け(コンシューマープロダクツ)事業の23年度の海外売上比率は35%にとどまる。

花王は足元で利益重視に方針転換し、低収益なSKU(商品の品目数)の削減や、ブランドの売却・撤退を進めている。

昨年8月には紙おむつ「メリーズ」の中国生産撤退を発表。化粧品では中価格帯メイク「コフレドール」「オーブ」の販売終了を決めた。茶飲料「ヘルシア」はキリンビバレッジに売却する。スキンケアの海外展開では、とがった技術を武器に攻略を目指している。独自技術を生かせる領域で、差別化を図る戦略を掲げる。

しかし、オアシスはこれでは不十分と指摘する。例えば、長谷部佳宏社長は21年1月の社長就任時に、「アナザー花王」という新事業の構想を掲げた。「未来の成長エンジンとなる新事業」として、健康状態の予測ができる技術などを事業化する方針だ。

だが、オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい。

経営陣の交代に含み

セス氏は「(社長交代が必要とは)今日は言わないでおく」と経営トップのすげ替え要求に含みを持たせた。意見の対立がさらに先鋭化すれば株主総会で議決権の奪い合いに発展する可能性もある。

花王側は「オアシスの主張では、23年度決算で示した積極的なポートフォリオ管理と構造改革について、残念ながら十分な理解がなされていません」(4日リリース)と公表した。

改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか。多くのファンを抱えるブランドを展開する花王だけに、影響は大きい。議論の行方次第では、消費者をも巻き込んだ“場外乱闘”へと発展しかねない。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)
(梅垣 勇人 : 東洋経済 記者)