小林製薬の「紅麹サプリ」をめぐる健康被害は、いまだ「原因究明の途中」(自見英子・消費者相)とされ、問題収束の気配は見えない。実は今回の一件で「日本以上にパニックに陥っているのが中国」といい、そこには意外な理由があった――。

 ***

【写真】「えっ、あの商品も!?」 中国で「神薬12」に選ばれた日本の“医薬品”一覧

 小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」を摂取後に医療機関を受診した人は1200人を超え、同社への相談件数は5万3000件を上回った。すでに200人以上が入院し、5人が死亡する事態を受け、政府は「機能性表示食品」で健康被害が出た際は、製品との因果関係が不明でもメーカー側に「被害報告」を求める新たなルールづくりの検討に入った。

中国のSNSより

 日本人だけでなく、そんな状況の推移を固唾を飲んで見守っているのがお隣の中国という。中国事情に詳しいインフィニティ・チーフエコノミストの田代秀敏氏がこう話す。

「今回の小林製薬による不祥事は、中国では“ショッキングな事件”として受け止められ、国営全国テレビが朝のニュースで背景まで掘り下げて詳細に報じるなど、庶民の関心も非常に高い。というのも、中国で小林製薬は『花王』とならぶ“日本のトップブランド”の健康関連メーカーとして認知されてきたことが背景にあります。同社の使い捨てカイロや『熱さまシート』の人気は知られていますが、実は肩コリなどに効く鎮痛消炎剤『アンメルツ』シリーズや納豆菌培養エキスを含む健康サプリ『ナットウキナーゼ』などは〈日本製神薬〉と呼ばれ、きわめて高い信頼を得ていた。ところが今回の問題発覚を受け、“ウソでしょ!?”と中国庶民の多くが茫然自失の状態に陥ったのです」

 そして事件から日が経つにつれ、「騙された」や「裏切られた」と怒りの声を上げる人が急増しているという。

「詐称」「隠蔽」「毒入りサプリ」の声

 田代氏が続ける。

「中国の人たちは“漢字の字面をマジメに読む”ので、大半の中国人は小林製薬という社名から、同社を医療用医薬品を製造する大手医薬品メーカーだと認識していました。ところが一連の報道によって、同社の商品を占めるのは薬局などで買える一般用医薬品や健康食品である事実を知り、最初に上がったのが『社名の詐称だ』といった声でした」

 中国でも「紅麹サプリ」は通販で買えるが、現時点で被害は報告されていないという。しかし台湾で同サプリを服用後に「腎機能の低下」など健康被害を訴える報告が10件を超えたことで、「毒入りサプリ」として大騒ぎに――。

「中国の人たちが小林製薬へ不信の念を強めているのは、〈原因究明〉とともに創業家が支配する会社の〈経営責任〉追及が遅々として進まないことです。おまけに問題の公表まで2カ月を要したことも現地メディアは伝えており、“隠蔽疑惑”まで浮上したことで同社の信頼は完全に地に堕ちました」(田代氏)

 小林製薬の海外売上高は422億円(23年12月期決算)にのぼり、うち中国(香港含む)は32.3%とアメリカに次ぐパーセンテージを占める。伸び率で見ると、中国はアメリカの3倍近くになる“稼ぎ頭”だったが、今回の一件で暗転。しかし本当の問題は、すでに小林製薬という一企業のワクを越え、他の日本企業にも影響が“飛び火”している点という。

習近平が“ダンマリ”を決め込むワケ

「“神薬”と謳うほど全幅の信頼を置いていた同社に裏切られたショックから、“あの小林製薬がそうなら、他の日本ブランドだって……”と、いまや中国庶民の懐疑の目は日本製品全体に及び始めています。実際、これまで中国の人たちから熱烈な支持を得ていたトヨタ車の売り上げにも冷や水を浴びせかねなくなっており、品質の高さに定評がある化粧品メーカー『資生堂』も例外ではなくなっている。中国市場で確固たるブランドを築いてきた資生堂はフランスの化粧品大手ロレアルの攻勢を受け、以前から守勢に回っていましたが、今回の“小林製薬ショック”によって一段と不利な立場に立たされたと見られています」(田代氏)

 他にも、中国に1000店以上のユニクロ店舗を構えるファーストリテイリングや600店近くを出店する吉野家ホールディングスも「内心、戦々恐々」としているのは同じという。

「実際に中国の人たちと話すと、本土だけでなく香港や台湾、シンガポールなどを含む中華圏で日本製ブランドが存立の危機に瀕していると感じます。小林製薬の問題について、中国政府はあえて言及を控えていますが、逆にそれが事態の深刻さを物語っている。トヨタやユニクロなど中国に進出し成功している日本企業は、現地で中国人を大量に雇用し、地元経済に貢献する立場にある。小林製薬の問題に関して中国政府が何か言うことで、もし他の日本企業の営業に悪影響を及ぼすことになれば、中国経済にとってもマイナスとなりかねない。習近平政権としてはひとまず静観し、日本で下される小林製薬への処分の行方を見守る構えと伝えられます」(田代氏)

「罪深き」は小林製薬。どうケジメの付けるのか、世界が注目している。

デイリー新潮編集部