近ごろ「毒親」というワードを聞くことが増えた。「デジタル大辞泉」によれば、毒親とは「俗に、子供に悪い影響のある親。児童虐待に該当する行為で子供を傷つけたり、過干渉・束縛・抑圧・依存などによって子供の自立をさまたげたりする親」を指すとある。
 警察庁が2023年4月4日に発表した調査によれば、児童虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)などの犯罪被害者の約4割が、警察や家族など誰にも相談をしていないという。幼少期より両親から激しい児童虐待を受けてきたという、東京都内在住の吉田かな子さん(仮名・36歳)も、悩みを誰にも打ち明けられなかった一人だ。詳しく話を聞いた。

◆母親から殴る蹴るの暴力を受けた

「母はしょっちゅうかんしゃくを起こしました」と語るかな子さん。小学校6年生のときには殴る蹴るの暴力を受けていた。

「なぜ怒られたのかは今も思い出せないのですが、意識が遠のいて死を覚悟したこともあります。子どもは親の所有物なので、何をしてもいいという思い込みが母親にあったのかもしれません。また、私が小学校でいじめに遭ったときも『いじめられるほうに問題がある』と言い放っていました。だめな教師のテンプレ説教みたいですよね(笑)。私がいじめを受けて、登校を渋るということは母の『想定外』だったんですよ。だからパニックになって、とっさに発言してしまったのだと思います」

 さらに、父親もかな子さんにつらく当たっていた。子ども部屋のドアをドライバーで外されたり、しょっちゅう容姿をけなされたという。

◆子供部屋のドアを勝手に外す父親

「子どものプライバシーという概念がなかったんでしょうね。父がドライバーでドアを外す作業する姿を今でもはっきりと覚えています。『なんで外すんだろう』と不思議でした。また、学校の制服を着てストーブの前に立っていたら『脚が短い、それに太い』と笑われたり、両親から脚の長さを測られて『短い』と笑われたことも。私は小学生のころにサッカーを習っていたので、脚が多少太いのはしょうがないんですよ。でもそういう事情を汲むでもなく、目についた情報をなにも吟味せずにそのまま口にしたんでしょうね」

 そういった行為で子どもがどれほど傷つくかもわからなかったのだろうか。当時を振り返って、かな子さんは「本人たちはむしろ家族団らんの題材くらいのつもりだったんでしょう」と推察する。ちなみに父親の奇行は日常的だったという。

高校生になって初のゴールデンウイークで

「児童養護施設に出かけて『養子をくれ』と施設長に直談判して、もちろん断られて帰ってきたこともあります。また孫を異常なまでに欲しがっており、私が結婚の見込みがなくて孫の顔を見せることができないから、突発的に取った行動だと思います。私と姉という実子が2人もいるのに養子をもらおうとすることが、子どもをいかに傷つけるかといったことがわからないんですよね」

 さらに事件は、彼女が高校生になって初めてのゴールデンウイークで学校から大量の課題を出されたときにも起きた。

「入学したばかりでやる気に満ちあふれているので、当然頑張って全部こなすつもりだった。ところが母が事前になんの相談もなく、勝手にツアー旅行を申し込んでいたんですよ。『課題があるから旅行には行けない』と言うと、文字通り泣きながらわめき散らして……。結局旅行には参加して、課題はできずに学校で恥をかきましたね。どこを観光したのか今でもまったく思い出せません」

◆両親に内容証明を送り絶縁

 現在は会社員として働くかたわら、「書籍やネットで精神医学の勉強を続けている」というかな子さん。

「親を発達障害と解釈することでいろいろと腑に落ちました。虐待は発達障害だけがもちろん原因ではなくて、両親自身のトラウマもあると思います。両親がトラウマに対して無知・無自覚だったから、感情的になっていたということもあるのかもしれません」と冷静に分析する。