松本抜きでも番組形式を維持

 1月8日にダウンタウン松本人志が突然の芸能活動休止を発表したことで、彼のレギュラー番組を持っているテレビ局は対応に追われることになった。

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 松本がいたポジションに特定の代役を立てる形でリニューアルをしながら継続する番組もあれば、松本だけが抜けた状態でそのまま続けられている番組もある。TBSの人気番組である「水曜日のダウンタウン」では、後者の対応がとられている。

 この番組は、プレゼンターの芸人が提唱する「説」を検証するVTRをスタジオにいるタレントが見る、という形式だ。松本はスタジオにいるタレントのうちの1人だった。彼が抜けた後、今のところは松本がいた場所に何人かの芸人が入れ替わりで座っているが、代役を務めているという感じではない。

TBS「水曜日のダウンタウン」公式ウェブサイトより

 この番組の面白さの鍵は、あくまでも「説」を検証するVTRの内容にある。そのため、松本が抜けても何とか元通りの番組形式を維持することができているのだろう。

TVer初の「再生1億回」突破

「水曜日のダウンタウン」は、地上波でリアルタイム視聴されているだけではなく、見逃し配信でも群を抜いた数字を残している。動画配信サービス「TVer」では再生回数1億回を突破したことでも話題になっていた。これは同サービス史上初めての記録だった。

 演出を担当するTBSの藤井健太郎氏は「1億回という数字に実感はありませんが、1番になれたことはありがたいし、誇らしいです」とコメントした。

 また、一昔前のテレビ業界ではリアルタイム視聴の視聴率だけが評価の基準となっていたが、近年では見逃し配信サービスでの視聴回数も評価されるようになったことも前向きに捉えており、「TVerのこういった数字が評価の対象となることで、純粋な面白さを追求しやすくなりますし、そうすることで、視聴者の方々とも以前よりWin-Winの関係に近づけている気がします」と語っていた。

 ここで藤井氏が「純粋な面白さ」を追求しやすくなる、という表現を用いていることを不思議に思う人もいるかもしれない。見逃し配信があってもなくても、番組作りに携わる人が純粋な面白さを追求するのは当たり前のことではないのか、と。

番組作りに保険をかけない「水ダウ」

 もちろんそれも一理あるのだが、「純粋な面白さ」とわざわざ言っているからには、そこに藤井氏の並々ならぬこだわりと自信があると見るべきだろう。

 逆に言うと「純粋ではない」とはどういうことだろうか。それは、目先の視聴率を確保するために面白さ以外の部分で保険をかけることを意味している。

 たとえば、ほかの人気番組の企画をほとんどそのまま真似したりすることだ。また、人気のあるアイドルや俳優を起用したり、過去に数字を取った企画を何度も繰り返したり、グルメ情報などの実用的な情報を織り込んだりすることもそれにあたる。保険がかかった番組作りをすると、大きな失敗をする可能性が低くなる。

 しかし、「水曜日のダウンタウン」は恐ろしいほど保険をかけていない。定番企画を短いスパンで繰り返すこともほとんどなく、毎週新しい企画を見せている。

「過激」は本質を表していない

 しかも、企画の切り口やVTRの展開に工夫があり、視聴者は毎回新鮮な気持ちで番組を楽しむことができる。

「説」を検証するという企画の枠組みは決まっているが、どういう結果になるのかは最後までわからない。番組が提唱する仮説がそのまま立証されることもあれば、されないこともある。また、どちらでもない意外な展開を迎える場合もある。説の内容自体が興味深い上に、どこに着地するのか全く読めないのが面白い。

 この番組は「過激だ」「攻めている」などと言われることもあるが、そこは本質的なことではない。スタッフが純粋に未知なる面白さを追求していった結果、たまたまそういう仕上がりになることがあるだけだろう。

「徳川慶喜を生で見た事がある人 まだギリこの世にいる説」のように、過激さが一切なく知的好奇心を刺激するような内容の企画も多い。

松本ヌキでも失われない「核の部分」

「水曜日のダウンタウン」では、一つ一つの企画に創意工夫が感じられ、膨大な手間がかけられているのがうかがえる。予算の面でも、人的資本の面でも、このスケール感で毎週毎週ハイクオリティな動画コンテンツを作り続けているのは、驚くべきことだ。

 もちろん、ダウンタウンの2人はこの番組の顔であり、松本の鋭いコメントがもともと面白い企画をさらに面白くしていたことは間違いない。しかし、松本がいなくても「水曜日のダウンタウン」という番組の核の部分は失われていない。今後もそのままトップスピードを保っていってほしい。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部