サッポロの8%以上の缶チューハイは2018年末時点で20商品あったが、現在は「サッポロ 超男梅サワー」の1商品のみだ(サッポロビールHPより)

アサヒビール(以下、アサヒ)に続く英断なのかーー?

2月9日、サッポロビール(以下、サッポロ)は「ストロング系」と呼ばれるアルコール度数が8%以上の缶チューハイで今後、新商品を発売しない方針を固めたと、読売新聞が報じた。同市場で、アサヒの事実上の「撤退」が判明してから、わずか2週間でこの展開だ(関連記事:アサヒが撤退「ストロング系」はなぜ広がったのか)。

理由は、ストロング系の健康リスクや依存症が社会問題となっていることがあげられている。しかし、実際のところは前出のアサヒと同様、RTD(購入後、そのまま飲める缶チューハイなどを指す「Ready to Drink」の略)市場をほぼ独占している、サントリーとキリンの牙城を崩せなかったというのが本音だろう。

サッポロの8%以上の缶チューハイは2018年末時点で20商品あったが、現在は9%の「サッポロ 超男梅サワー」の1商品のみとなっている。

なぜ、サッポロは勝てなかったのか。本稿では、いちユーザーとしてストロング系を嗜み、専門家たちに取材を重ねてきた筆者が、RTD市場における熾烈な争いを解説していきたい。

熾烈なストロング系市場

現在のRTD市場は「-196℃ ストロングゼロ(以下、ストロングゼロ)」のサントリーと「氷結 ストロング」のキリンの2強状態である。そこに、アサヒ、宝酒造コカ・コーラなどが風穴を開けるために、あの手この手を使って市場に参入してきた。

今回の主題であるサッポロも、果敢に2社に勝負を仕掛けてきた。

2004年からRTD市場に参入するも、ヒット商品を出せずに、2007年に一時撤退。その後、2010年に「不二家ネクター」とコラボした「ネクターサワースパークリングピーチ」、2013年にはノーベル製菓のキャンディー「男梅」とコラボした「男梅サワー」がヒットを記録した。

後者は当初、数量限定の発売だったが、わずか2週間で完売したため、すぐさま通年商品となる(ちなみに、このときのアルコール度数は5%だった)。

そして、2018年には本格的に「ストロング系」市場に進出。アルコール度数9%の「99.99(フォーナイン)」は、発売から3カ月で200万ケースという、同社の史上最速記録を樹立した。


筆者も、飲酒していた頃にはよく飲んでいた(筆者撮影)

だが、その後は伸び悩んだようだ。この商品は、従来のストロング系とは異なる「苦み」や「辛口」が売りだったのだが、言い換えると「甘くない」ので一気に飲みにくかったのだ。その結果、「早く出来上がりたい」大人たちのニーズを満たすことができなかった。

とくにクリアレモン味は苦味が強く、次第にインターネット上で「アルコール度数9%の水」と揶揄されるようになった。

かく言う筆者も、以前の記事でも紹介したように、アイスクリームコーナーにある森永製菓の「アイスボックス」に入れて「ジュース」のように飲んでいたくらいだ。

さまざまな商品を発売するサッポロ、12%の商品も…

さらに、2019年4月には、レモンサワーに特化した「レモン・ザ・リッチ」を発売。10月には好みの量の炭酸水で割るだけで、まるで居酒屋で提供されるレモンサワーのような味になる「濃いめのレモンサワーの素」を発表。

後者は2021年からは缶(RTD)でも発売されるようになる(ちなみに、同社はこの年にアルコール度数12%と強炭酸を混ぜ合わせた「マグナム レモン」という”凶悪”な代物も世に出しているのだが、多分誰も覚えていない)。

そのため、筆者はサッポロの缶チューハイは男梅サワーのような「キワモノ」か、99.99のような「辛口」しかないと思っていたため、濃いめのレモンサワーが発売された当初は、まさかこれがサッポロの製品とは思えないぐらい「濃い甘口」であったことと、ストロングゼロよりもジュースのようにごくごく、罪悪感もなく飲めたことを覚えている。

そして、昨年、松重豊が羊に扮したテレビCMでおなじみの「シン・レモンサワー」の出荷数量が発売1カ月で1300万本を突破。これも同社のお家芸である、ポッカサッポロフード&ビバレッジの「ポッカレモン」のレモンマイスターとのコラボ商品である。

そういえば、かつてサッポロとポッカサッポロフード&ビバレッジは、コンビニの栄養ドリンクコーナーに置いてあるキレートレモンをストロング化させた「キレートレモンサワー ストロング」というアルコール度数9%のお酒も出していたが、これは酸っぱすぎたのか、あまり人気が出ずに製造中止となった。

牙城を崩せなかった要因は「檸檬堂」にあり?

このようにRTD市場での生き残りは非常に難しい。サントリーとキリンの牙城を崩そうとしたアサヒとサッポロが撤退を決意するほどだ(今後も両社は似たようなRTDは売り続けていくようだし、サッポロは今ある1商品は残すようなので、「完全撤退」ではないだろうが……)。


(筆者撮影)

ただ、筆者はサッポロもアサヒも広報戦略や市場調査がうまくいっていなかったとは思えない。

むしろ、両社の製品が支持を得られなかった2020年前後に台頭した、コカ・コーラの「檸檬堂」シリーズが市場をかき乱したと考えている。

檸檬堂は「日本コカ・コーラ初のアルコール飲料」という触れ込みで2019年に全国で発売されるようになり、2020年の販売数量は約790万ケースの大ヒット。一時は生産が追いつかずに出荷が停止されるほどだった。

もともとは2018年に「九州先行発売」されていたのだが、筆者のような九州出身の者が帰省したときや、出張者たちが九州に行った際に初めて見るブランドということもあって手に取りやすく、全国発売の前からその存在感は示されていた。

そして、1年半後に満を持して全国で発売されるのだが、やはり日本最大手飲料メーカーのコカ・コーラである。阿部寛を広告塔にしたテレビCMは、ほかの飲料メーカーと比べてもスポンサードしている番組の量が違うため、段違いである。

そして、ダメ押しするかのようにコカ・コーラは2023年には第二の矢として「ジャックダニエル&コカ・コーラ」を発売した。

しかし、これによってコカ・コーラがサントリーとキリンの寡占状態を崩せるかというと、そう簡単な話でもなかったようだ。CCCMKホールディングス株式会社が実施した「【男女総合・購買ランキング】RTDの総合ランキング(TOP30)」によると、1位はストロングゼロ、2位は「ほろよい」というサントリーのワンツーフィニッシュで、3位はキリンの氷結。そして4位は宝酒造の「焼酎ハイボール」で、5位にようやく檸檬堂が入っている。

実は第3の勢力は1984年に日本初の缶チューハイ「タカラcanチューハイ」を発売した宝酒造であり、「焼酎ハイボール」を2006年というストロング系の黎明期に発表してからも、ずっと同じ位置をキープしているのだ。

というわけで、檸檬堂はRTD市場で確固たるブランドを確立できたものの、まだまだ覇権争いには食い込めていないのが現状だ。そして、同ランキングでは14位にようやくサッポロの濃いめのレモンサワーが入っている。

このような歴史と数字を見ても、今回のサッポロの方針転換も、「英断」ではなく、「敗北宣言」と見て取れるのだ。

独自のフレーバーで生き残りを狙う?

なお、今回の記事で取り上げたサッポロは、現在のストロング系の主流である「レモンサワー」と異なり、独自のフレーバーで生き残りをかけようとしているように思える。


出所:サッポロビール公式サイト/外部サイトでは画像をすべて見られない場合があります。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください

しかし、実際はアルコール度数5%と7%の「濃いめのレモンサワー」、5%の「ニッポンのシン・レモンサワー」、6%の「クラフトスパイスソーダ」、3%・5%・7%の「レモン・ザ・リッチ」など、それなりに強い度数の缶チューハイを現在も展開している。

問題の本質はアルコール度数ではない


最近のノンアルコールは、とても美味しい(筆者撮影)

筆者はもっとも多いときで1日に10缶もストロング系を飲み、飲酒量が多いときに値が上昇する肝機能の指標であるγGTが、一般的に40〜60が平均値とされるなか、「2410」という数字を叩き出した経験がある(その後、アルコール依存症と診断されたことを機に断酒、以降何年も一滴もアルコールは口にしていない)。

そのように、ストロング系を湯水のごとく飲んでいたからこそ思うのだが、正直7%と9%のアルコール度数にそこまで大きな違いはないだろう。

度数よりも、価格や、甘さゆえ何本もゴクゴクと飲めることなどが問題の本質なのだから。

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)