THE ANSWER好評企画が復活、ドラゴンが編集部で日本代表戦を観戦

 サッカーのアジアカップ・カタール大会は3日、準々決勝で世界ランク17位の日本代表は同21位イランに1-2で敗れ、8強敗退となった。同点で迎えた後半アディショナルタイムにPKで決勝点を献上。アジア王者奪還はならなかった。高校からJリーグ広島に入団した当初の先輩で、結婚する際、入籍届の保証人になってくれた“心の師”森保一監督が率いる日本代表の戦いを見守ったドラゴン。独自の視点で振り返った解説インタビューに先駆け、先制の歓喜から一転、失意の結末となった模様を余すところなくレポートする。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 この3週間で5度目の中目黒。“映え”を求めた若者が集う街に、“映え”とは無縁のドラゴンが馴染み始めた。

 会話の内容ももはや目新しい近況はなく、平凡な30〜40代の健康トーク。

「それ、めっちゃ痛いんやろ? 大丈夫なん? 俺はアニサキスになったけど、耐えれたんよ。死ぬほど痛かったけど。たまたまその時、歯医者の先生のところ行ったら、レントゲンで(胃に)おって。でも、1日半経っとって、もうアニサキスが死んどったわ」

 尿管結石、痛風を持っている不健康を具現化した編集部2人のコンディションを憂いながら、2月を迎えた寒風の山手通りを歩く。

 引退後、自由を求めた山口の港町・室積でコーヒー焙煎に、塩作りに野菜作り……異色のキャリアを歩む。そんな伝説のストライカーの感性を4年に一度の舞台で輝かせたい。記憶に新しいカタールW杯。編集部に呼び寄せ、缶ビールを飲みながら日本戦を観戦・解説する企画を実施。当時、一部サッカーマニアの間で好評を呼んだ。

 ポケットからガラケーが落っこちるほど興奮した熱狂をもう一度――。今回も二つ返事で快諾してくれた。

 14日、ベトナム戦。

 かつて日本代表時代に“天敵”といわれたトルシエがベトナムの監督をしていることに目を剥きながら、4-2で白星発進。「トルシエ。今、監督なん。(当時は)大嫌いやった。(通訳の)ダバディは好きやったけど。でも、ベトナム強くさせたよな」

 19日、イラク戦。

 よもやの劣勢を強いられ、前半から2失点。決勝トーナメント進出した場合、いきなり韓国との激突する可能性があると知った。「めっちゃええやん。あのめっちゃ点取るFWはまだおるん。フン・ソンミン? ファン・ソンミン?」。ソン・フンミンのことだ。まさかの1-2で敗戦。

 24日、インドネシア戦。

 職人とドラゴンの朝は早い。「釣りしとったんよ。朝、5時から。山口で。関サバとか関アジとか狙って船で40、50分くらい海に出て」。朝釣りを終え、山口から東京に移動する強行軍が実り、3-1で決勝トーナメント進出。順当なら初戦で日韓戦になるはず……だった。

 31日、バーレーン戦。

 グループリーグで韓国が苦杯を舐め、相手が変わった。「ええ、今日韓国じゃないん? 気合入れて髪刈ってきたのに。どうするん、(頭が)寒いよ。相手はバーレーン? バーレーンか……どこや、それ」。頭は寒いが、試合は熱く、3-1で8強進出。

 中2日の過密日程で上京。近所の和食屋で、ハートランドの小瓶7本で喉を潤しながら、冒頭の健康トークの続きに花が咲く。

「体は健康なんやけど、酔っ払って、海に落ちたことあったな。死にかけたよ。ふぁーって気持ち良くなって。(沈みながら)海水、飲んだら目が覚めて。光が差す方に上がって。なんとか岸に上がれたけど、足が血だらけ。岩牡蠣とかおって切れたんやろな」

 そんな野性味あふれる生命力を持った男の嗅覚が、今夜は怖いほど冴えた。

「楽しかったよ、中目黒。飲みすぎたけど。やっぱ、サッカーみんなで観ると楽しいよね」

「板倉、大丈夫か。やらかしそうな感じがする」

 立ち上がり早々。「プシュッ!」と今夜もエビス350mlの快音を響かせた直後、不吉な言葉を口にした。

 前半28分。もぞもぞとトイレに立とうとしたが、なぜかテレビの前にとどまり、画面近くの席にもう一度座る。何かの予感か。その直後だ。連係から攻め上がった守田が右足を振り抜き、先取点。「んあー! 来たよー! ヤバイね! スゴイね!」

 画面にかじりついて絶叫。「自分で作って、自分で決めてスゴイね。上手かったやん」。そう言い残し、急いでトイレに消えた。
 
 幸先良く先制したが、やはり気になるのは日本の4番。「板倉のところ、怖いね」「ポジションが悪いんよ」。再三、不安を口にしながらイランに警戒を強める。「怖いね、嫌やね。イラン、高いやつおらんのやな。アジジみたいな感じやな」

 後半10分。イランのアズムンが板倉の裏を取った味方にラストパスを供給。同点弾を許した。「うめーな、20番(アズムン)。しょうがねえ、上手すぎたよ」

 まだ同点に追いつかれただけ。勝ち越しを祈りながら、驚異の運動量で攻撃にも守備にも顔を出す前田に驚いて、つぶやく。「乳酸が止まらんのやろな。どっから出とるん。頭から出とるんか」。しかし、その時は後半アディショナルタイム6分に訪れる。

 日本陣内深く、イランにロングスローから攻撃を展開される。左サイドのクロスのこぼれ球に板倉と冨安が重なり、直後に相手を倒した板倉がPKを献上。まさかの展開。「コイツが止めるやろ」と鈴木に期待したが、しかし――。

「(直前のロングスローは)ファウルスローやん。ずっとファウルスローやったやん」。悔しそうにうつむき、頭を抱えた。

 そして、あっという間に迎えた終戦のホイッスル。エビス350mlを飲み干し、つぶやいた。

「まあ、しゃあないね。ほぼ板倉の裏を狙われとったよね。怪我でもしとったんか。完敗やね」

 そう言い残し、またトイレに消えた。

 すっきりした状態で実施した解説インタビュー。イラン戦の敗因から、今大会で残った課題、次回W杯へ覚醒を期待する選手まで。思いの丈をぶちまけた。

 日本の敗退とともに、この観戦記もフィナーレ。3週間、全5試合。「サッカー観るより釣りしとる方が楽しいけえ」と言う男の歓喜と興奮が、何度も中目黒の夜に響いた。そして、雄叫びの数だけビールもたくさん飲んだ。

「決勝、優勝して朝までみんなで飲みたかったね。でも楽しかったよ、中目黒。飲みすぎたけど。やっぱ、サッカーみんなで観ると楽しいよね」

 日本は次回W杯に向け、新たな旅路に出る。まもなく長女に第1子が生まれ、47歳のおじいちゃんになるドラゴンは「まあ、俺は釣りでもして、また楽しいことでもないかなっ〜て探すよ。そんな感じよ」と言った。ただ、ボソリと付け加えた一言が、久保竜彦らしかった。

「今日は悪酔いすんなあ。飲まんでどうするん。とことんやろ」

 今夜もいつもの一張羅の黒のジャージとビーチサンダルで、中目黒の夜に消えていった。

 なお、インタビュー記事は近く配信する。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)