1993年にJリーグが発足して初めて、"サッカー王国静岡"のクラブ不在で幕を開けた今季J1。その一方で、今季J2ではJ1から降格した清水エスパルスとジュビロ磐田、J3から昇格した藤枝MYFCの3チームが火花を散らすことになった。
その序盤戦、それら3チームは明暗分けるスタートをきった。
明と出たのは、新興勢力の藤枝だ。いわきFCとの開幕戦では、前半3−0と早々に勝負を決めて(結果は3−2)衝撃のJ2デビューを果たすと、続くホームでの第2節も上位候補のV・ファーレン長崎に2−0と快勝。開幕2連勝を飾った。
地元サポーターが「そもそも"王国静岡"は、藤枝から始まった。清水や磐田と対等以上に戦っても驚きはない」と好発進に胸を張れば、2021年シーズンの途中から指揮を執る須藤大輔監督も、「藤枝旋風を巻き起こしていきたい」とJ2での戦いに自信を覗かせた。
3戦目で初の黒星を喫したが、3戦で5得点はリーグ2位タイ。サッカーに手厚い地元メディアの露出も急増し、記者からは「県内クラブの序列が変わるかも」との声も聞かれ、選手総年俸が先行する2クラブの約10分の1程度と言われる"藤色軍団"の快進撃が大いに注目を集めている。
そんな藤枝とは打って代わって、思うような結果を出せていないのが先輩格の清水と磐田。とりわけ清水に至っては、ルヴァンカップ第1節では川崎フロンターレに勝利したものの、J2リーグでは開幕3戦でいまだ勝ち星がない(3分け)。選手からは「負けてもいないので」とポジティブな声も出たが、出遅れ感は否めない。
今季の清水は幸いにも、降格クラブによくある選手の大量流出はなく、移籍が有力視されていた昨季J1得点王のFWチアゴ・サンタナ、日本代表GKの権田修一、来年のパリ五輪の代表候補でもあるMF松岡大起らがそろって残留を決め、戦力ではJ2屈指。前評判ではJ1昇格やJ2優勝の最右翼候補に挙げられるが、開幕3戦の得点はわずか1(リーグワーストタイ)。3戦連続ドローと厳しい船出となった。
移籍濃厚と見られていたチアゴ・サンタナら主力が残留した清水だが...
要因はある。
昨季途中に就任したゼ・リカルド監督は今季、昨年までの4バックに加え、オプションとして3バックも採用。練習試合での好調を受け、水戸ホーリーホックとの開幕戦では3バックでスタートした。しかし、うまくかみ合わずに後半から4バックに移行し、辛うじて流れを引き戻してスコアレスドローで終えた。
その結果、勝利を期待したファンやサポーターからブーイングを浴びた主力選手は、「(新シーズンへ)準備してきたつもりだったけど、何も積み上げられていなかった」と厳しい言葉に終始した。
さらに、クラブに対する疑問の声もある。ある解説者は、降格しても強化責任者や監督が変わらないことに、「危機感があるのか疑問だし、選手のモチベーションが保たれるか心配」と指摘。「実績のある選手が多いので、結果が出なければ主張し合って、ひとつにまとまらなくなる可能性もある」と警鐘を鳴らす。
片や、ホームの開幕戦で黒星を喫し、3戦目にようやく初勝利を挙げた磐田にも不安材料がある。一昨年に加入したFWファビアン・ゴンザレスの移籍問題で、昨年FIFAから下された1年間の新規登録選手禁止による影響だ。
補強禁止処分を補って、期限付き選手の呼び戻しやユース選手のトップ登録などをできる限り行ない、今季就任した元日本代表コーチの横内昭展新監督は「今のままで十分な戦力がそろっている」と繰り返すが、J1復帰に向けて万全でないことは明らか。特に昨年J1でワーストだった失点は、J2となった今季もここまでで5失点(リーグワースト2位タイ)と、大きな改善は見られない。
事実、ファジアーノ岡山との開幕戦では、後半54分までに3失点。早々に試合を決められた。第2節のレノファ山口戦では、先制しながらも終盤にPKを献上してドロー。白星を挙げた第3節のモンテディオ山形戦も、前半は主導権を握って先制したが、後半は相手のペースとなって一時同点を許すなど、薄氷の勝利だった。
横内監督はチームの初勝利に、「失点しても下を向かず、自信を持ってプレーしている」と評価しつつも、「改善点はまだまだある。一歩一歩前に」とコメント。上方修正を図るには、もうしばらく時間がかかりそうだ。
スタートダッシュにおいて、明暗を分けた静岡のJ2勢だが、まだまだ長いシーズンの序盤だ。選手層の厚い清水と、J2から2度の昇格経験を持つ磐田が、現在の低迷に甘んじるはずもない。藤枝との三つ巴の行方、そして老舗2クラブの今後の戦いぶりが注目される。