複合施設GINZA SIXの目の前に店舗を構えるマツモトキヨシ銀座みゆきAve. 店。インバウンド需要復活に臨戦態勢だ(記者撮影)

「公式アカウントのフォローでクーポンを獲得。免税10%に加えて最大7%の割引も」


マツキヨの店頭では中国語で割引をアピールした貼り紙が目立つ(記者撮影)

2月下旬、マツモトキヨシ銀座みゆきAve. 店の店頭では、こんな中国語のポスターが貼られ、免税対応やSNSを通じたクーポン施策をアピールしていた。

ところ変わってドラッグストアの激戦地、大阪・心斎橋のダイコクドラッグウルトラ心斎橋店店内でも中国語のアナウンスが流れ、中国語対応可能と書かれたバッジをつけた店員たちが中国語で医薬品の説明をしていた。

ドラッグ各社は訪日客増に臨戦態勢

コロナ禍以前のインバウンド(訪日外国人客)全盛期、銀座や心斎橋周辺のドラッグストアでは化粧品や医薬品が飛ぶように売れていた。観光局の調査では2019年の訪日中国人のうち、実に9割近くがドラッグストアで買い物をしていたからだ。しかしコロナ禍で客数は激減。苦しい状況に追い込まれ、インバウンド向けの都市型店を閉店する企業が続出した。


近距離に複数のドラッグストアが立ち並ぶ大阪心斎橋。コロナ禍で閉店に追い込まれた店舗も多いが、訪日中国人のインバウンド需要回復とともに戻ってくる可能性が高い(記者撮影)

ところが2022年12月、中国政府が長らく続いた「ゼロコロナ」政策の緩和を発表。観光局によると2023年1月時点の訪日中国人は、いまだ2019年の5%にも満たない3万人程度。

だが、中国事情に詳しい複数の関係者の間では「2023年5月頃から徐々に回復していくだろう」と囁かれており、ドラッグ各社も準備を整えているわけだ。

中でもインバウンド需要の獲得に向けて準備に積極的なのが、都市型店を主軸とするマツキヨココカラ&カンパニー(以下、マツキヨココカラ)だ。2022年12月末時点でマツモトキヨシ単体の3分の2に当たる約1200店舗を免税対応店に変更し、訪日外国人増加に備える。

外国人観光客がよく訪れる繫華街などに店舗を構えていたこともあり、経営統合前のマツキヨは2019年度単体売上高の13%超に当たる748億円以上をインバウンド影響に該当する免税売り上げで稼いでいた。対して、郊外店の割合が大きいウエルシアホールディングスやツルハホールディングスのインバウンド影響は売上高のわずか1桁%程度とその差は歴然だ。

それだけにインバウンド需要の激減で、かつては業界トップクラスだったマツモトキヨシの2021年3月期売上高は業界6位にまで落ち込んだ。そこで2021年10月にココカラファインと経営統合、なんとか業界トップ3をキープしている形だ。

香港で中国人の需要を把握

そんなマツキヨココカラ最大の武器は、売れ筋を把握するデータ分析力だ。2014年からパスポートをもとに国や地域、性別や年齢といったデータを分析。その結果をもとに品ぞろえを変化させている。


東京の浅草にあるマツキヨの店舗。今後はインバウンド需要回復とともに徐々に店頭商品などを変えていく構えだ(記者撮影)

マツキヨココカラの担当者は、「浅草には至近距離に4店舗ほど展開しているが、店舗ごとに交通機関などの事情から客層に少しずつ差があり、データをもとにそれぞれ店頭で展開する商品を変えている」と明かす。

例えば浅草二天門の店舗は中国人ツアー客が多いため、中国人に人気のフェイスマスクを店頭で積極的に展開するといった具合だ。

2022年10月には多くの中国人が訪れる香港の繁華街で第4号店を出店、中国人に関するデータを積極的に集めてきた。こうして蓄積したデータを国内店舗の品ぞろえにも生かす構えだ。「セット商品の拡充や、短時間で買い物を済ませたいという旅行者のニーズをとらえた陳列などを進めていく」(マツキヨココカラの担当者)。

競合他社が郊外で出店競争を繰り広げる中、マツキヨココカラがこだわるのはあくまで都市型中心の出店だ。郊外は人口減少が進んでおり、価格競争に陥って店舗の収益性が悪化、将来的にジリ貧になると見ているためだ。

実際、粗利の低い食品を安売りして集客する郊外店の競争環境は厳しい。そうしたドラッグストアの幹部は、「地方では商圏人口が小さくなり、採算の合う物件を見つけるのが難しくなってきた」と語る。

それに対しマツキヨココカラは、人口の多い地域を中心に出店しているため1店舗当たりの売り上げも比較的高い。採算性の高い化粧品も都心の店舗のほうが売れやすく、マツキヨココカラの2022年3月期の営業利益率は5.7%と業界ではかなりの高水準。そのため今後も都市型店を中心に出店を加速させていく方針だ。

2025年度までに大型M&Aも視野か

マツキヨココカラは、現中期経営計画の最終年度である2026年3月期に売上高1兆5000億円(2023年3月期会社計画は9500億円)、営業利益率7.0%を目指しており、売上高の計画達成には単純計算で年16.5%増の伸長率が必要だ。

競合ドラッグの幹部は、「マツキヨココカラは都市型店を抱えるサンドラッグやスギホールディングスといった大型チェーンのM&Aを狙っているのではないか。立地が限定的な都心では、いずれ出店ができなくなるからだ。この2社を買収して不採算店舗を閉めれば、売上高、営業利益率ともに中期経営計画を達成できる」と見る。

「ドラッグの雄」とも呼ばれていたマツキヨココカラ。インバウンド需要を追い風に復活ののろしを上げているといえそうだ。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)