「100円」コストアップしても、価格転嫁できるのは「36円」分だけ。企業の2割は全く転嫁できない――。

帝国データバンクが2022年9月15日に発表した調査「特別企画:企業の価格転嫁の動向アンケート(2022年9月)」で、企業の苦しい実態が明らかになった。

原材料やエネルギー価格の高止まりのほか円安の進行と、企業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。

業界全体で値上した建材・家具、機械・器具

帝国データバンクの調査によると、自社の主な商品・サービスでコストの上昇分を販売価格やサービス料金に「多少なりとも転嫁できている」企業は、70.6%となった。一方で、「全く価格転嫁できていない」企業は18.1%だった。

「多少なりとも転嫁できている」企業の内訳をみると、コストの上昇分に対し、「すべて価格転嫁できている」企業は2.3%にとどまる。「8割以上できている」企業は11.7%、「5割以上8割未満できている」は16.7%となった=図表1参照。

総じてみると、価格転嫁をしたいと考えている企業で、コストの上昇分に対する販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は36.6%と、4割未満にとどまった。これは、コストが100円上昇した場合に36.6円しか販売価格に反映できていないことを示している=図表2参照。

業種別の価格転嫁率をみると、明暗が分かれている。たとえば、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(53.1%)や「機械・器具卸売」(50.9%)、「飲食料品卸売」(48.3%)では価格転嫁率が5割近くとなった=図表3参照。

多少なりとも転嫁できている企業からはこんな声が挙がっている。

「木材製品はウッドショックにより市場全般が値上げを容認した」(木材・竹材卸売)「円安の進行によるコストアップが激しいため、販売価格に転嫁せざるを得ない。顧客には丁寧に説明している」(家具・建具卸売)「業界全体で値上げの動向もあり、価格転嫁についても同様の動きがあった」(無機化学工業製品製造)「顧客の認識として、明らかに価格が上昇している部材を使用している製品の販売価格を上げることは理解してもらえるが、すべての製品で理解を得られることはない」(電気機械器具卸売)

業界内競争で値上げできない情報、運送、不動産

一方で、価格転嫁率が低い業種もある。「ソフトウア受託開発」などを含む「情報サービス」(14.4%)や、原油価格高騰の影響を受けているトラック運送などを含む「運輸・倉庫」(17.7%)などだ=再び図表3参照。

企業からはこんな声が挙がっている。

「運賃交渉を継続中。業界内には積極的な値上げ交渉をすることによる荷主離れを懸念して値上げが進んでいない」(一般貨物自動車運送)「見積書には転嫁した単価で提出したが、競争が激しく結局販売価格は今までとほぼ変わらない」(パッケージソフトウェア)「業界や国が価格転嫁の要請を文書などで取り組み出してきており、理解してもらえる顧客は若干出てきたが、さらなる要請をお願いしたい」(港湾運送)「工事量全体が増えておらず、受注競争が激しく、材料費や外注費(加工費、労賃)などの上昇分を転嫁できていない。現状は粗利益を極限まで削って耐えている」(不動産代理業・仲介)

など、悲痛な状況が伝わってくる。

帝国データバンクではこうコメントしている。

「取引先の理解を得られないことや顧客離れへの懸念のほか、急速な円安進行などによる原材料費の上昇などに価格転嫁が追い付いていないことを背景に、全体の価格転嫁率は36.6%にとどまった。政府には価格転嫁支援の強化に加え、物価の高騰による影響を受けているすべての企業に支援が行き渡る対策の実施が求められよう」

調査は、2022年9月9日〜13日、全国の企業にアンケートを送り、1649社から有効回答を得た。うち大企業は211社(12.8%)、中小企業は1438社(87.2%)だった。

(福田和郎)