写真:當舎慎悟/アフロ

 2023年春以降、企業がキャッシュレス決済口座に給料を振り込める、「デジタル給与払い」が可能になる見通しだ。デジタル口座の残高100万円まで振り込めるという。9月13日、朝日新聞が報じた。

「ペイペイ」や「楽天ペイ」「au PAY」「d払い」など、いわゆる「○○ペイ」のキャッシュレス口座が対象で、一定の条件を満たし、厚労省の指定をうけた業者が賃金の支払先となる。

 2018年頃から議論は始まっていたが、ようやく導入の運びとなった。キャッシュレス推進の一環だが、利用者側のメリットがあまり見えてこないことから、SNSでは不評のようだ。

《家賃も税金もペイじゃ払えなくない…… ペイ業者との癒着以外考えづらい気がするんだけど……》

《ペイで給料が振り込まれても、使える店舗とそうでない店があり、更に店舗はペイ企業に手数料を払っており…労働者と小売業者にメリットありますかこれ》

《これからインフラ老朽化で停電リスクが増えるの必至やのにこんなんめちゃくちゃやろ》

 ITジャーナリストの三上洋氏は、企業と利用者双方のメリット・デメリットについてこう語る。

「企業側のメリットはいくつかあります。まずは、仮にすべてデジタル給与払いになれば、コスト削減が見込めること。銀行振込の場合、振込手数料や専用振込ソフトの準備など、お金の管理を含め、いろいろとコストがかかっています。

 これをデジタル給与という形にすれば、基本的には事業者側が仕組みをすべて用意することになります。結果、企業側の手間が省けますし、手数料削減にもつながります。

 あとは、銀行口座を開設しづらい外国人労働者などへの支払いも楽になるでしょう。

 実際、アメリカなど諸外国では “ペイロールカード” といって、外国人労働者などに向け、キャッシュレス決済口座が使えるカードが普及しています。スマホさえあれば誰でも簡単に作れるため、銀行よりハードルが低いんです。

 また、昨今の “働き方改革” で、社員だけど1週間おきに給料がほしいとか、週3日だけ働くとか、いろんな働き方が出てきました。そうした人たちへの給与支払いにも、柔軟に対応していくことができるでしょう」

 ただ、利用者側のメリットはまだ少ない。

「まずはチャージしなくてもキャッシュレス決済ができること。それから、事業者側が、デジタル給与払いの利用者にはポイントを付与するといったキャンペーンを打てば、ポイント的な恩恵は受けられます。

 働き方に合わせて柔軟に給与が振り込まれるのは、企業側と利用者側、双方のメリットですね。アルバイトも翌月払いが基本でしたが、3時間だけの短期アルバイトなども、すぐ振り込めるようになるのでは」(三上氏)

 一方、現時点でのデメリットも多い。

「デジタル給与払いは希望制だといいます。銀行派・デジタル派に分かれてくると、結局両方の仕組みを用意しないといけませんから、かえってコストがかかってしまう。

 利用者としても、正直いまはキャッシュレス決済と銀行口座の紐づけも簡単ですから、『チャージの必要がない』というのはそこまで大きな引きにはなりません。

 日本は海外に比べてキャッシュレス決済の普及率はまだまだで、地方に出たら使えない場所もたくさんあります。そう考えると、結局は現金に変える手間も出てきます。

 住宅ローンや家賃、授業料、クレジットカードの支払いなどもキャッシュレス決済口座でできる保証があればいいのですが、すぐには難しいでしょう。正直、利用者側にとっての使い勝手のよさには疑問が残ります」

 加えて、気にかかるのは「セキュリティ」や「倒産リスク」だ。

「事業者側のセキュリティは保たれるでしょうし、倒産リスクに関しては、今回の話し合いで金額保証する方針で進んでいるので、あまり心配する必要はなさそうです。

 ただ、問題は利用者側です。スマホが盗まれたとか、端末ロックの番号を知られてスマホを自由に使われてしまう状況になると厳しいですね」(同)

 結局、利用者はどの程度見込めるのだろうか。

「アルバイトや契約社員、日払いなどの働き方をする人たちの間では、浸透するかもしれません。銀行口座を開設しづらい外国人労働者にもメリットが大きいでしょうから、需要はあると思います。とはいえ、多くの人が利用する形にはならないでしょうね」(同)