by Chad Sparkes

シャチは海のどう猛なハンターとして知られており、ホホジロザメでさえ一目散に逃げ出すことが近年の研究で分かっています。そんなシャチの間で、「人間の船を攻撃するゲーム」が流行している可能性があることが報告されました。

Orcas attack boats off coast of Spain and Portugal, leaving scientists stumped : NPR

https://www.npr.org/2022/08/20/1117993583/orcas-attacks-spain-portugal-killer-whales

Orcas are attacking boats near Europe. It might be a fad. | Live Science

https://www.livescience.com/orcas-attacking-boats-europe

アメリカの公共ラジオネットワーク・NPRの報道によると、ポルトガルやスペイン、フランスなどヨーロッパの沿岸でシャチがボートやヨットを襲撃し、船を操作するラダーを破壊する事件が近年相次いで報告されているとのこと。これまで負傷者や死亡者は出ていませんが、2022年7月31日には5人乗りのヨットがシャチの攻撃で沈没する事態も発生しました。



分かっている中で最新の事例は、2022年8月上旬に発生した襲撃です。Ester Kristine Storkson氏と同氏の父親は、ヨットで世界一周にチャレンジするためモロッコを目指してフランス沖を航海していたところ、シャチの一団に襲われました。約15分間続いた襲撃後に船体を調べたところ、ラダーが壊されて4分の1だけになっていたそうです。

Storkson氏は、シャチに襲われた時のことを「シャチはボートに突っ込んできて繰り返し攻撃したので、組織的な攻撃だという印象を受けました」と話しました。

Storkson氏らは運よく残ったラダーで操船してフランスの海岸に寄港することができましたが、ポルトガル沖では2隻の船がシャチに攻撃されてそのうち1隻が沈没し、残りの1隻も立ち往生して近くのドックまでえい航されたと伝えられています。

スペインを拠点とする鯨類研究団体・CIRCE Conservación Information and Researchで代表兼コーディネーターを務めるRenaud de Stephanis氏によると、このようなことは異例とのこと。そのため、船を攻撃しているのはすべて同じ群れのシャチではないかと考えられていましたが、襲撃があった場所が離れすぎているため、実態は分かっていません。

また、シャチが船のラダーを狙う理由も謎に包まれています。一部の科学者は、シャチが船のスクリュープロペラから発生する水圧を好むのではないかとの仮説を立てています。つまり、シャチたちは自分の顔に水流を当ててもらおうとせっつくようにラダーを攻撃しますが、エンジンがかかっていない場合などで水圧が楽しめないとイライラしてラダーを破壊してしまうというわけです。

しかし、この仮説では説明がつかない事例も報告されています。以下のムービーでは、エンジンを動かして航行中の船がシャチに攻撃されている様子が収められています。

Our delivery Yacht had a serious interaction with a large pod of Orcas - YouTube

波をかきわけながら進む船と、そのすぐそばを泳ぐ複数のシャチ。動画を投稿したマーティン・エバンス氏は、「彼らは何度も何度もラダーに突進することに時間を費やし、私はシャチの1頭がラダーの大きな破片を口にくわえて泳ぎ去るのを目撃しました」と述べています。



エバンス氏が船を調べると、案の定ラダーが破壊されていました。エバンス氏はこの出来事を「もう2度と味わいたくないような、屈辱的な体験でした。しかし、深く感謝したいような体験でもありました。生態系の頂点に立つこの捕食者を間近で見られたのは、この上なく雄大な体験です。私はこの日のことを決して忘れないでしょう」と振り返っています。



エンジンが動いている船のラダーも標的になったことから、科学者たちは若いシャチが動く部品に興味津々なだけかもしれないとも推測しています。ブリティッシュコロンビア州の鯨類研究機関・Bay Cetologyのジャレッド・タワーズ氏によると、シャチの社会ではこうしたある種のゲームがはやり廃りを繰り返しているとのこと。

タワーズ氏は「1990年代、太平洋の一部に住むシャチの間では、殺した魚を頭に乗せて泳ぎ回る遊びが流行していましたが、それはもう見られなくなりました」と話しました。