6月から7月にかけて行なわれたバレーボールネーションズリーグ(VNL)で、日本は男女ともファイナルラウンドに進出した。ともにトーナメントの1回戦で敗退したが、男子はファイナル進出が初めて。8月26日に開幕を控える世界選手権に向けて大きな手応えがあったと見ていいだろう。8月9日に行なわれた世界選手権に向けての会見でも、フィリップ・ブラン監督は「日本は世界のトップに確実に近づいている」と語った。


ネーションズリーグで活躍した郄橋藍(左)と大塚達宣

 男子バレー日本代表は中垣内祐一前監督の時代から、AチームとBチームを比較的にはっきりと分け、同格、もしくは格下の相手にはAチーム、格上の相手にはBチームで戦う傾向があった。しかしブラン監督は、新型コロナウイルスの影響もあったが、今年のVNLではこれまでに比べると「フレキシブルにメンバーを試しながら勝つ」という選手起用を行なった。

 そのなかで、世界選手権に向けてという意味でも注目されたのは「石川祐希の対角を誰にするか」ということだろう。途中までは、東京五輪と同じく郄橋藍がそのポジションを担うことが多く、第6試合のイタリア戦も石川と郄橋のコンビでフルセットでの金星を挙げている。

 東京五輪で金メダルを獲得したフランスとの第7試合は、大塚達宣と高梨健太の対角で通した。ストレートで敗れはしたものの、この試合で15得点と奮闘した大塚は、続くスロベニア戦で石川の対角に"昇格"。石川の21得点に次ぐチーム2位の13得点をマークした。その後はオーストラリア戦、カナダ戦も石川・大塚の対角で無理なく勝利している。

 しかしBチームで臨んだドイツ戦で、高梨と対角を組んだ郄橋が14得点と健在ぶりを示した。試合後の記者会見でブラン監督は、郄橋が新型コロナウイルスに感染して練習が思うようにできない期間があり、大塚の起用が増えたという理由を明かしたが、「(郄橋が復帰後も)大塚の出来を見る限り、代える必要もないと思ったので使い続けた」と話した。

それぞれの成長

 予選最後のブラジル戦は石川・郄橋でスタートし、2セット目途中から郄橋に代わって大塚が投入され、そのまま最後までプレーした。大塚は予選を次のように振り返った。

「ワンポイントで出場すると、『その一瞬で何かをしなければ』という焦りのような気持ちがどうしても生まれてしまうんですが、長く出ると自分で取り返せるチャンスがあるので、心理的に余裕が出てきました。たとえスタートではなくても、『あとに大塚がいるから大丈夫だ』と思ってもらえるようであればいいですね」

 ブラジル戦では、スパイクを打つフォームからジャンプトスに切り替える「フェイクセット」も見せたが、「あれはチーム全員ができるようにしていますし、アタッカーもそれに合わせて助走に入るようにしています。誰が入ってもやることは変わりません」と胸を張った。

 大塚は現役の大学生(早稲田大4年)ながら、2021−22シーズンの「V.LEAGUE DIVISION1MEN」の途中から強豪・パナソニックパンサーズに参加。あっという間にチームの中心選手となって、苦しんでいたチームが3位に順位を上げる原動力になった。その経験は、代表でも生かされているようだ。

 一方の郄橋藍(日体大3年)は、2021−22シーズンの冬にイタリア・セリエAのパドバにレンタル移籍。だが、なかなか出場機会を得られず、後半はリベロとしての出場となった。セリエAに挑戦した日本の男子選手がリベロで起用されることは"あるある"だ。かつては越川優、石川も経験があり、現役時代にセッターだった眞鍋政義(現女子バレー日本代表監督)も「リベロをやれ」と言われて1年で帰国している。

 郄橋自身も課題として挙げている「前衛での攻撃の向上」は望めないことになるが、「もちろん悔しさもありましたけど、すべてをプラスに捉えていました。毎日の練習のレベルも高くて、得られるものはたくさんありましたから。紅白戦でも、ひとつでも多くスキルを磨こうと常に全力でぶつかった。その経験は得難いものでしたね」と振り返った。

仲良しで、ライバル

 同じポジションを争う立場だが、ふたりはとても仲がよく、ファンから「たつらん」と呼ばれることも。7月30日に行なわれた世界選手権壮行会紅白戦では、台風が近づいて蒸し暑くなった沖縄アリーナで熱中症になった大塚に、すぐさま郄橋藍が駆け寄って水を飲ませるシーンもあった。

 ふたりは、お互いのことについて次のように語る。

「同じポジションなのでライバルでもあるんですけど、お互いいい刺激を与えあって切磋琢磨して高めあっていきたいです。達宣さんが頑張っているのを見ると、自分も負けちゃいられないと思うし、自分が不調になった時も『達宣さんが控えていてくれる』と思うと安心して任せられる。それで心に余裕もできますし、いいことばかりですね(笑)。世界選手権でも、もっと競い合ってチームにいい成果をもたらしたいです」(郄橋)

「負けられないライバルではありますが、その前にかけがえのない仲間として大切に思っています。ブラン監督のバレーは誰が入っても同じことをできるようにするバレー。僕は主に攻撃面が期待されていて、郄橋選手は守備力。お互いにないものを補い合ってより高いレベルでプレーできるようにしたい。パンサーズでの経験、VNLも経験して自信がついてきました。世界選手権では少しでも自分の役割を果たして、より上の順位を目指したいですね」(大塚)

 大塚が言ったとおり、守備力、特にレシーブでは郄橋が上回る。石川の守備の負担を軽減できるため、東京五輪でも全試合でスタメン出場した。ブラン監督は9日の会見で「サーブとサーブレシーブ、Cパス(セッターが大きく動く必要があるレシーブ)からの攻撃力の向上」を目標にしていると話していたが、郄橋も「(セッターの)関田誠大選手がCパスでも積極的にミドルを使ってくれるので、サーブレシーブをする側としては気持ちがラクになった」とコメント。守備での心理的負担の軽減は、攻撃面にプラスとなって表れるだろう。

 東京五輪で控えだった大塚は、今回のVNLで"戦える"ことを証明してみせた。前衛でも後衛でも得点できる能力が高く、「東京五輪の時と比べてすべてのスキルにおいて高くなったと感じている。攻守どちらでも安定性が高くなった」と自信をのぞかせた。ブロックの高さも大塚に利があるため、そこでも印象に残るプレーができるか。

 ロシアで開催される予定だった世界選手権は、ウクライナ侵攻によりロシアの開催権が剥奪され、スロベニアとポーランドの2国共同開催となった。そこで日本が躍進できるかどうかは、このふたりが大きなカギを握っている。