<AIG女子オープン 最終日◇7日◇ミュアフィールド(スコットランド)◇6680ヤード・パー71>
ミスを重ねてうなだれて歩く渋野日向子の姿はもうなかった。「AIG女子オープン」(全英)で優勝争いのすえに3位。1打及ばずプレーオフ進出を逃し、目に涙を溜めたが、その直後のスッキリとした表情が印象的だった。
5打のビハインドからスタートした最終日。2番でバーディが先行しながら、もっとも嫌う3パットボギーを3番、4番で喫した時点で怒りに震えていたのだろう。5番のパー5でティショットを振りちぎって、イーグル奪取。優勝戦線に残った。勝利こそ逃したが、それ以上の成果があったと思う。
5月以降の渋野であれば、連続ボギー後のホールは無表情でうつむきながらプレーをしていたかもしれない。それが全英では違っていた。しっかりと前を向く姿勢で歩を進めていた。
「今日は怒ってしまった場面もあったけど、ああやって自分のミスに怒って、次のホールのティショットに生かすということが最近なかった。怒りを力に変えられたというのが久しぶりの感覚だった」。序盤の出遅れを必死に取り戻しにいった自身の変化をほめた。
それに続いた渋野の言葉に驚いた。「あきらめてやっていた」。ミスを引きずり下を向き、次のホールでまたさらにミスを重ねる負の連鎖。「予選落ち、予選落ちと続いて、自分は何をしているのかな、と。どうしたいのかなと思いながらゴルフをしている時間が長かった」。迷いの中、人知れず苦悩の時間を過ごしていたことを全英後に初めて明かした。
これまでの渋野は、「自分のやりたいことをやり切る」と言い続けてきたが、最近はその言葉も薄れていた。背景には、こんな気持ちがあったのだと知った。昨年はじめからはスイング改造に着手。外野からは様々な声が寄せられた。中には辛辣(しんらつ)なものもあったが、昨年秋に2勝を挙げたことで、渋野はそれらの評価を跳ね返した。そして迎えた今季。米ツアー本格参戦の中で、あらゆる面で苦しみもがく時間が続いていたのだ。
4月には立て続けにトップ5に2度入ったが、その後は一気に不振に陥る。スポット参戦をした5月の国内ツアーを含めて、予選落ちが続いた。そんな結果を受け、渋野は「予選落ちをするのが怖い」という思いになっていたという。
「マネジメントってどうしたらいいんだっけ、みたいな。ワケが分からなくなりながら、とりあえず試合をこなす日々が続いていた感じだった」。追い込まれていたと吐露した。
体調不良により棄権した6月最後の試合から1カ月後。欧州3連戦の初戦となったメジャー大会「アムンディ エビアン・チャンピオンシップ」で久しぶりに渋野を見た。練習ラウンドではにこやかに回るが、本戦に入ると一変。結局126位タイで予選落ちを喫した。厳しい言い方をすれば、いいところなし。言葉少なにコースを去った。いま思えば、前述のような気持ちになっていたのだろう。
ところが、だ。渋野のプレーも気持ちも、この“敗戦”から変わったのだと思う。翌週の「トラストゴルフ・スコティッシュ女子オープン」では初日に1カ月半ぶりのアンダーパーラウンド。それでも2日目には「いい流れだったのに、自分のミスから引きずってしまった」と悔しい予選落ち。これがかえって、渋野の闘争心に火をつけた。
「エビアンとは違う(予選の)落ち方ではあるなというのをいい風に捉えた。すごく練習にも熱を入れた。久しぶりに熱を入れてできた」
週末にはコースに居残って練習を行った。スイングではとにかく“思い切り振り切る”。パッティングも縮こまったアドレスになっていたものをキャディのひと言で修正。それが今回の全英3位につながった。難コースのミュアフィールドで4日間通して1イーグルと18バーディを奪ってみせた。
きっといろんなものを吹っ切ったのだろう。「心の底からゴルフを楽しめた感じはあった」という。それは見ているこちらにも伝わった。冗談めかして「ヘラヘラしていた(笑)」と振り返る3年前の全英勝利時とは違う笑顔。落ち着いた表情で、全英特有の強風と立ち向かう楽しさを噛みしめていた。
全英制覇で国民的スターとなり世界が変わった。そのなかでも国内で結果を残し、不振に追い込まれ、そしてまた立ち上がった。今回の全英3位はきっと悔しかったと思う。でもこれは新たなスタートを切るための悔しさ。新たなステージに入った渋野は、今後もいろんな姿でファンを楽しませてくれるのだろう。(文・高桑均)
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