「fracora(フラコラ)」は、Youtubeチャンネル「生命科学アカデミー」に大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保先生をお招きし、「オートファジーの「秘密」とは?」ほか、全6回を公開しました。

細胞一つ一つが元気になることで、病気や老化を防ぐことができるということが昨今の最先端研究により分かってきました。話題の「オートファジー」研究のスペシャリスト、吉森先生に今知っておきたい「細胞」と「オートファジー」の話を聞きました。

※本記事はYouTubeチャンネル「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。

<前回までのおさらい>

・「オートファジー」は、細胞の中の社会をよい状態でうまく機能させ続けるメンテナンスのような仕組み

・主な役割は、
1 細胞の中身を入れ替えてリフレッシュさせる
2 細胞の中に有害なものが現れたときにそれを狙い撃ちで壊す

・歳をとるとオートファジーが低下し、病気になる

・寿命を延ばすにはオートファジーを上げることが必要

※詳しくは第1回、第2回、第3回をご覧ください

鍵となるタンパク質「ルビコン」

「オートファジー」に関わるタンパク質の中に、「ルビコン」というタンパク質があります。

私の研究室で見つけました。

これはオートファジーが暴走しないようにするためのブレーキなのですが、歳をとるとこのルビコンが増え過ぎるということがわかりました。

つまり、ブレーキがかかりすぎてしまう。これが歳をとったときに起こるオートファジーの低下です。

ではルビコンをなくしたらどうなるか?

ルビコンの遺伝子を破壊して実験をした結果、寿命が1.2倍のびました。この結果は想定内だったのですが、予想外なこともわかりました。

線虫という生き物を使って実験したところ、ルビコンがない線虫は、歳をとっても若いときのように動くんです。人間でいうと、80歳超えてフルマラソンを走っているみたいな感じです。

今度はネズミを使ってパーキンソン病の実験をしましたが、ルビコンのないネズミはパーキンソン病になりにくいという結果がでました。ほかにも腎臓の病気、加齢黄班変性なども、ルビコンがなければなりにくいことがわかりました。これらの病気は皆、お年寄りに多い病気です。

老化全般を抑える薬の可能性

ルビコンをなくすほかにも、オートファジーが低下しないようにする方法があるかもしれません。それがわかれば、老化全般を抑える抗老化剤・抗老化薬を開発することができます。老化を食いとめることで、いっぺんにいろいろな病気を抑える薬です。

こういう発想って今まではなかったんです。薬は個別の病気に対して考えられて来ました。

日本は世界有数の長寿国ですが、一方で健康寿命(健康でいられる寿命)は平均寿命の10歳くらい下です。ということは、ほとんどの人が亡くなるまでの10年間を病気で過ごしているわけです。

お年寄りに「長生きしたいですか?」って聞いても、嫌だっていう人が多いじゃないですか。それはやっぱり病気だったら嫌だということで、健康であれば生きたいですよね。

なので、私は日本の一番大きな課題は健康寿命の延伸だと思います。もしかしたらオートファジーでそれができるかもしれない。まだまだこれから研究しないといけないですけど、薬も作ろうとしています。

日本人が健康で最期まで楽しんで生きられるような薬を開発すること、それが私の夢ですね。

(第5回に続く)

■動画で見る方はこちら