いま、紅茶飲料が熱い─。茶葉の種類や量、甘さや香りなど個性を打ち出しやすいという特性に加え、コーヒーやお茶から紅茶に乗り換える消費者が増えているからだ。そんな中で「午後の紅茶」ブランドで首位に立つキリンビバレッジ追撃に向け、日本コカ・コーラが動き出している。誕生30年を迎えた「紅茶花伝」ブランドで総合ブランド化を図る考えだ。舌が肥えている消費者を相手に、味の多様化が勝負の鍵を握っていると言えそうだ。

「紅茶花伝」の30年にわたる〝逆張り〟の商品展開

「これまで紅茶は休日のティータイムなどの特別なシーンに飲むものだった。しかしコロナ禍を経て、日常的に飲むものに変化しつつある」─。こう強調するのは日本コカ・コーラ マーケティング本部 止渇系無糖茶・機能性茶・紅茶事業部 部長の山腰欣吾氏だ。

 特別から日常へ─。コロナ禍を契機に紅茶飲料業界では、こんな嗜好の変化が起こっている。コロナ禍の2019年から紅茶飲料市場は拡大し、購入者数はもちろん、紅茶飲料を購入する頻度も増加。既存のリーフティーやティーバッグと共に家庭内の紅茶消費量も増加傾向だ。

 そんな紅茶市場で攻勢をかけているのが日本コカ・コーラ。同社の紅茶飲料と言えば、1992年に誕生した「紅茶花伝」が有名だ。同社は誕生から30年を迎えたこの「紅茶花伝」で、紅茶市場での存在感を高める狙い。

 同部止渇系無糖茶・機能性茶・紅茶事業部マネジャーの田中惇也氏は「コロナ禍で在宅勤務が増えて紅茶が身近になった。昼間に缶コーヒーを飲んだり、仕事終わりにジュースを飲む消費者が紅茶を飲むようになった」と分析した上で、「コーヒーほど重くなく、香りの華やかさや爽やかな渋みを持つ紅茶に注目が集まっている」と語る。

 この趣向の変化は女性のみならず、男性にもみられるようだ。実際、「紅茶花伝」の飲用者は19年比で2桁近く増加。実は日本コカ・コーラはこの「紅茶花伝」の「総合紅茶ブランド化」(同)を進めていた。

「紅茶花伝」は上質な紅茶として「厳選素材とこだわりのひと手間」というポリシーを貫いてきた。具体的には、茶葉は厳しい独自規格を満たした農園の手摘み茶葉を使用し、ティーポットで淹れる紅茶のように紅茶本来の香りや味わいを引き出した。

 ただ、課題もあった。「紅茶花伝」と言えば、95年に発売を始めた「紅茶花伝 ロイヤルミルクティー」が主流だったからだ。脱脂粉乳を使わず、国産牛乳だけを100%利用するなど差別化を図り、〝逆張り〟とも言える商品展開で存在感を高めた。

 例えば、バブル崩壊で誰もが懸命に働いていた当時、さっぱりした味わいや軽やかさが主流だった中で「あえて濃厚なリッチな味わいにこだわった」(田中氏)。350ミリリットルの缶が主流だった中でも、「少量の180ミリリットル缶を展開するなど、紅茶が持つ非日常的なイメージを前面に出した」(同)。その結果、「『紅茶花伝』はミルクティーでブランドを築いてきた」(山腰氏)。逆に言えば、「紅茶花伝」=ミルクティーというイメージが根付いたわけだ。

 その後、新たなニーズにも対応する必要が出てきた。甘さにネガティブな印象を持つ中高年層がブラックコーヒーなどを嗜むようになった18年、「紅茶花伝」は〝脱・甘さ〟の商品を投入する。地方活性化が叫ばれ、農産物の産地などに付加価値が置かれるようになったときだ。