※この記事は2016年11月09日にBLOGOSで公開されたものです

「アベ政治を許さない」と書かれた紙を広げた男性の横で、微笑みながら写真におさまったこともある安倍総理夫人の安倍昭恵氏。昭恵氏は、時に総理である夫の政策と異なる発言をすることで注目を集めてきた。

こうした昭恵氏の言動の背景について、社会学者・西田亮介氏がメディア上でコメントしたところ、その記事が本人の目にとまり、10月26日に対談が実現。進行は、昭恵氏と親交の深い構成作家の谷崎テトラ氏が務めた。

安倍昭恵さんとの「対談」と、その影響力、政治性について - 西田亮介

昭恵氏「本当の私を見てください」


谷崎:本日は、昭恵さんが「週刊プレイボーイ」に掲載された西田さんの記事を読んで「ぜひお会いしたい」ということになり、総理公邸に集まりました。

西田:まず、なぜぼくに興味をお持ちになられたのかということを伺いたいと思います。一般論として、総理夫人という立場の方は、あまり若手の研究者なんかに興味は持たないですよね。

安倍:「直感的にお会いしたいと思いました」っていうそれだけで。ほぼ直感で生きているので。

西田:「ほぼ」というのは、どういうことですか?

安倍:「深く考えないで」というか。何をするか考える時にも、「じゃぁ、これ!」みたいな感じで生きているので。「今回、なぜ西田さんに会いたいと思ったのか」を、理論的に説明しろと言われても、「全然わかんない」って感じなんですけれども。

西田:ぼくが、三宅洋平さんと昭恵さんの対談にコメントした記事をお読みくださったんですよね。

・ 安倍昭恵首相夫人の独自活動は自民党メディア戦略の一環か?- 週プレNEWS

安倍:あの記事では、「私がメディアに載ることが、むしろ自民党を応援することになっている、だからメディア側も注意しなくてはいけないんじゃないか」といった論調だったじゃないですか。

西田:はい、基本的な論調はそうですね。

安倍:だから、本当の私を見てくださいって意味でお会いしたいなって。

西田:よろしくお願いいたします。

高江には秘書にも首相にも相談せずに行った


安倍:選挙の応援については、私も非常にジレンマはあります。「なぜ、全然知らない人の応援に行かなきゃいけないんだ」と主人(安倍晋三首相)に言うこともあるんだけれども(笑)。

西田:難しいですね。一般に、「総理夫人」という立場は、選挙で選ばれていないので、ある種の正当性を持っているという訳ではないことは間違いないでしょう。

なので、ある種の私人ではあるのですが、実質的には選挙の応援に入られることや、様々な形でパブリックな場へ出てこられて、活動もなさっている。それから外遊に同行される機会も多いでしょうし、海外からの来客がある場合もそうでしょう。

それが注目を集め、強い影響力をもっている現状を鑑みると、やはり、望もうと望むまいとある種の権力性を帯びるというところは、否めないのではないか、と思います。

安倍:ご指摘は、良く分かります。なので、むしろ率直にお聞きしたいことをどんどん聞いて欲しいです。一体どういうつもりで、私が活動しているのかということを、どんどん聞いてください。

谷崎:僕は、自民党が下野した時代に、昭恵さんと知り合ったんですが、とにかく勉強家なんですよ。大学院に入り直して勉強したり、とにかく好奇心の塊のような人なんです。

自民党のつながりで行けるところ以外、そうでない人達のところに行く。イメージでいうと水戸黄門的というか、暴れん坊将軍的なというか。どんどん実際に現場を見てみようと考えているんです。沖縄の高江ヘリパッド問題のときも、とにかく自らの意思で、秘書にも、ご主人にも相談せずに現場に入った。とにかく現状を見て、民衆の声を聞くといったら変ですけども、一般の人の声を少しでも聞こうという姿勢をもっているんです。

VIP扱いで感覚がズレていく




西田:“一般の人に混じって”という点は、重要視しているのでしょうか?高江にもプライベートで行かれたということですが。

安倍:その方が、「本当の姿が見える」と感じますよね。仰々しいのがあまり好きじゃないのもありますが。どこかに行く時は、そんな感じですね。あとなるべく普通でいたい。そうでないと、ものすごい特別になっちゃって。

海外に行って、飛行機を降りれば、そこに車が待っていて。パトカーと白バイが先頭で、もうノンストップでホテルまで、ビュッといけますね。飛行場の建物も通らずみたいな。

そればっかりだと、自分がおかしくなる。感覚がズレていっちゃって、最初の1年間はおかしかったですよ。

西田:第一次安倍内閣の時ですか?

安倍:普通に並んだりとかできなくなっちゃった。「なんで私がこんなところに並ばなきゃいけないの?」みたいな(笑)。イヤな感じになっていたので、今回も首相夫人の期間がちょっと長くなって、そういう風になりかけちゃって。

リハビリが必要な自分になりたくないので、可能な限り、個人でいけるところは個人で動いています。

西田:どうして、「普通でありたい」と思われるんですか?多くの人達はそうは考えないんじゃないですかね。

安倍:どうなんだろう。

西田:ぼくだったら、出来れば行列も並びたくないし。飛行機もなるべくアップグレードして、ささっと通りたいと思いますけど。

安倍:それが出来るから、逆に思っちゃうんですよね。

西田:そう聴くと、とても贅沢な悩みにも聞こえてきますね…。

「世界平和」を権力者にまかせておけない


西田:様々な現場に行って見て聞いて、どうしようとお考えなんですか?

安倍:私の大きなテーマは「世界平和」なんですね。

どうして平和にならないのか不思議なんですよ。これだけお金をかけて、毎年国連総会やって。私も出席しますが、G7のような様々な国際会議もある。いつもいつもみんな環境や紛争解決について話し合っているのに、全然平和につながらない。むしろ世界は混沌としていくみたいな。

「ちょっとお金の使い方間違ってるんじゃない?」みたいに思っていて。「もう権力者には任せておけない」みたいな。私が言うのは変なんですけど。

西田:そうですね。冒頭申し上げたように、昭恵さんも実質的には権力サイドともいえますので、これはなかなか複雑な事態ですね。

安倍:国のトップは国益が一番。だから、国のことは一所懸命考えるけど、国益同士がぶつかった時には、自分の国益を大事にするわけだから。そこに本当の意味での世界平和がないと思っていて。私は本当の意味での世界平和を作っていきたい。

それには、いままでマイノリティだったものが、繋がっていくことが大事なんだと思っていて、だから女性同士を繋げたり、LGBTとか、障がい者とか…。

何か“大きな力”に動かされている




西田:NPOのリーダーなどとも会ったりされているんですよね?

安倍:そうですね。でも今はごちゃごちゃで、自分でも何してるのか、よくわかっていなくて。でも「神様に動かされてる」と思っているので、ちゃんと、色んなもののつじつまがあって、「あ、こういうことだったんだ!」ってなる時がくると思うんです。

自分ではよくわからないんだけど、動いていると「あ、こっちの方向へ向かっていってたんだ」みたいな、そんな感じなんですね。

西田:宗教をお持ちなんですか?

安倍:キリスト教の学校で育ったんですけど、今は別にキリスト教というわけじゃなくて、どちらかというと神道です。アメノウズメから取った「UZU」という名前の飲食店を神田でやっているんですけど、渦を起こしていきたいという思いがあるんですよね。

西田:我々が日常生活を送る中で、なかなか「神様が」という言葉は出て来ないと思うんですよ。たとえば、ぼくは、無宗教・無信心なので、日常に「祈る」という行為が入ってくることはまずありません。キリスト教にせよ、神道にせよ、そういう「何か大きな力によって」という考えがあるものなのでしょうか。

安倍:人間の力というのは、もう本当に小さなもので。

西田:えぇ、まさに。

安倍:私は、大きな自然の一部であって、“動かされてる感”がすごくあるんですよね。主人もよく言うのですが、総理大臣は努力でなれるものではなくて。政治家の中で努力してる人はいっぱいいますし、他を蹴落としても、ポストを掴もうという人達もたくさんいますから。

そこで総理大臣になるっていうのは、“何か持ってる”“何か別の力”だと思うんですよ。「神」という言い方をしなくてもいいんだけど、なんかこう、“大いなる力”が働いていると私は思っていて。その力にある意味流されてるというか、乗っかっているのかなと、私は感じます。

西田:“大いなる力”に流されて、様々な方にお会いになっていると。

安倍:あと先祖を信じていて。うちの実家は森永製菓というところなんですけど。曾祖父(森永太一郎氏)がアメリカに渡って、向こうでお世話になったのが牧師さんで。日本に帰ってきてから会社のシンボルをエンゼルマークにするんですよね。

お菓子の会社が、ある程度の大きさになった時、父方の方の曾祖父(松崎半三郎氏)に社長が変わるのですが、その後、太一郎はずっと全国を布教して歩くんですね。子供たちがきちんと栄養を摂れて、幸せに暮らせるようにということをずっと考えていた人なので。

森永太一郎は佐賀の伊万里出身なんですけど、今も私は九州の方に向いている感じがしちゃうんですよね。そこに立ち返って行っているような。誰かの意志がいつも降りてくる感じ。

例えば、大本教の出口なおさんとか。最近だと、広島で折り鶴を織って、10歳で亡くなった佐々木禎子さんとか。なんだか導きがあって、パールハーバーの折り鶴を見たら、そのあと連絡がありました。

佐々木さんの甥子さんと会って話をしたり、ニューヨークで「グラウンドゼロのところに寄贈した鶴があるんで、観に行ってください」と言われたりとか。

「折り鶴の平和プロジェクト作りましょうよ」みたいな話が出てきたりとか。ちょっと行くと、物事がバーっと動いていくのは、私の力ではなくて、何かに動かされて、そこにいて。それこそ渦を巻いていってるんだなって。

主人自身も特別な宗教があるわけじゃないんですけど、毎晩声を上げて、祈る言葉を唱えているような人なんですね。

西田:何をお祈りされているんですか?

安倍:感謝の言葉を。

西田:それは誰に対してですか?

安倍:神様なのか、先祖なのか、分からないですけど。何か自分の力ではないものに支えてもらっていることに対しての感謝を。

西田:どこに向かって?虚空に向かってなんですかね?

安倍:分からないです。多分、自分に言い聞かせているのかもしれないけど、よく分からないです。

「それもいいねぇー」でパールハーバーに


谷崎:パールハーバーは、折り鶴の流れからだったんですか?首相夫人が、パールハーバーに行くということは、歴史的に見ても凄まじいことじゃないですか。

安倍:あれはね、最初は飲んでいる席で出た話しだったんです。今、海洋関係に関心があって、やっぱり海だと思って。それで今年8月、アメリカと一緒に、海洋環境フォーラムを開催したんですよ。それで「ハワイ行くんだ」って話をしていたら、「ハワイに行くんだったら、パールハーバー行けば?」と言われて。「それもいいねぇー」って。そんなノリですね。

谷崎:そんなに大きな政治的なイシューにはならなかったですけれども。

安倍:でもすごくハワイでも喜んでいただいて。

「公的に」という話もあったんだけど、そこは公人として行きたくないので、一般の人達と一緒に船に乗っていきました。ただ花だけは供えさせて下さいと。

谷崎:どんな思いでそこへ?

安倍:よくわからずに行ったんですよ。「パールハーバー行ったら?」「それもいいね」ぐらいだったので。もちろん、パールハーバーでどういうことがあったっていうのは、分かってはいたけれども。でも私がそこに行くことで、どんな感じなのかなって思ったんですが。

私が非常に感じたのは、アメリカにとって真珠湾攻撃は屈辱だったんだなと。

谷崎:ハワイは聖地でもありますからね。

安倍:そうですね。あそこは聖地なんですよ。ハワイのあそこを攻撃した日本は悪いかもしれないけど。本土からやってきて、あそこを乗っ取っちゃった人達もいるわけで。そもそものハワイに戻してあげましょうよって感覚になりました。自然の神様がそっちを望んでいるんじゃないかなって。

神道の中で使われる麻は「国産」であるべき


谷崎:最近、いろんな所を回った中で、「こんなことに関心をもった」というのはありますか?キューバ行ったりされてますけど。

安倍:いや、あまりないです…。今はやっぱり、麻がこうなっちゃったので。

※編集部注「大麻で町おこし」をしていた鳥取県智頭町を6月に視察していた昭恵夫人。その中心だった大麻加工品製造業「八十八や」代表、上野俊彦容疑者が10月に大麻所持で逮捕された。

西田:麻や大麻には結構関心をお持ちになっていたんですか?

安倍:そうですね。

安倍:麻は、日本にとって伝統的でとても大事な、それこそ、神様と繋がっているもの。

谷崎:しめ縄でもそうですし、神道の儀式に必ず必要なもの。

安倍:なぜあれをずっと使っているかって、それなりに「波動の高い植物」だからだと、私は思うんです。

その神社の神事で使われている麻のほとんどが「中国産」になってしまっていて、ビニールでできたものあるんですね。それは大きな問題で、日本の根幹の神道の中で使われる麻は「国産」であるべきなんです。

西田:そこまでこだわる必要があるのでしょうか?我々は、日常生活において、海外の食材を口に入れることも多々ありますが。

安倍:それも私は、多くを自給自足に戻すべきだって思っているんですけども。別に輸入が悪いとか、外国産が悪いっていうわけじゃないですけれど。やっぱり日本に生まれ育った日本人に、一番合うのは日本のものだと思っているんで。

西田:しかし、たとえば我々はすでに日常生活では「洋服」を着て生活をしていますが…。

安倍:はい、日本の文化より「欧米が良い」という風潮になってしまったことが、ちょっと私たちの中で間違ってしまった。全部が江戸時代に戻るのが良いって言っているわけではもちろんないんだけども。

谷崎:そこが、昭恵さんと首相では反対なんですが、ここまで話をしていくと、「強烈に日本というものを取り戻そう」という点で一致していて。「経済成長でそれを進めていこう」と考えている首相と、そうではなくて、「江戸時代に全部戻れるかは別にして、そういった価値観を取り戻すことが大切だ」と考えているのが昭恵さん。

異なるようで、昭恵さんと首相の考え方というのは、近いというか、同じところになってくるんです。

安倍:麻も、戦前は何万軒っていう麻農家があったんですよ。それがGHQによって禁止されてしまって、今は30軒ぐらい。それまではみんな自由に栽培出来ていたものが、いきなり禁止されてしまって、それを受け入れてしまった。

私たちはそうやって、戦争に負けて、それまで持っていた良いところを失ってしまったところもあるので。戦後レジームからの脱却と言っているけれども。私は、今、主人がやろうとしていることも、アメリカ追随と言われるけど、そうではなく、アメリカからも今後独立して、真の意味で日本が立っていくっていうところに向かっていると思っているんですね。

日本の精神性が世界をリードしていかないと地球が終わる




安倍:私は、本当にこれから日本が世界をリードしていかなきゃいけないと思っているんですよ。

西田:客観的には難しいように思います。経済もそうですし、私がいる大学の世界も、ドンドン世界ランキングが下がっているんです。これはなかなか厳しいですよね。頑張って現状維持することも難しいという感じがします。

安倍:でも、日本に対する世界の注目は、非常に集まっていると思うんですね。オリンピックもそうだし、文化も。

西田:訪日観光客は増えていますね。

安倍:新しいイノベーションが生まれているし、可能性として、日本はとてもポテンシャルが高いと私は思っています。その日本の精神性が世界をリードしていかないと「地球が終わる」って、本当に信じているんです。

西田:地球が終わるんですか?

安倍:本当に色んなところに、私も主人と行かせてもらっていますが、経済や環境問題にしても、テロや戦争だったりしても、どこの国も安定してないじゃないですか。先進国で比較的安定しているのは、日本しかないと思っているんです。

日本人って、元々が善悪で言うと、すごく「善」だと、私は思っているんですね。

新幹線のお掃除みたいなものであっても、あれは日本人にとっては「まぁ、すごいね」というぐらいだけど、もう観光名所になるくらい、世界からするとすごいことで。

何故外国人がすごいと思うかっていうと、あの素早いお掃除がすごいのではなくて、瞬間的にキレイにできるぐらいしか汚さない日本人のマナーの良さに驚くっていうところもあるっていう。日本って、私はやっぱりすごい国だと、本当に思っていて。

西田:まぁ、そうですね。ただ、大抵どの国にも「すごいところ」と「すごくよくないところ」があるような気もします。

安倍:千何百年ごとに世界の文化の中心が廻ってくる。そういうことを考えても、これからは日本の時代なんですね。

西田:う~ん。

谷崎:社会学者としては「そうです」とは言い難いところではありますね。

西田:各種の指標やデータを見てみても、日本の時代はもう来ないんじゃないかとしか言いようがないですね。とくに2020年以後はかなり厳しい。

安倍:みんなで日本の時代を作っていこうという気運が盛り上がっていかないと、本当に日本の時代は来ないと思うので。そこで私は、日本はすごいんだよって言いたいし、本当にそのように思っています。

今、伝統芸能にしてもなんでも、もうここで途絶えてしまいそうなものがいっぱいあって。工芸品にしても、後継者がいないという問題を抱えていて。それを今みんなで頑張って盛り上げていきたいです。

東京じゃなくて、地方がかっこいいって時代にしたい




西田:日本のきれいなところがお好きなんですかね? ぼくは、政治の研究の他に、若年無業者の研究やっています。いわゆる「ニート」の問題ですね。

若年世代にも今、年間60万人くらい若年無業者がいるんですけど、なかなか大変ですよ。日本の失業率は極めて低くて、失業率は下がっているにも関わらず、若年無業者の数は横ばいなんです。

つまり、子供の人口が減っていることを考え合わせると、比率としては増していることになります。第一次安倍内閣の時に、若者再挑戦のための施策というのは本格的に整備され始めたのですが、やはりその後なかなか、手薄な状態が続いています。

安倍:でも、なんかこう夢を持てない世の中よりは、夢があったほうがいいじゃないですか。

西田:う~ん。「夢」の問題でしょうか。経済や政策の問題じゃないでしょうか。

安倍:私はもう、東京じゃなくて、地方がかっこいいって時代にしたいと思っています。色んなニートの人達とも話しをしたりすることもありますが、なぜニートになるかも考えなくてはいけないと思います。。

西田:主にケガと病気ですね。よく「怠けた結果の自己責任だ」などと非難されがちですが、内閣府の統計などを見ると、主たる原因はケガと病気なんですよ。

だから、就労経験を持っている人が大半なんですよね。ブラック企業などに入って働けなくなって…みたいなケースもありますし。

安倍:でもそれで、ケガや病気が治ったりすれば、また気持ちが盛り上がってきて、働けばいいわけじゃないですか。

西田:まさにそれを許さない、復職したい人の気持を受け入れていない/受け入れられていないのが今の社会の在り方ということですね。

安倍:でも、例えば、夜の飲食業なんかは、今、本当に人手不足で、アルバイトも来ないっていうような状況なので、やる気になれば仕事はあると思います。また、地方では農業や林業など後継者がいなくて困っているところもある。一人一人に向いた仕事が見つけられるといいと思います。

西田:地方で、ですか。

安倍:私も実際、移住者と結構付き合っています。そうすると、農業したりとか、新しい形のコミュニティが生まれています。

でも、なんとなく若者たちが都会だけが良いんじゃなくて、地方でもうまく生きていけるんだっていうような形になってくといいなという思いがありますね。

西田:そうですね。それは確かにそうなれば良いですけどね。

安倍:だから、そこには伝統工芸の後継者がいたりとか、みんなが求めてる世界がある。大学を卒業したら大手企業に行くみたいなスタイルが、私達の時代と全然変わっていないので。

でも、そんな世界は「ちょっと先には無いんだ」っていうことを今の大学生達には言っています。そこを求めていても、幸せになれるわけではなくて。

西田:それは間違いないですね。

安倍:大手企業を目指している人達は、その名前や給料とか、働き方みたいなものだけで。「自分が本当に何をしたいか」ということを求めて、その会社に入ってるわけではない人が、ほとんどじゃないですか。そこが、これからはかなり変わっていくんじゃないかって思うんですよね。

西田:しかし、大半の生活者は、「夢」よりも「生活の安定」を望んでるんじゃないかと思います。

昔のような終身雇用のシステムも成り立たないうえに、一度職を失うと復職するのが困難なのが日本社会です。大学に目を向けてみても、親の世代にお金がない。昔は親が払うのが当たり前だったのですが、今は学費を払うのは学生本人に移りつつあります。その学費はどうするんだという問題があります。

そうなると給料水準が高いところに就職できないと奨学金を返していけない。例えば、生活費含めて、仮に大学在学中に年間100万円奨学金を借りたとしましょう。大学を4年で卒業して400万円借金背負った状態でとなると、なかなか給料水準の低いところに就職する、たとえば地方への就職は本人の意思とは別に制限される可能性もあります。

安倍:何を選び取っていくかということですよね。

高齢化社会ですので、お年寄りの方にはすごいお金がかかっていて。子供や教育のところにお金が行かないというのは間違っていると思うので。むしろ、そっちの方にお金を遣ってもらいたいなと思いますけど。

選挙の事情など色々考えたりする時には、どうしてもお年寄りの方が票にはなる部分があるので、どうしてもしょうがないところがあるかなって。

ただ、今の私の考え方に共感する人が増えてきているっていうのは確かだと思う。もちろん私、一部の人達にしか会っていないわけではなくて、不特定多数の人達の前で話しているつもりなんですよ。

西田:人がお好きなんですかね?

安倍:人見知りなので、誰でもいいってわけじゃない。でも嫌いな人は根本的にいない。でも、すごく仲良しの人もそんなにいないかも。

谷崎:自分を批判した人でも会いに行くとか。ちゃんとそこに向き合っていこうという姿勢がありますよね。

西田:ぼくはもともと人嫌いなのであまり人に会いたいと思いませんし、ましてや批判された人に自分から会いにいこうとは思いません。

谷崎:西田さんを批判した小林よしのりさんとは対談しないんですか?

西田:ろくに読んでないうえに批判といっても言いがかりのようなもので、どうせめんどくさいことになるだけですから、自分から対談したいなどとは思わないですね(笑)

プロフィール


■安倍昭恵
首相夫人。1962年生まれ、東京都出身。聖心女子専門学校卒、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。電通勤務を経て1987年に安倍晋三氏と結婚。

■西田亮介
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学。情報と政治(ネット選挙、政党の情報発信)、若者の政治参加、情報化と公共政策等を研究。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授等を経て現職。著書に、『マーケティング化する民主主義』(2016年、イースト新書)、『メディアと自民党』(2015年、角川新書)など多数。

リンク先を見る
メディアと自民党 (角川新書)
posted with amazlet at 16.11.09
西田 亮介
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-24)
Amazon.co.jpで詳細を見る


リンク先を見る
民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版 (幻冬舎新書)
posted with amazlet at 16.11.09
文部省
幻冬舎 (2016-01-29)
Amazon.co.jpで詳細を見る