筒香嘉智ピッツバーグ・パイレーツ)の打撃がパッとしない。昨年8月のパイレーツ移籍後、最初の13試合で5本塁打という強烈なインパクトを残した筒香は、単年400万ドル(約5億1712万円)で再契約を結び、今季は主力としての活躍が大いに期待された。

 ところが......5月22日(現地時間:以下同)には本塁打を放ったものの、その前の試合までの打撃成績は、32試合で103打数18安打13打点、打率.175と低迷。二塁打3本と本塁打1本、長打率は.233と自慢の長打力も完全に鳴りを潜めている。(※22日の試合を含めた成績は105打数19安打14打点、打率.181長打率.267)

 選手の貢献度を示すWARは-0.6(ファングラフス指標)で、パイレーツで30試合以上に出場している選手の中でダントツの最下位。この成績でも4番〜6番の中軸としてスタメン出場は続いているが、無安打に終わる試合も増えてきた。


開幕から苦しいバッティングが続く筒香

 結果が出せない筒香に、地元ピッツバーグも我慢の限界に達したようだ。地元スポーツメディア『DK・ピッツバーグ・スポーツ』は、「彼は本当にひどいとしか言いようがない」と痛烈に批判。ファンからも「筒香がまだチームに残ってるなんて冗談だろう?」「筒香がこれほどひどいなんて信じられなかった。ピッツバーグ周辺大学の選手のほうが優秀では」「5月いっぱいで復調しなければクビ(DFA)にすればいい」といった厳しいコメントがSNS上で増えている。

 筒香との再契約を歓迎していたパイレーツ専門メディア『バックス・ダグアウト』のジェイク・スルボドニック記者も、「筒香は今お気に入りの選手ではない。スタメンにその名があれば、"自動的にアウトになるだろう"と思うようになりました。彼は迷走しているように見えます」と現状に失望している様子だ。

 今の筒香にとっては、パイレーツのデレク・シェルトン監督に「彼にはボールを場外に飛ばせる力があるのは皆が知っていること。彼の力は戻ってくる」と信頼されていることが唯一の救いだろう。

ボールを引っ張る確率が減少

 5月18日、敵地でのシカゴ・カブス戦後、筒香はついに「今年は本当に『なんでだろう』というくらい、いい当たりが正面に飛ぶことが多い」という自身の悩みを明かした。いったい、筒香の打撃に何が起こっているのか。パイレーツの地元紙『ピッツバーグ・ポスト・ガゼット』は、4月19日と5月2日の2度にわたり、筒香の問題点を洗い出している。

 4月19日に挙げられたのは、「打球速度と打球角度の低下」だ。記事では次のように述べられている。

「(筒香は)昨季から平均打球速度が時速4.9マイル(約7.8キロ)遅くなり、打球角度は1.9度も低下している。それに伴い、今季のバレル内(ヒットになりやすい理想の打球速度と角度)での打撃確率はたったの2.1%、ハードヒット(初速が95マイル、約152キロを超える打球)は4.8%と低迷している」

 打撃不振が続く理由はそれだけではなさそうだ。記事にはこうも書かれている。

「ボールを引っ張る確率は昨季の35.6%から今季は14.3%にまで減少している」

 この指摘は、同紙の5月2日の「筒香には何が起こっているのか、どうすれば修正できるのか」という記事でも真っ先に取り上げられ、次のように述べられている。

「第一に、筒香はボールが引っ張れていない。(5月2日時点で)、プルフィールド(左打者の場合のライト方面)への打球は19.6%で、キャリア平均32.6%から半減している。筒香がここまで打った安打12本のうち11本は2塁よりも左側に飛んでいる。本来、左打者である筒香のパワーはライト方向に向けられるはずだ」

 それを証明するように、今季の第1号本塁打は左中間スタンド方向に入った。『ピッツバーグ・ポスト・ガゼット』によれば、「昨季、筒香が放った8本塁打のうち左中間スタンド方向への本塁打は1本だけ」という。筒香の打球方向はどうして変わったのか。その原因は、「スイングの遅れ」にあるようで、この修正が復活の大きなカギとなることを次のように述べている。

「理論的に言えば、今季の筒香は、ボールを本来のコンタクトポイントよりも少し後ろで当てている。パイレーツは彼のスイングを戻すため、無駄な動きを排除させる努力をさせています。腕ではなくコア(体幹)を使い、スイング軌道を短くし、バットを前に出すことができれば、彼の求めている修正につながるだろう。かみ合い始めれば、彼はこれまで以上によくなるだろう」

打撃コーチの能力にも疑問

 また同紙は、今季の筒香には『いい面もある』ことを明かす。

「昨季11%だった空振り率は、今季8%に減少。一方、四球率は昨季より3%も増えており、プレートディシプリン(選球眼)は問題ない」

 加えて、「MLBスタットキャスト(MLBで導入されているデータ解析ツール)によれば、筒香が打ち返した打球速度と打球角度から算出された今季の打率は.233である。これは過去2シーズンの予想平均値より高い」と、筒香の打球の質が進化していることが、「いいニュースである」と述べられている。

 5月20日、筒香は「コーチとは"結果は気にせず、このスイングを続けよう"と話している」とコメントし、実際にスイングの形も戻りつつある。5月21日に本拠地で行なわれたセントルイス・カージナルス戦に「6番・DH」で出場した筒香は、2回の第1打席でセンターオーバーの二塁打を放った。さらに23日にはライトへの本塁打を放つなど、以前よりもプルフィールド寄りになっている。これはいい兆候ではないだろうか。

 しかし、スルボドニック記者は、「パイレーツのアンディ・へインズ打撃コーチがよくない。彼以外の人材を探したほうが筒香のためになると私は思います」と、ヘインズ打撃コーチの能力を疑問視。今のままでは筒香の打撃不振がさらに長期化する可能性を示唆し、最悪の状況を次のように語った。

「私は筒香を信じているが、彼が何かを掴むまで永遠に待てる時間はない。(一塁手には)マイケル・チャビス、ダニエル・ボーゲルバック、メイソン・マーティンと代わりになる選手がいます。こんなことは言いたくないが、最悪の場合、DFA(事実上の戦力外通告)という選択肢もあり得ます」

 昨季の終盤から一転して、苦しい状況が続いている筒香。現状を打破するには、期待される打撃力で実力を示していくしかない。