流経大柏のMF堀川大夢(3年)は、セレッソ大阪U-15時代に全国大会で優勝を経験している。ポジションはSBだった。CBも少しだけやった経歴はあったが、アタッカーで起用されたことはない。今のように攻撃的なポジションで個性を放つとは誰も想像してなかっただろう。そんな堀川が、かつての恩師たちが見守る前で左サイドハーフとして躍動した。
U-18プレミアリーグ高円宮杯EASTの3節。対戦相手の横浜F・マリノスユースのベンチには、C大阪U-15時代にお世話になった大熊裕司監督と田島一樹コーチが座っていた。
とくに田島コーチとは、U-15時代に監督として直接指導を受けた間柄。本人は「特別に何か気持ちが入っていたわけではない」と振り返ったが、堀川は開始5分に挨拶代わりの一撃を見舞う。右SB大川佳風(3年)からのラストパスを右サイドで受けると、相手をうまく外してゴールに流し込んだ。
「1点目は(相手が)滑ってくると思ったので、右に切り替えしたらうまくいった」
手応え十分の先制弾で勢いに乗ると、以降はアグレッシブなプレーで攻守において輝きを放つ。攻撃では推進力を発揮し、相手がふたり掛かりで来てもどんどん前に入っていく。
「日本一の選手になれと監督から言われていて、自分も意識している。自分たちよりも相手が強いと思わない」
試合前に流経大柏の榎本雅大監督から何度も言われたことを心に留め、決して怯まない。テクニカルなタイプではないが、狭いスペースでは相手の意表を突く足技で局面を打開するなど、チャレンジする姿勢を貫いて相手に立ち向かった。守備でも献身的にプレスをかけ、二度追い、三度追いをいとわない。
懸命に走り続けた結果、後半はゲームから消える時間が長くなった。前半のように攻撃で違いを作れなかったが、最後の最後に見せ場が訪れる。
2点を先行したものの、最終盤の連続失点で2−2となった後半アディショナルタイム。MF大沼陽登(3年)のラストパスを受け、ゴール前に抜け出した堀川は無我夢中で前にボールを運んでいく。目の前はGKだけとなったが、わずかに横から相手DFがカバーに来ていた。
誰もが「シュートを打つぞ!」と思っていた次の瞬間だ。急停止をして、ゴール前に走り込んできたMF橿本心(3年)へのラストパスに切り替えた。これがアシストとなり、堀川がチームに勝利をもたらした。
冷静沈着なプレーで最後の最後に大仕事をやってのけた堀川。決勝点が決まると、感情を爆発させる。仲間の輪を外れてもひとりで何度も雄叫びを上げた。
C大阪U-15時代、堀川は決して目立つ選手ではなかった。スポットライトを浴びていたのは今季トップチームでJ1デビューを果たした同級生のFW北野颯太(C大阪U-18/3年)。自身は世代別代表に選出されるような選手でもなく、U-18チームへの昇格も果たせなかった。だが、堀川の人生は流経大柏で大きく変わる。
「元々、自分は守備も好きだったけど、攻撃が好きだった。高校から自分は前のポジションになったので、ほかの選手以上に取り組んで追い付かないといけないし、自主練習でも補わないといけなかった」
攻撃的なポジションは小学生時代も含めて一度もやったことがない。ただ、昔から攻撃が好きでアタッカーで勝負したい想いがあった。そこで堀川は入学すると、1年生同士の紅白戦でサイドハーフを志願。以降はボランチも務めたが、昨季からは前のポジションで起用されるケースが多くなった。
その結果、縁がなかった世代別代表にも名を連ね、昨季は早生まれで資格を持っていたU-16日本代表に常時招集され、練習試合ではキャプテンマークも託されるまでになった。
中学時代を知る横浜ユースの大熊監督も成長ぶりに目を細める。
「良いものを持っていますよね。守備的なポジションではありましたが、配球とかボールを落ち着かせるプレーは得意。高校に入って前のポジションをやるようになり、よりアイデアを発揮できるようになった。今日のゲームで一番嫌でしたね」
90分間を通じて安定したパフォーマンスを発揮できるかなど、まだまだ課題は多い。だが、積み上げてきたことが結果に表れ、自信になっている。
「2年生の時の横浜戦では、フリーの状態でシュートを外したりもした。今日はやってやるぞという想いもあったし、自信を得られたと思う」
流経大柏で自分を輝かせる術を知った男の可能性は無限大だ。
取材・文●松尾祐希(フリーライター)
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