ロシアの侵攻をはばんでいる「泥濘(でいねい)」とは

 ロシアがウクライナへと軍事侵攻を開始してから1か月あまりが経ちますが、依然として一進一退の攻防が続いており、戦火は止む目処は立っていません。
 
 そのひとつの要因として「泥濘(でいねい)」によって侵攻をはばまれているといいます。
 
 悪路走破性能に長けた軍用車両をもってしても走行困難な泥濘とはいったいどういうものなのでしょうか。

ロシア軍を苦戦させるウクライナの「泥濘」(画像:ウクライナ軍参謀本部)

 SNSの登場によって、一般市民や兵士たちが直接情報を世界中に公開できるようになったことで、日本にいるわれわれのもとへもリアルな情報が日夜舞い込んできています。

【画像】ロシア軍を撃破した秘密兵器はコレだ! さらにウクライナ領内に残されるロシア軍車両などを見る(38枚)

 そして、そのなかには、侵攻を続けるロシア軍の戦車や装甲車が、泥のなかで立ち往生してしまっているというものも見受けられます。

 もともと、ウクライナは肥沃な大地を持っていることで知られており、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほどでした。

 しかし、それは同時に、秋から冬にかけての降雨期と、冬から春にかけての雪解け期において、多量の泥濘を生み出すことを意味しています。

 深く柔らかい泥濘、つまり泥のなかにあっては、一般的な乗用車はもちろん、悪路走破性能に長けた軍用車でも走行することは容易ではありません。

 泥濘は攻める側にとっては脅威であり、守る側にとっては鉄壁にも匹敵する存在です。

 実際、ウクライナと気候風土の近いロシアでは、かつてソ連時代にドイツ軍の侵攻を受けた際、泥濘によってドイツ軍を阻んだという歴史があります。

 こうした泥濘路では、タイヤの性能が非常に重要となります。

 ただ、かつてに比べて、タイヤの性能は劇的に進化していますが、それでもこうした泥濘を乗り越えるのは簡単ではないようです。

 SNS上では、ロシア軍関係者によるコメントとして「ロシアの軍用車は、1か月に1回の割合で駐車する位置を変える必要がある」という内容が投稿されています。

 その理由として、日光による片方の側面のタイヤの劣化を防ぐためと説明されていますが、そこには泥濘路で走行不能になる可能性を少しでも下げるというねらいもあるようです。

 泥濘路をはじめとするオフロードでは、グリップ力を高めるためにタイヤの空気圧は低く設定されることが一般的です。

 しかし、空気圧を低く設定するとタイヤの耐久性は下がり、その状態での走行が続くと、タイヤへ過剰の負荷がかかり、最悪の場合には走行不能となってしまいます。

 ある識者は、ロシアもしくはウクライナによるプロパガンダの可能性も考慮し、画像の内容を鵜呑みにすべきではないと指摘します。

 一方で、広大な国土の大部分が泥濘によって走行困難となっていることで、結果としてロシアの侵攻は事前の予測よりも苦戦していると考えられています。

「たかがドロ道」と思ってはいけない…

 今回の話から見えるのは、悪路走破性能に長けた軍用車であっても、泥濘路の走行は困難であるということです。

 舗装された道路がほとんどの日本では、長距離の泥濘路を走行する機会というのはあまりないかもしれません。

 一方で、前述したように、タイヤの劣化を防ぐために月に1回も駐車位置を変更している人もほとんどいないことでしょう。

 定期的にタイヤの空気圧をチェックしていたり、山の残り具合を把握しているユーザーであれば大きな問題はないかもしれませんが、そうでないユーザーが、劣化したタイヤで泥や砂利であふれた道や砂浜などを走行してしまうと、パンクや破裂してしまう危険性は大いにあります。

「泥濘」突破は難しい? ロシア軍の装甲車(画像:ウクライナ軍参謀本部)

 インターネットをはじめ、現在身近になっている技術のなかには、軍事技術から発展したものも少なくありません。

 また、どの国でも軍事予算(防衛予算)は国家予算のなかでもかなりのウェイトを占めることが一般的です。

 それにもかかわらず、「ドロ道」でスタックしてしまうというのは意外なように思えるかもしれません。

 しかし、裏を返せば、最先端の技術をもってしても、「ドロ道」は強敵だということでもあります。

 「たかがドロ道」と思うことなく、未舗装路を走行する際には、タイヤやクルマの状態をしっかりとチェックするようにしましょう。