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全日本空輸(以下ANA)は3月28日に、整備施設を見学する「ANA Blue Hangar Tour」に関する報道公開を実施した。明日から一般受付が開始されるので、一足お先に、同ツアーの内容をお届けしたい。
同社は以前から機体工場の見学を実施しているが、2020年3月2日以降、COVID-19感染拡大防止のために休止を余儀なくされた。それを再開するだけでなく、新たな施設を加えてリニューアル、それとともに名称も改めた。以前に紹介した訓練施設見学の「ANA Blue Base Tour」と統一感を持たせたネーミングとなる。
「ANA Blue Hangar Tour」の受付。「ANA Blue Base Tour」と同様に、空港のチェックインカウンターみたいな仕立て
受付と同じエリアでは、ANA関連グッズの販売も行われる
体験型の施設を新たに追加
実は筆者自身、30年ほど前にANAの機体工場見学に参加した経験があった。同社の機体工場見学には50年以上の歴史があるが、1993年9月に現在の施設が完成した後に実施していた機体工場見学だけでも、年間平均で約7万人、累計120万人が訪れていた。
ハンガーというと一般に想起されるのは hanger、衣類を掛ける道具のことになるだろう。しかし飛行機の業界では、ハンガーといえば格納庫のこと。ちなみにつづりは「hangar」である。間違えないように注意したい。そういえば、駐機場のことを「エプロン(apron)」というが、こちらは前掛けのエプロンと同じつづりである。
閑話休題。「ANA Blue Hangar Tour」の狙いは、「整備部門の仕事をお客様にご理解、ご体験いただく」というもの。そのため、整備の現場を見学するだけでなく、整備士の業務や工具を実際に体験する施設を新たに開設した。集合前と解散後、それぞれ30分ずつ、この施設を見学する時間を設定するという。
体験施設のエントランス
体験施設の開設に際しては、テーマパークや遊園地を手掛けているムラヤマの監修を得ている。整備に関わるさまざまな部門ごとに仕事の内容を紹介するだけでなく、実際に使用する部品や工具に触れることもできる。これは従来の機体工場見学にはなかったものだ。
一方、機体整備の現場については、道を隔てた反対側にある機体工場の格納庫を訪れる形となる。こちらは、以前から実施している機体工場見学の内容をそのまま引き継いでいる。
まずなによりも、整備中の機体を間近に見られるから迫力や臨場感がある。それだけでなく、アクセスパネルなどを開けて機体のメカニズムがむき出しになった状態を見られるので、飛行機のメカニズムに興味がある人は楽しめるだろう。
こうして、「厳しい訓練と学習を経た整備士が、機体を安全に飛べる状態に維持している」という舞台裏を知ってもらうことで、より安心感、信頼感をもって飛行機に乗ってほしい」という話になる。つまり、訓練というソフト面を紹介する「ANA Blue Base Tour」に対して、機体整備というハード主体の一面を紹介する「ANA Blue Hangar Tour」といえそうだ。
○格納庫で現物を間近に見る迫力を
話の流れとしては逆になるが、まずは以前と共通する整備工場見学の話から。
約230m×100m超という巨大な格納庫は、最大で7機を収容できるという。ここが整備工場らしいのは、単に機体を収容するだけでなく、作業用の足場や、モノや機材の上げ下げ・移動に使用するクレーンが設けられているところ。機体によって寸法も外形も異なるから、足場は上下左右に移動できる構造になっている。そして、機体の周囲に足場が取り付いて、そこに整備士が上がっていって作業を行う流れとなる。
機体によって構造が違う部分もあるから、それに合わせて足場などの道具立てが違ってくる。例えば、787にはウィングレットは付いていないが、767-300ERにはウィングレット付きの機体もある。すると、ウィングレットまわりの点検・整備を行うために足場を組む必要がある。そんな、機体ごとの違いを見られるかもしれない。
整備中の787-8。足場で囲われているため、機体はよく見えない。足場が昇降可能で、かつ、天井のレールに沿って左右にも移動できる様子が分かる
767-300ERのウィングレットを点検整備するため、足場を構築していた
ここで見逃せないのは、やはり機体の中身だろう。報道公開を実施したときには787-8と767-300ERが1機ずつ整備に入っていたが、787はエンジンのカウルを外して、内部の整備・点検を実施している最中だった。また、主翼の下面や前縁部ではアクセスパネルを外していたため、内部の構造や配管・配線などが見える状態になっていた。
「ANA Blue Hangar Tour」は、ツアーガイドがアテンドする形で実施する。そのツアーガイドさんの背後では、エンジンのカウリングを開けて整備中。主翼前縁部・下面のアクセスパネルが外されているのがお分かりいただけるだろうか
3階の通路から見下ろした状態の787-8。客室に出入りするため、床面レベルの足場をしつらえている様子が分かる
タイミングが合えば、エンジンを単体で見られる可能性もあるだろう。機体に取り付けた、在姿状態でエンジン整備を実施することもあるが、より整備の内容が深度化すれば、降ろして交換する。すると、降ろされたエンジン、あるいはそれに代わって取り付ける整備済みのエンジンが持ち込まれるからだ。エンジン以外でも、搭載機器や部品が収まった箱が置かれている場面に出会えそうだ。
機体が格納庫の両端に入っていたため、中間部は空いていた。そこの足場だけの状態がこれ。左手には、CF6エンジンが単体で置かれていた
構内で運搬用に使われている三輪自転車。積荷が重いことがある上に、普通の自転車だと転倒の危険性があるため、三輪にしている由。そんな安全への気配りも見所といえる
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体験施設
「ANA Blue Hangar Tour」のキモは、この体験施設であろう。以前は体育館として使われていたスペースをリニューアルした由。そこに、大きく分けると以下のような展示がある。
ANAグループで使用している機体の紹介
整備の内容。日常的に実施しているライン整備と、機体を機体工場に入れて実施するドック整備がある
整備に携わる部門ごとの、仕事の内容の紹介。部門ごとにひとつ、体験できるモノが用意されている
実機で使われているパーツなどの展示
ライン整備の仕事の内容を紹介するパネル。他の部門もそうだが、動画も用意されている
その裏側は、実際にありそうな場面を想定したストーリー仕立て。他の部門にもそれぞれ、同じようにストーリー仕立ての展示パネルがある
ドック整備の仕事の内容を紹介するパネル
エンジン整備の仕事の内容を紹介するパネル
装備品整備の仕事の内容を紹介するパネル
整備サポート部門の仕事の内容を紹介するパネル。機体の運用中に何回も改訂されるマニュアルの担当もここだ
床面には、空港のスポットにある機種ごとの停止位置表示と同じマーキングが
体験コーナーの一例。これはタイヤの残り溝の深さを検査する工具を実際に使っているところ
中でも、パーツなどの展示は必見だ。実機から外された各種計器や搭載機器はもちろんのこと、航空機の機体構造で使われている、さまざまな素材のサンプルも置かれている。「さすが」と思ったのは、どのサンプルもサイズがそろっていること。これにより、素材ごとの比重の違いを手に取って体感できる。
胴体構造で使用するストリンガー(縦通材)の製作工程を示したもの。その下のほうに並んでいるのが、各種素材のサンプル
ハニカム・サンドイッチ・パネルの現物。そうそう見られるものではない
翼端灯やピトー管の現物も展示されている
窓(素材はガラスとは限らない)や、タイヤの断面に関する展示
整備士になるまでと、その後の昇格について紹介するパネル
整備で使用する各種工具の紹介。中には、正式名称だけでなく、社内での通称を併記したものもある。行ってみてのお楽しみだ
ネジやボルトやナットは、単に締めれば良いというものではなく。トルクの規定がある。それに関する説明がこれ。このパネルの手前には、実際にレンチを使う体験コーナーもある
フライト・データ・レコーダーの現物。俗にブラック・ボックスと呼ばれるが、実際には目立たせるためにこういう色で、黒ではない。ロッキード社の銘板が付いていたから、L-1011トライスターから降ろしたものだろうか?
ツアーの概要
最後に、「ANA Blue Hangar Tour」の概要を。
開催は2022年4月4日以降の平日だが、施設点検などで臨時休館になる場合もある。時間は09:30〜11:00と13:30〜15:00。COVID-19の感染拡大に配慮する必要もあり、当初は1回につき最大24名、1日2回でスタートする。
予約はネット予約のみで、1カ月前からANAのWebサイトで予約を受け付ける。料金はかからない。受付開始は3月29日の09時30分だ。
機体工場で整備をしていたもう1機の機体が、こちらの767-300ER
体験施設の中央に鎮座しているのは、787の垂直尾翼(実大模型)
著者プロフィール
○井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。
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