米国では独立記念日だった7月初旬の週末、空港や高速道路は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以前の休日と変わらないくらい人やクルマで溢れかえっていた。多くの米国人はこの週末に慌ただしく小旅行をしたあと、オフィスでの仕事に戻ったり家以外の場所で何か活動したりしていたのだろう。

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パンデミックからのこうした変化を見ていると、大きな疑問がいくつか浮かんでくる。そのひとつは、「この人たちのペットはどうしているのだろうか?」だ。

ポストコロナのビジネスチャンス

約1年半にわたるロックダウンの期間中、米国ではモフモフした友人を欲しがる人が増えた。ペットを飼う人の割合は急増し、ブリーダーの元で生まれる子犬を待つ人の待機リストが長くなっていると報じられたのだ。

これに伴い、ペットに狙いを定めたスタートアップも好調だ。「ペットフードとペット用品のAmazon」とでも呼ぶべきChewyの直近の収益報告書によると、同社の第4四半期の売り上げは51%増だったという。

イヌ用のおもちゃやおやつのパーソナライズされた詰め合わせを販売するBarkは、第4四半期の月間登録者数が前年比72%増の26万4,000人だったと報告している。また、イヌの飼い主とトリマーをマッチングするアプリ「Pawsh」の利用者は20年3月から6月にかけて125%の伸びを見せており、新規利用者の3分の2は初めてペットを飼う人だったという。Pawshの共同創業者であるカーシック・ナララセッティは、「イヌを飼うことがパンデミック中のトレンドになったのです」と語る。

イヌの散歩や世話をする人を探せるアプリを提供するスタートアップ、Roverの最高経営責任者(CEO)であるアーロン・イースタリーは、「パンデミック後にペットを迎えた人々はそれまで頻繁に旅行したり長時間働いたりしていて、それがペットを飼わない理由になっていたのかもしれない、というのがわたしたちの仮説です」と説明する。こうした人々が再び長時間働いたり休暇で旅行に行ったりするようになると、飼い主としての生活は新しい章に入ることになる。そしてここに新しい課題が生まれ、新しいソリューションが必要となり、それをスタートアップが提供する可能性があるのだ。

Roverの21年5月時点のサーヴィス利用予約額は4,500万ドル(約49億円)を超え、過去最高を記録したという(十分な心構えができていない飼い主がペットを途中で放り出すのではないかと心配する人もいるが、動物愛護団体は『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対してそうした事例の急増は見られていないと語っている)。

福利厚生としてのペットケアも

パンデミック以前から、米国のペットケア産業は1,000億ドル(約11兆円)規模にのぼっていた。モルガン・スタンレーの最近の報告書によるとその市場規模は急成長を遂げており、次の10年で3倍になる可能性もあるという。アナリストのひとりは報告書に「米国のペット産業は転機を迎えていると見られる」と書いたが、そう考えるのはこのアナリストだけではないだろう。

ヴェンチャーキャピタル(VC)やプライヴェートエクイティの投資家たちは、グルメなドッグフードのような高級品であれグルーミングのような必需サーヴィスであれ、次の大きな投資先を探している。ペットに特化したスタートアップに対するVCの関心は20年に前年比で29.5%も増加しており、その勢いは衰えていないようだ。

イヌの飼い主と散歩を代行してくれる個人をつなぐアプリを提供するWagのヴァイスプレジデントを務めるデヴィッド・ケインは、「サンフランシスコのような場所では、子どもの数よりペットの数のほうが多いのです」と語る。こうした都市はペット関連のほかのビジネスが育つ培養地になりうるだろう。例えば、雇用主が従業員のために提供するペットケアのようなものも考えられる。

「現在わたしたちは数千人の社員を擁するベイエリアのいくつかの企業と、福利厚生としてイヌの散歩やドッグシッターを提供する交渉を進めています」と、ケインは言う(取引が確定していないので、具体的な企業名は伏せられている)。

家族の一員だからこそのビジネスチャンス

投資家を惹きつけるのは、ペットを飼う人が増えているという事実だけではない。飼い主とペットの関係性にも魅力があるのだ。

多くの人にとって、ペットはもうひとりの家族である。「まるで親と子のような関係に発展してきたのです」と、Roverのイースタリーは言う。「ペットの飼い主は、適切な訓練方法を見つけたり、穀物入りのドッグフードのよしあしを見極めたりといったことにストレスを感じています。人間の子どもを育てるときに親が感じるストレスの多くが、いまではペットの世界でも見られるようになっているのです」

特に初めてペットを飼う人にとって、これらのストレスを和らげてくれるのは新しいサーヴィスかもしれない。モルガン・スタンレーによると、ペットケアにかける家庭の支出額はパンデミックのかなり前から着実に増加しているという。

しかもその支出は一度や二度で終わらず、ペットが生きている限り続いていく。イヌの場合、その期間は15〜20年にも及ぶのだ。「こうしたイヌたちは、その後の10年間をずっと一緒に過ごすパートナーになるのです」と、BarkのCEOであるマニッシュ・ジョネジャは語る。Barkはイヌのライフサイクルを通じて顧客に寄り添うことを目指しており、年齢や犬種に応じて異なるドッグフードやおもちゃを飼い主にリコメンドしている。

ペットという顧客の増加とそれに関連した消費意欲の高まりによって、ペットが何を必要としているか、どこにビジネスチャンスがあるのかに関して新しいアイデアが次々と生まれている。「イヌのウェルネス」を掲げるスタートアップのBarkynは21年4月、シリーズAの投資ラウンドで900万ドル(約9.9億円)を調達した。また、「ペットのためのOne Medical[編註:人間向けの医療コンシェルジュサーヴィスを提供する企業]」を謳うSmall Doorは、動物医療の専門店に出資している数多くのスタートアップのひとつだ。

ほかにもイヌ用のスマート首輪や、飼い主たちが夢に見ていたようなペットフード・ディスペンサー、ペット用の衣服などの分野も投資家に注目されている。さらには、イヌの寿命を延ばすという突飛なアイデアを掲げるスタートアップもあるほどだ。

Barkの創業者であるマット・ミーカーは、同社にはまだたくさんのアイデアがあると語る。例えば、体重約60kgにもなる巨大なグレート・デーンとも一緒に快適な空の旅を楽しめる「イヌ特化の航空会社」は、彼が個人的に抱いている壮大で革新的な発想だ。いまのところはまだ夢物語だが、スタートアップのアイデアに関してはどこにでも成功のチャンスが転がっている。

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