飲酒運転取締り件数が減ったのは緊急事態宣言のおかげ?

 新型コロナウイルス感染拡大にともない、はじめての「緊急事態宣言」が発令されたのは、2020年4月7日でした。
 
 この宣言と前後してはじまった「他人との接触機会を減らす」「“密”を避ける」「マスク、手洗い、うがいを励行する」という努力は、もう1年以上も続いています。

 しかし、他人との接触がどうしても避けられない職業は、少なからず存在します。警察官も、そうした職業のひとつです。

「飲むなら乗るな! 乗るなら飲むな!」 コロナ禍で起きた交通取締りの変化とは

【画像】これはエグい。。色々な事故の画像を見る(14枚)

 実際に警察庁が2020年2月21日に発出した「交通街頭活動中における新型コロナウイルス感染症への対応等について(通達)」では、「特に、飲酒取締り時にあっては、運転者の酒臭を直接確認することなく、必ずアルコール感知器を使用する」との記述があり、早い時期から交通取締りでの新型コロナウイルス感染を危険視していたことがわかります。

 では、このコロナ禍において、交通違反の取締り状況はどのように変化したのでしょうか。

 2021年7月28日に警察庁が公開した「上半期における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について」をもとに、直近の2021年上半期(1月から6月)と、コロナ禍がはじまった2020年上半期(同)、コロナ禍以前の2019年上半期(同)を比較してみましょう。

 まず「飲酒運転」です。2019年上半期に1万2441件だった取締り件数は、2020年上半期には1万1292件、2021年上半期には9455件へと激減しています。

 それ以前の2015年から2018年の件数はおおむね横ばいで推移していたことから、2020年と2021年の減少は明らかに“コロナ禍の影響”が考えられます。

 その原因としては「コロナ禍による外出自粛要請に従い、クルマで出かける人が減ったことが、取締り件数の減少につながった」という可能性もあります。

 しかし、飲酒運転する人がそもそもそうした要請に素直に従うとは考えづらく、実際には対人接触が不可避で、また検問などの集中取締りで“密”が起きやすい飲酒運転の取締りそのものが減ったためではないでしょうか。

最高速度違反の件数も減少。一方で増えた取締りとは?

 では「最高速度違反」についてはどうでしょうか。

 2019年上半期の56万5602件は、2020年上半期に57万6415件に増加したのち、2021年上半期は54万5632件へと減少しています。

 ただし最高速度違反の取締り件数は、2015年から年々減少を続けてきています。2020年から2021年の減少は、コロナ禍の影響というよりも、そうした流れの一環と考えるべきでしょう。

最高速度違反の取締り件数は減少傾向にあるという

 一方、この3年間で大幅に増えているのが、「歩行者妨害」「一時不停止」の取締り件数です。

 歩行者妨害は2019年上半期の11万252件が2021年上半期には16万5583件と、約1.5倍に。一時不停止は同じく65万6137件が約1.24倍の81万3221件となっています。

 警察庁は、2018年10月23日に「信号機のない横断歩道における歩行者優先等を徹底するための広報啓発・指導の強化について(通達)」を発出。

「交通事故死者数に占める歩行中死者の割合が欧米諸国に比べ高いことや、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控え、歩行者優先が定着している諸外国からの訪日外国人観光客の増加が見込まれることを考慮すると、横断歩道上での安全確保に向けた対策を速やかに講じる必要がある」としています。

 つまり、ここにきての歩行者妨害の取締り件数増は、この通達を受けてのものであり、また一時不停止については、信号機のない交差点での歩行者妨害の取締りとリンクしているものと考えられることから、これもコロナ禍とは無関係の変化といえそうです。

※ ※ ※

 2021年7月下旬から8月上旬にかけては、全国の新型コロナウイルス感染者数が過去最高を記録するなど、コロナ禍からの出口はまだ不明瞭ですが、今後の交通取締りはどのように変化するのでしょうか。

 最高速度違反取締りは、各都道府県警で導入が進む「移動式オービス」を使うなど「非対面」での取締りに軸足が移っていく可能性があります。

 そうして生まれた人的リソースの余裕を、重大事故によりあらためてその危険性が再認識された飲酒運転への取締り強化に充てていくことも考えられるでしょう。

 一方、歩行者妨害、一時停止違反については、引き続き重点的な取締りが継続すると思われます。

 もちろん、交通違反は「捕まらなければいい」というものではないことから、こうした傾向を踏まえつつ、ゆとりのある運転、安全運転に心がけることが大切です。