連載「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#71

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。今回は東京五輪で話題となった選手村の段ボールベッド。その裏にあったストーリーを開発メーカーへの取材で迫る。後編は五輪初の寝具パートナーとなった経緯と、選手村に提供した技術について。(取材・文=福谷 佑介)

 ◇ ◇ ◇

 7月23日に開幕し、日本勢のメダルラッシュに沸いている東京五輪。残り期間もわずかとなったこの五輪で開幕前から競技とともに話題となったのが、多くの選手たちが時間を過ごす選手村の居室に置かれた“段ボールベッド”だった。

 この段ボールベッドを作ったのが「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会オフィシャル寝具パートナー」となった株式会社エアウィーヴだ。東京五輪、そしてパラリンピックの選手村に1万8000床のベッドとマットレスを提供し、アスリートたちのパフォーマンスを眠りから支えている。「段ボールベッド」で国内外から注目を集めることになった同社の広報担当者に、東京五輪で行った取り組みについて話を聞いた。

 なぜ、エアウィーヴ社は東京五輪のパートナー企業となったのか。同社広報担当者は「寝具というカテゴリーで五輪のスポンサーが付くのは、この東京大会が初めてです」という。これまでの五輪の歴史で「オフィシャル寝具パートナー」となった企業はなく、エアウィーヴ社が初。これまで、寝具はあくまでも備品の1つと考えられて重視されておらず、2007年の創業以降、アスリートの睡眠を支えてきた同社はここに注目した。

 近年、アスリートを中心に、良質な睡眠をとることへの関心は高い。アスリートに関して言えば、パフォーマンスの向上やコンディションの維持、一般の人でも健康管理や仕事の効率アップなどのために睡眠を大事にする人は増えている。同社は五輪、パラリンピックに参加する全てのアスリートに良質な眠りを提供し、大舞台で100%のパフォーマンスを発揮してもらいたいと考え、機能性を持たせた寝具を選手村に入れたいとPRを続けた末に五輪初の寝具パートナーとなったのだ。

段ボールベッドだけじゃない貢献、マットレスに「持って帰りたい」の声

 エアウィーヴ社が五輪で行ったことは選手村の居室に「段ボールベッド」とマットレスを提供しただけではない。組織委員会が行った選手個々の体に合わせたマットレスの硬さを提案する「マットレス・フィッティング・サービス」に技術を提供。これはデータ計測を行い、選手個々の体の特徴に合わせたマットレスの硬さの最適な組み合わせをアドバイスするものだ。

 同社は選手村のベッドのマットレスを選手個々の好みに合わせて硬さを変えられるようにしている。開発段階からこだわりを持って進めてきたものだという。マットレスは3分割になっており、それぞれ表裏で硬さの異なる仕様になっている。「柔らかめ」「標準」「硬め」「とても硬め」の4種類で構成され、この計測で選手の体に最適なマットレスの硬さの組み合わせを提案。計測結果に合わせて、居室のマットレスを組み替えられるようになっている。

 実際に数多くのアスリートがこの計測に訪れ、最適なマットレスの提案を受けたという。段ボールベッドとともに同社のマットレスに対しても、使用した選手や各国関係者から好評の声が多く、実際に「持って帰りたい」「どうやったら購入できるのか」といった要望も選手村で寄せられているという。

 実際に選手から同社に届いたという感想も紹介しておこう。

「腰を痛めてからなかなか合うベッドがなかったが、今回とても寝心地が良く、今まで使用していたベッドの中でも最高のベッド。持ち帰りたいくらい良かった」(日本代表選手)

「アイデアが素晴らしい」(海外代表団のドクター)

「肩のけがをして以来、寝るときに肩を気にしていたが、このマットレスは肩が圧迫されず寝返りしやすくて良い」(海外代表選手)

 大会期間中の選手を眠りから支えるという新たな試みに取り組んだエアウィーヴ社。「段ボールベッド」によって賛否が寄せられ、想定外の形で注目を集めることになったものの、その裏でしっかりとアスリートの眠りを支えて大会に貢献していた。(福谷 佑介 / Yusuke Fukutani)