昨シーズンはクラブ最大目標のチャンピオンズリーグ(CL)で準決勝敗退。さらに、最低ノルマとされる国内リーグでもリールに優勝をさらわれて4連覇を逃し、手にしたタイトルは国内カップだけに終わったパリ・サンジェルマン(PSG)。

 とりわけ、シーズン前に放出したキャプテンのDFチアゴ・シウバとシーズン途中に解任したトーマス・トゥヘル監督がともに新天地チェルシーでCL制覇を成し遂げたとなれば、現場の人事を預かるレオナルドSD(スポーツ・ディレクター)が味わった屈辱は想像に難くない。


なんとポール・ポグバまでPSGに移籍するかも...

 そこで、戦犯として批判のやり玉にあがったレオナルドSDは、ユーロ2020というビッグイベントの裏で進行していた夏の移籍マーケットで、大胆かつド派手な動きを見せた。

 まず、契約満了となったリバプールからバルセロナへの移籍が濃厚と見られていたオランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥムに高額な年俸を提示し、あっという間に強奪。本人も直前までは「バルセロナに行くと思っていた」と本心を明かしたほどだが、それでもPSGのプロジェクトとマウリシオ・ポチェッティーノ監督の熱心な誘いがパリ行きを決心させたという。

 続いて、アレッサンドロ・フロレンツィ(ローマ)のレンタル期間が満了した右サイドバックの後釜に、インテルでセリエA優勝に貢献したモロッコ代表のアクラフ・ハキミを獲得。移籍金は推定6000万ユーロ(約78億円)で、プラス成果報酬(ボーナス)付きの5年契約を交わした。

 すると、ハキミ加入から2日後。今度は16シーズンにわたってレアル・マドリードでプレーし、契約を満了していた闘将DFセルヒオ・ラモスの獲得を発表したのである。

 昨夏のマーケットでは、トゥヘル前監督が要望したCBの補強に失敗したレオナルドSDだったが、今夏はトゥヘルへの当てつけのごとく、一銭も使わずに理想的な人材を手にすることに成功したわけだ。

 さらに、ユーロ2020開催前からイタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマの獲得を水面下で進め、イタリアの優勝が決まった3日後に移籍を正式発表。ワイナルドゥムやセルヒオ・ラモス同様、ミランとの契約が満了していたドンナルンマも移籍金の発生なく獲得に成功した。

 PSGには正GKにケイロス・ナバス、セカンドにセルヒオ・リコと、盤石のGK体制が整っていたため、当初は加入後にレンタル放出する構想もささやかれた。ところが、ドンナルンマがユーロでMVPを獲得したことで、一転してクラブはセルヒオ・リコの売却に一本化。目下、リコは昨シーズンの王者リールへの移籍が濃厚と見られ、ナバスとドンナルンマはガチンコで正GK争いをすることになりそうだ。

 いずれにしても、これまでも十分に豪華絢爛だった現有戦力に、ワイナルドゥム、ハキミ、セルヒオ・ラモス、ドンナルンマの即戦力4人が加わった今シーズンのPSGは、とてつもない陣容になった。それは約20年前に"銀河系軍団"として脚光を浴びたレアル・マドリードをしのぐ勢いで、まさに"新銀河系軍団"と呼ぶにふさわしい。

 もちろん、今後はサブ組の売却を進めてバランスシートを整える必要はある。だが、少なくともチームを預かるポチェッティーノ監督は、贅沢すぎる戦力を自由に組み合わせることができることは間違いない。

 たとえば、昨シーズンの基本布陣だった4−2−3−1に当てはめてみても、その豪華さがよくわかる。

 まずGKは、ナバスもしくはドンナルンマ。最終ラインは、CBにキャプテンのマルキーニョス、プレスネル・キンペンベという昨シーズンまでのレギュラーにセルヒオ・ラモスが加わったため、場合によってはキンペンベが控えに回る可能性もあるし、マルキーニョスをボランチで起用することも可能だ。左SBもできるアブドゥ・ディアロと、現在放出候補のティロ・ケーラーも控える。

 左SBのファーストチョイスは、長期離脱からの復帰が間近のフアン・ベルナト。ミッチェル・バッカーがレバークーゼンに移籍したため、ディアロあるいは売却リストのレイヴァン・クルザワがバックアッパーとなる。逆に右サイドは、プレシーズンから持ち前の攻撃力を発揮するハキミがレギュラー候補で、堅実なプレーが売りの若手コラン・ダグバ、そしてケーラーも対応可能だ。

 ボランチは、さらに選手層が厚い。現状、マルコ・ヴェラッティとワイナルドゥムが最有力のセットだが、イドリッサ・ゲイェ、レアンドロ・パレデス、今夏に買い取りが決まったダニーロ・ペレイラ、そしてアンデル・エレーラも有力なボランチ候補になる。

 アタック陣は、右にアンヘル・ディ・マリア、左にキリアン・エムバペ、1トップにマウロ・イカルディ、トップ下にネイマールが最有力。守備バランスを重視する場合は、昨季のようにヴェラッティを中盤トライアングルの頂点に配置し、右にディ・マリア、左にネイマール、1トップにエムバペという4−2−1−3も考えられる。

 攻撃陣の控えには、ラフィーニャ、パブロ・サラビア、ユリアン・ドラクスラー、そしてエヴァートンに戻ったモイズ・キーンの代わりにはランスでの修行で成長を遂げたアルノー・カリムエンドがプレシーズンマッチで元気なプレーを見せている。

 また、セルヒオ・ラモスの加入によって、かつてポチェッティーノがトッテナム時代にも採用した3バックシステムも新たなオプション戦術に加わるはずだ。

 その場合、3バックはマルキーニョス、セルヒオ・ラモス、キンペンベ。中盤4人は、右からハキミ、ワイナルドゥム、ヴェラッティ、ベルナト。そして前線3人は、ネイマール、エムバペ、ディ・マリアといった豪華な面々がスタメンを飾る。

 そしてもうひとり、もうすぐこの新銀河系軍団に加わると見られているのが、マンチェスター・ユナイテッドのフランス代表MFポール・ポグバだ。

 ドンナルンマの代理人でもあるミノ・ライオラは、すでにレオナルドSDと移籍合意に達しているとされている。現在は来年夏まで契約を残すポグバの移籍金について、クラブ間で綱引きが行なわれているという。

 もしこのビッグディールがまとまれば、さらにPSGの銀河系化に拍車がかかることは必至。確実に"旧銀河系"を上回ることになるだろう。

 もちろん、20年前のレアル・マドリードがそうだったように、豪華なメンバーが揃えばチームが機能するというわけではない。

 しかしその一方で、サッカーファンにとっては、今シーズンのPSGは無限の夢が広がる必見の"ドリームチーム"であることは間違いない。少なくとも、コロナ禍で暗い影を落とすヨーロッパサッカー界に誕生した新銀河系軍団を、見たくない人などいないはずだ。

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 果たして、4−2−3−1、3−4−2−1、あるいは4−3−3など、数ある選択肢のなかでワールドクラスのタレントたちをどのように組み合わせるのか。すべては指揮を執るポチェッティーノの手腕にかかっていると言っても過言ではない。

 新銀河系と化した新生PSGは8月1日にリールとのスーパーカップを経て、8月6日に開幕するリーグ・アンの新シーズンを迎える。