「自ら学ぶ子ども」の育て方について解説します(写真:マハロ/PIXTA)

天才プログラマーとして知られ、新型コロナウイルスの封じ込め戦略などで評価を高めた台湾デジタル担当相のオードリー・タン(唐鳳)氏は、子どものころ、学校に行きたくないと主張し、登校しなかった時期がありました。そこで新聞社で働いていたオードリー氏の母である李雅卿(リー・ヤーチン)氏は、数人の保護者と話し合って、自分たちで小学校を創設。子どもがのびのびと自分らしく生きられる場を作るために、日々保護者や先生、子どもと向き合ってきました。そんな李氏が子育てに関する、親の質問や悩みに答えました。

※本稿は『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』を一部抜粋・再構成したものです。

前回:「自分の行動に責任持つ子が育つ」親の必須3行動
前々回:天才オードリー・タン母語る「子を自立させる術」

親に冷や水を浴びせられて立ち去った子ども

●親からの質問
子どもはどんどん成長していきます。子どもの成長に積極的に寄り添うには、何をしたらいいのでしょう?

あなたが子どもについて書いた手紙を読みました。とても考えさせられる内容でした。多くの真面目な親たちが「どんなに探しても子育ての打開策が見つからない」と途方に暮れる様子が目に浮かびます。私の話が少しでも役に立つことを願っています。

手紙には2つの例が書かれていましたね。

1つ目は、子どもが宿題をしていたときのこと。子どもはお母さんに褒めてほしくて、「宿題がここまで終わったよ」と言いました。でもあなたは「漢字ドリルがまだじゃない」と注意してしまいます。冷や水を浴びせられた子どもは、何も言わず、その場を立ち去りました。一人残されたあなたは「うまくコミュニケーションを取りたいのに、どうしていつも失敗してしまうの?」と後悔します。

もう1つの例は、子どもがあなたに言われて漢文の教材を家に持ち帰ったときのこと。あなたは子どもに、宋(そう)や明(みん)の時代の漢詩を読んでどう思ったか尋ねました。でも子どもはほとんど何も言えません。あなたは複雑な気持ちになり、子どもの教育に対する自信まで失いそうでした。「子どもが自分の道を見つけるまで、どうしたら強い自信を持ち続けられるでしょうか?」

手紙にはこうも書かれていました。「自分の心の矛盾や混乱には気づいています。強い気持ちが持てない原因は、自分の期待と失望にあることも。でも子どもはどんどん成長していきます。子どもの成長に積極的に寄り添うためには、どうしたらいいんですか」

では次の内容を読む前に、目を閉じて、3回深呼吸してください。

いいでしょう! 目を開けてください。緊張がほぐれましたか。それとも余計に緊張しましたか。

多くの本に「深呼吸は緊張をほぐす」と書かれていますが、私の場合、自分が知らない内容を読む前に深呼吸しても、未知の可能性に身構えて、かえって緊張してしまいます。あなたはどうですか。

子どもの成長に寄り添うことも同じだと思います。先の見えない未来は、人を緊張させるものです。愛する子どもに苦労してほしくないと思う一方で、身代わりになれない無力感が親を余計に緊張させます。世間の目、身内からの言葉、夜中に飛び起きるほどの不安感……すべてが親の心を苦しめます。

子どもの未来を予知できる水晶玉があればどんなにいいでしょう! 残念ながらそんなものはありません。でも未来が予知できないからこそ、人は希望を抱き、努力を続けられるのではないですか。

この世のすべての子どもは、自分だけの目的や使命をもって生まれてきます。だからどんな命も、自分の道を見つけ、自分らしく成長する必要があります。親は途中までこの道に寄り添うことができますが、決して出しゃばってはいけません。

出しゃばっているかを確認する2つの質問

あなたが出しゃばっているかどうかを知りたければ、2つの質問に答えてください。

質問1 :あなたの心の中には「理想の子ども」像がありますか?

親は子どもに何を望むでしょう? 成績優秀で、真面目で、健康で、元気があって、頭の回転が速くて、優しくて、思いやりがあって、温厚で、柔軟性があって……挙げればきりがありません。

この「理想の子ども」が心の中に存在している限り、あなたは子どものあら探しをし、ほかの子と比べずにはいられません。そして子どもは「自分はダメなんだ」と感じます。こうなると、たとえコミュニケーションの技術をどんなに磨こうとも、子どもに自我を確立させ、自信をつけさせるのは不可能です。

質問2 :子どもの未来を考えると、不安になりますか?

子どもは将来食べていけるだろうか。まともな職を見つけられるだろうか。こんな基本的な勉強もできなくて大丈夫だろうか。「悪い息子」が育ったと笑われないだろうか。目的もない平凡な人生を送らないだろうか。

こうした不安がある限り、あなたはどうしても現状に不満を感じてしまいます。子どもが本来持っている素質や才能には目もくれず、ただ不安を相手に闘っているのです。

どうすればこの恐怖心を克服できるのか。まずは、親が自分に正直になることです。不安なら、不安でいいのです! 恥ずかしいと思う必要はありません。自分に腹を立てたり、変わりたい、逃げたいと思ったりせず、正直な気持ちで不安と向き合えばいい。変わりたいと思えば思うほど、不安はあなたに付きまといます。

人生を変える瞬間とは、自分の運命を悟り、余計な力を加えないときにこそ訪れるものです。私は自分の経験からそう思います。

次に、毎日子どもをよく観察すること。目の前にいる元気いっぱいの息子さんは、あなたの「理想の子ども」になろうと必死になっていませんか。もしそうなら、お子さんは自分に向き合う機会と同時に、自信や尊厳まで失っています。

親が「子どもが今何を感じているか」を受け止めなければ、子どもが自分らしくいることなど不可能です。それなのに、親の心に「理想の子ども」の影があると、子どもの真の姿が覆い隠されて、子どもが感じたこと、伝えたいことがうまく届きません。

この影を追い払いたければ、自分の本心と恐怖心に向き合う必要があります。やはり、まずは自分を見つめ直さなければならないのです。

宿題の成果を確かめるのはやめる

でもその前に、いったん子どもの宿題のことは忘れましょう。つまり、子どもに「宿題は終わった?」と聞いたり、宿題の成果を確かめたりするのはやめてください。


子どもから話してきたときは喜んで話を聞けばいいし、質問されたら手伝ってあげればいい。「手伝ってばかりいたら怠け癖がつくのでは?」と心配する必要もありません。聞かれたことは答える。聞かれないなら構わない。いいですね?

あなたは「もし子どもが宿題をしなかったら?」とまた心配になることでしょう。でも今は人のことに構っている場合ではありません。長い時間はかかりませんから、まずは混乱した自分の心を整理するのです。

この空白の時間によって、子どもはお母さんが変わったことに気づき、さらに「自分は自分でいいんだ」と信じられるようになります。

子どもの成長は、大人によって大きく左右されます。もし子どもを自主学習の道に進ませたいなら、まずはあなたがお手本を見せないといけません。自主学習とは、実際に行動する勉強ですから、生活の中でやってみて初めて「自分らしさ」や「自己実現」の意味を知り、穏やかな心や勇気を手に入れることができます。

親愛なる子どものお母さん、それでもあなたの気持ちは変わりませんか。

もし変わらず自主学習の道を望むのなら、あるお父さんが作ったチェックリストをお教えしましょう。これなら通知表よりも広い視野でお子さんの成長を見つめられるはずです。

・お子さんの恐怖心は、小さくなっていますか? または消えましたか?
・お子さんは自分を肯定するようになりましたか?
・お子さんは楽しそうですか? 健康的で活発になってきましたか?
・お子さんはルールを守り、自分や他人を尊重するようになりましたか?
・お子さんの好奇心は保たれていますか? またはより強くなりましたか?
・お子さんはよく遊ぶようになりましたか?
・お子さんには仲のいい友達がいますか?
・お子さんの知識や一般常識が増えてきたと思いますか?
・お子さんは手を動かす作業が好きですか? またはその能力が成長しましたか?
・親子関係が前より良くなっていると思いますか?

もしこの質問の多くに「はい」と答えられるなら、心配はありません。お子さんは希望に満ちあふれていますよ!