旅行会社の倒産や廃業、年間200件ペースで急増 1-5月間は90件、前年同期比2倍の水準

 コロナ禍の長期化で観光業界が大きなダメージを受けるなか、2021年に入って旅行会社の市場退出が急増していることが分かった。帝国データバンクが調査した結果、2021年1-5月までに判明した旅行会社や代理店の倒産・廃業の件数が累計90件に達し、前年同期(49件)に比べ2倍近い水準で推移している。このペースが続くと、21年の倒産や廃業の累計は過去10年で最も多かった19年(129件)を大幅に上回り、5月時点で過去最多を更新することがほぼ確実なほか、過去初めてとなる年間200件台に到達する可能性も出てきた。

 旅行会社はこれまで、予約サイトなどネット専業の事業者との競争激化で体力を消耗するなか、新型コロナの流行で強みの団体・法人向け旅行需要を失い、大きな痛手を受けた。一方、政府によるコロナ対策として持続化給付金や雇用調整助成金が効力を発揮したほか、特に2020年7月に開始された「Go Toトラベル」が旅行業界にとって追い風となり、2020年中の倒産や廃業は微増にとどまっていた。

 しかし、2021年に入っても単価の高い海外渡航の制限が続いたほか、国内旅行も緊急事態宣言の再発出で稼ぎ時となる3月の卒入学シーズン、5月のGWなど大型需要が2年連続で消失している。こうした厳しい情勢を受け、新規事業への進出で打開を図るケースもあるものの、大手旅行会社でも大幅な減収や巨額の赤字計上といった事例が相次ぎ、苦境の出口は見えていない。旅行会社からも「観光業で人の動きがなく、廃業も出ている」といった声が上がっており、市場退出ペースが今後さらに加速する恐れがある。

旅行会社の業績は9割超で減収、赤字も7割超 オンラインへの対応遅れでダメージさらに拡大

 帝国データバンクが保有する企業データベースを基に旅行会社の業績を調査した結果、通期予想を含めて2020年度業績が判明した旅行会社約1600社のうち、9割超が前年度から減収となった。減収企業の減収率をみると、3割未満の減収が49.5%(約700社)と最も多かったほか、全体では平均40%の減収となった。一方、前年度から半減以上となった旅行会社は減収企業の約3割、7割超の減収に限っても約1割に上る。

 また、減収企業のうち損益動向が判明した企業約300社をみると、約7割が最終損益で赤字、約1割が減益となり、損益面でも影響を受けた企業が8割超に上った。新型コロナの影響で旅行などの移動が大幅に制限され、単価の高い海外渡航や修学旅行など団体旅行も延期や中止が相次ぐなど、全方位で旅行需要が急激に縮小。政府支援策であるGo To トラベルも短期間のうちに停止したことから効果が限定的で、業績への打撃がより大きくなった。

 ただ、旅行会社のダメージがここまで広がった背景には、リアル店舗の旅行各社を中心にデジタル化が遅れた影響もある。JTB総合研究所の調査では、スマホで旅行商品を予約・購入した割合は2019年時点で50.1%に上り、6年前から約30ポイント増加するなど、近年はホテルや公共交通、旅行パックなどの集客がリアル店舗からネットへシフトしていた。

 他方、日本観光振興協会などが行った調査では、ネット利用者が閲覧する観光関連サイトの閲覧数上位は「じゃらんnet」がトップで、「楽天トラベル」などネット専業の旅行代理店(OTA)などが上位。対照的に、大手旅行会社ではJTBが9位、日本旅行が15位など、ネット利用者の取り込みは他業態の先行を許している。

 こうしたなか始まったGo To トラベルでも、予約などはネット経由が中心となって推移した。総務省の各調査では、7月のGo To 開始以降、ネット経由での旅行代金の支払いがリアル店舗を上回って推移し、両者の差は一時1000円超に広がった。そのため、ネットを中心に事業を展開していたOTA事業者は全体に比べ影響が比較的少なかった一方、リアル店舗を主軸とする旅行会社では特需の取り込みが限定的となるケースも発生。時短営業などのマイナス要素も重なり、ネット対応の進捗が明暗を分ける一因となった。

1年超続く旅行需要の激減、企業努力では限界も 需要回復前に体力尽きる「息切れ型」倒産さらに増加

 2021年に入り、足元ではお盆シーズンなどの予約が復調傾向といった話題もあるものの、全体では旅行需要が激減したまま出口が全く見えない、極めて厳しい状況が続く。そのため、100店規模の大規模な店舗整理や人員圧縮などの大胆なコスト削減策と、比較的需要の見込める国内旅行へのシフトに加え、本業外の収益確保に向けたテコ入れが進む。

 中間決算では2期連続の最終赤字となった旅行大手のエイチ・アイ・エスは、新卒採用の凍結や大規模な店舗閉鎖を行う一方、企業向けに海外出張を伴う業務などを代行する「レンタルHIS」など新事業を開始した。同社が持つ海外支店のネットワークを活用し、営業代行や現地視察、サンプル買い付けなど、幅広い海外商談のニーズに対応する。JTBも、国内店舗の約2割に当たる100店舗以上を段階的に閉鎖。他方で、法人向けにはスマートフォンを活用してライブ中継を行う海外オンライン視察事業などの新サービスを開始、個人旅行者向けにもリモートで専門性の高い社員が接客するなどデジタル化を進める。

 日本旅行は2022年末にグループ全体の店舗数を20年比で半減、グループ人員も19年比で3割削減する。KNT-CT ホールディングスは、22年3月までに全国の個人向け店舗を約3分の1に縮小する一方で、アバターを通じたリモート接客の導入やパンフレットのデジタル化なども展開。大手各社は当面の売り上げ減少に対応した固定費の削減とデジタル化への対応を急いでいる。

 ただ、こうした施策や新規事業の成果が表れるには一定の時間がかかる。既に一時帰休や店舗閉鎖といったコスト削減を行った中小旅行会社も多く、こうした企業では問題の長期化に対応できるコスト削減の上積み策などの選択肢の幅も狭まる。旅行各社からは「ワクチン接種がいきわたり、旅行件数が上がるまで辛抱」など、現在が旅行需要落ち込みの「ボトム」と捉え、コロナワクチンの接種による今後の回復に期待する前向きな声も上がっている。ただ、これまで1年超の忍耐を強いられてきたなか、需要回復より先に経営体力が限界に達するなど「息切れ型」経営破綻がさらに増加する可能性が高い。