Imperial College London

米国では2020年に山火事で1万6187平方kmが燃え、国内でもこの冬は山火事が相次ぎましたが、消防の人々にとって厄介なのは、水や消化剤を撒いて鎮火したように見えて、地中でくすぶり続けた火が再び炎となって上がる再燃現象。消えたようで消えていない状態を維持し、しばらくしてから地上に出てくるその炎は“ゾンビ火災”などとも呼ばれます。

特に泥炭質が多く存在する土壌の土地ではこのゾンビ火災現象が起きやすく、地中まで土壌を焼き尽くすため、CO2の発生量が非常に大きいという問題もあります。また消火には大量の水を必要とし、2008年に米国で発生した「Evans Road」と呼ばれる泥炭地での火災では、完全鎮火に7か月以上の時間と75億リッターの水を費やしました。

泥炭地の火災が消えにくい理由のひとつは、消火のために撒かれた水が土地表面に均一に行き渡らず、排水溝状のくぼみを形成して流れてしまい、ゾンビ火災のスポットが所々に残ってしまうため。

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、この問題を解決すべく消火水用の添加剤を研究し、より少ない水量で短時間に消火する配合を編み出したとのこと。

チームは環境への影響も考え植物由来の原料を使用した生分解性の湿潤剤を、消火用水に様々な濃度で加え、それを研究室でシミュレートした泥炭火災の消火にどう影響するかを比較検討しました。そして、薬剤が適度に水の表面張力を低下させる配合を発見したことで、水分が溝を作ることなく、まんべんなく土壌に浸透することを発見しました。

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研究者によれば、たとえば湿潤剤を1%濃度で添加した場合は、鎮火にかかった平均時間が39%短縮した一方で、5%濃度では26%の時間短縮でした。しかし研究者は、添加剤を加えたことで水分がくすぶる火をカプセル化して土壌全体の温度を下げるのに気づきました。これは鎮火に必要な水の量が、通常の1/3〜1/2程度で足りることを意味します。

「この生分解性の添加剤はゾンビのように燻っては再燃する火災を迅速に鎮火可能とし、消防隊、地域社会、そして地球上のすべての人々を助けることができるでしょう」と研究チームを率いるGuillermo Rein教授は述べました。研究者のひとりMuhammad Agung Santoso氏は「泥炭火災による汚染による生物の死滅や地域差破壊への被害、CO2排出など環境破壊をなくすために、短時間で鎮火させられる添加剤は重要です」と述べています。

ちなみに、山火事用の消化液にはいまでも普通の水だけでなく、今回の研究と同じように表面張力を弱めるため、石けん系の添加剤を加えたものが開発され、使われている事例があります。

註:冒頭の写真はインペリアル・カレッジ・ロンドンによる今回の研究以前の山火事に関する研究の写真です。

Source:International Journal of Wildland Fire, Imperial College London