「Are you happy」と表紙に書かれた日記帳。アナウンサーを目指していた韓国のユン・ジスさんは、その下に「どうか耐えることができますように……」と記した(写真・ソウル新聞)

コロナ禍が招いた経済危機は、韓国の青年層にとって感染よりも大きな脅威となって存在している。2020年の「極端な選択を行った」(自殺)者は1万2592人(暫定値)だ。新型コロナウイルス感染症による死亡者は同年で900人で、その14倍となる数字だ。注目すべきは、20〜30代の青年層だ。2020年1〜8月の間、極端な選択を行い病院に運ばれた者は1万5090人。そのうち20代は4213人で、前年同期比で43%増加した。全年齢層で、増加率が最も高い。30代は2250人と、20代の次に高い13%増となった。

韓国・檀国大学心理学科のイム・ミョンホ教授は、「コロナ禍で就職難が進み、貧富の格差が広がって弱者がより弱者になる現象が生じた。これから社会人生活を始める青年たちにとって、喪失感や挫折をより強く受けるようになったのだろう」とみる。では、そんな元に戻れない選択肢を選んでしまった若者たちは、最後にどのような言葉を残したのか。孤独死や殺人現場などを整理する専門会社・クリーンキーパースのイ・チャンホ代表とパク・セファン取締役とのインタビューを通じて、青年たちの遺品から浮かび上がる事情を構成してみた。

「どうか耐えることができますように……」。ユン・ジスさん(24、仮名)は「Are you happy」と表紙に書かれた日記帳に1文字1文字、刻むように書き付けていた。大学を卒業したユンさんはアナウンサーになることを夢見ていた。普段から憧れていた著名ジャーナリストと会った後、あふれんばかりの喜びを日記に残していたユンさんは、その後、「アナウンサーになるのは単なる夢だった」と、一転して悲しさがあふれた文章を綴っていた。本棚には、学生時代に受けた賞状が置かれていた。2020年6月、短い人生を終えた彼女のワンルームマンションには、服用していた精神安定剤が発見されている。

職がない若者はリーマンショック時の1.5倍に増加

2020年、青年の雇用状況はコロナ禍が重なってこれまで以上に厳しい氷河期を迎えていた。韓国統計庁によれば、2020年に25〜39歳の年齢層のうち就職した経歴がない「就業の経験がない者」は32万1654人だった。リーマンショック後の2008年当時の1.5倍となる。

青年層の体感失業率となる「拡張失業率」も25.6%(2020年7月基準)で、2015年1月に関連統計が策定されて以降の最高値となった。拡張失業率とは、公式の失業率が労働市場をきちんと反映していないという指摘を受けて、失業者以外にも1週間当たり36時間以下のアルバイトをしながら正社員への就職を準備中の者や暫定求職者などを含めて算出される。保健福祉部によれば、2020年上半期に20代女性の自殺率は前年同期比で43%増加した。

韓国・慶北大学社会学科のノ・チンチョル教授は「労働市場で男性よりも女性が低賃金・非正規職という状況に追いやられ、コロナ禍で経済的な打撃を強く受けてしまった。とくに、これから社会に出ようという時期に当たる20代女性には、将来への不安を強く感じたのだろう」と指摘する。

コロナ禍による国からのさまざまな規制強化で、自営業者が受けた直撃弾は大きかった。2020年末時点で、前年比7万5000人もの自営業者が廃業している。30代半ばのパク・ジュホさん(仮名)は、2020年9月に仁川(インチョン)市のあるマンションで死体となって発見された。

彼の部屋には販売しようとしていた凧が積まれていた。同じ部屋には綿あめを作る機械もあり、マンション近くの空き地には移動しながら綿あめをつくるトラックが止まっていた。パクさんが生前、どれほど一所懸命に生きようとしたかを物語る証しだった。彼の兄は「ジュホは一所懸命に生きていた。結婚もせず、歯を食いしばって生きていたのに……」と涙を流した。

サクセスストーリーの小説1冊を残した青年

不景気なのに不動産価格は急騰し、青年層にとっておいそれとマンションやアパートに住むことができなくなった。2020年6月、ソウル首都圏・京畿(キョンギ)道華城(ファソン)市で死後10日過ぎて発見された30代半ばのキム・ミンジュンさん(仮名)。韓国で「考試院」と呼ばれる、日本の予備校のような施設で簡単な宿泊設備がある場所で亡くなった。


赤い丸で囲まれた本が、キム・ミンジョンさんが生前読んでいた小説(写真・ソウル新聞)

わずか3坪で窓もない部屋は、電灯があるだけで日が差し込むこともない。薄い壁に仕切られて各フロアーに7、8人が住んでいたが、彼の死に気づいた人はいなかった。冷蔵庫にはガチガチに凍ったキムチのみ。10着もない服が遺品のすべてだった。ただ、1冊の小説が残されていた。「オフィステル」という書名の本は、起業した画家が不渡りを出した後、再起を図って成功するというサクセスストーリー。彼はこの小説を読みながら考試院生活からの脱出を夢見ていたのだろうか。

30代半ばのミン・ジェヒョンさん(仮名)は、2020年6月に自殺を選んだ。彼のタンスには、新品のジャンパーが残されていた。YouTube映像を作成するための機械がセッティングされていた。彼が成功を夢見ていたユーチューバーの実状は、2019年に所得申告したメディアコンテンツ制作者のうち、上位10%が2億1600万ウォンを稼いだ一方で、下位33%は年間100万ウォンも稼ぐことができないものだ。

遺品を整理したクリーンキーパースのパク取締役は、「現場に出ると青年たちの追い込まれた状況や受けていた苦痛を感じてしまう。自分の年齢からすれば子どものような彼らが、夢の一部さえ見ることができないまま、後戻りできない選択をした場面を目の当たりにして実にくやしい」と打ち明ける。

コロナ禍で生じた社会的関係の断絶は、心の中に時限爆弾を抱えているかのようだ。自ら「孤独な青年」と口にするチャン・ヒョンテさん(24、仮名)は、コロナ禍以前まで「休憩所」での友人が唯一の社会的関係だったと言う。「休憩所」とは、生活支援や保護を一定期間受け、社会復帰や学業再開を支援する施設のことだ。彼は京畿道のある「休憩所」で生活した。年齢制限が来て「休憩所」を出た後、食堂で1日12時間、週6日働いていたが、2020年3月にコロナ禍を理由に辞めることになった。

コロナ禍で若者の心に生じた「時限爆弾」

チャンさんは2020年3月から6月まで、京畿道城南(ソンナム)市にあるアパートの半地下の部屋から1度も外に出なかった。社会と断絶したという孤立感と憂鬱さにさいなまれた。チャンさんは「休憩所にいるときはそこにいる人たちとの絆を感じていた。それが生きようという気持ちにつながっていたが、コロナ禍でそんな関係が切れてしまい、悪いほうに悪いほうに考えるようになってしまった」と言う。チャンさんはうつ病と診断され、現在は同じような診断を受けた若者の回復を支援する民間団体の施設で共同生活を行っている。

ソウル市自殺予防センターのチュ・ジヨン副センター長は、「これまでの自殺予防対策は主に中年・高齢層をターゲットにしたものだった。そのため、青年層に対しては『若いんだから頑張れ』と励ます程度だった。孤立と憂鬱感、経済的剥奪感などから前向きに回復できる、青年層向けのシステマティックな支援が必要だ」と指摘する。

(「ソウル新聞」2021年2月25日)

【2021年3月6日13時00分追記】初出時、サブタイトルに誤りがあり、修正しました。