日本人の価値観は世界各国と比べてどうなのか。最新の「世界価値観調査」によれば、他の先進国が「新聞・雑誌・テレビを信頼できる」とした率は5割以下だったが、日本だけ7割近くと非常に高かった。統計データ分析家の本川裕氏は、「他国より事実に基づく客観的報道が多いと見ているのでしょう。しかしマスコミへの信頼度が高い人ほど幸福感が薄いという調査もある」という――。

■新聞・雑誌・テレビの信頼度は高く、政治や宗教団体は低い

「世界価値観調査」(※)は世界の中で「日本人とはどんな国民か」を探る上で極めて重要な情報である。2020年3月に第7回目の結果が公表され、日本以外の世界各国についてもこのほど世界価値観調査の英文サイトに掲載された(調査時期:2017〜2020年、日本は2019年)。

※世界数十カ国の大学・研究機関が参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する調査。1981年から、また1990年からは、ほぼ5年ごとに実施。国ごとに全国の18歳以上の男女1000〜2000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査。

今回、本調査から取り上げるのは、「(国内のさまざまな)組織・制度に対する国民の信頼度」についてである。

図表1は、1995年から最新の2019年までの結果を時系列に掲げたものだ(2019年は前回調査の2010年で、これまでの2倍近くのインターバルとなっている点に留意いただきたい)。

2019年調査分で信頼度の高い組織・制度を順に掲げると、

1)自衛隊(81%)
2)警察(79%)
3)裁判所(78%)
4)新聞・雑誌(68%)
5)テレビ(65%)
6)大企業(47%)
7)行政(45%)
8)環境保護団体(44%)
9)国連(42%)
10)政府(40%)
11)労働組合(38%)
12)女性団体(35%)
13)国会(31%)
14)APEC(29%)
15)政党(26%)
16)宗教団体(8%)

※調査時の設問は、信頼している組織・制度を複数回答で選ぶというかたちではなく、信頼しているかどうかを各組織・制度について聞くというかたち。

ポイントは、各組織・制度に対する信頼度は年次によって変動が見られる中、新聞・雑誌とテレビは「高位安定」、宗教団体は「低位安定」が目立っているということだ。

新聞・雑誌やテレビなどマスコミに対する信頼度が高く、国会や政党などの政治分野、あるいは宗教団体に対する信頼度が低いという基本構造は、過去の調査と同じである。

■短期政権が次々と入れ替わった時期の信頼度は低い

日本でマスコミに対する信頼度が高い理由についての私見は最後に述べる。ここでは、まず政治に関係する組織・制度に対する信頼度について考察してみよう。

国民の信頼度は、「行政」「政府」「国会」「政党」の順で数値が下がって(低くなって)おり、政治的な要素が強くなるほど信頼度が低くなることを示している。

また、これら政治的な色彩の強い組織・制度は、毎回の信頼度の変化パターンが相似形である点が目立っている。すなわち、1995年から2010年まで低迷を続け、その後2019年に一気に10%ポイント前後信頼度が回復している点が共通である。

劇場型政治といわれた小泉政権の後、2006年9月からの第1次安倍政権、および福田、麻生、鳩山、菅、野田と自民3内閣、民主3内閣の短期政権が次々と入れ替わり、政治への信頼度の低下傾向が止まらなかったが、2013年1月以降の第2次安倍政権は久方ぶりに長期的な安定政権を保持した。それが、政治的な組織・制度への信頼度も2010年時の調査に比べ2019年時に回復した背景にある。

行政、政府、国会、政党は、いずれも政治と関係する組織・制度なので、信頼度も連動して変化するのだと考えられる。

■自衛隊への信頼度が上昇、警察・大企業の信頼度が2000年に落ちたワケ

逆に、自衛隊や警察といった実力組織、あるいは司法をつかさどる裁判所の信頼度がこうした政治的な組織・制度と連動せず、政治から独立した存在であることを示しているのは好ましいことともとらえられる。

傾向的な変化として目立っているのは、自衛隊への信頼度の上昇であろう。1995年の阪神・淡路大震災以降、内外の防災面で果たしている自衛隊の役割が国民から高く評価されているためと考えられる。

警察への信頼度が2000年に大きく落ち込んでいるのが目立っているが、これは、1999年9月の神奈川県警の覚せい剤使用モミ消し事件以後、新潟の女性監禁事件に端を発した一連の不祥事(県警本部長が深夜まで飲酒、マージャンをしながら事件の指揮)、桶川女子大生ストーカー殺人事件、栃木リンチ殺人・死体遺棄事件における捜査の失態など、2000年にかけて警察の不祥事が次々明らかになったためだと考えられる。

警察と同様に大企業についても、信頼度が2000年に大きく落ち込んでいるのが目立っているが、これは、2000年夏、食中毒事件の雪印(6〜7月)、経営が破綻したそごう(6月)、リコール隠しの三菱自動車(7月)と日本を代表する名門企業が相次いで不祥事を起こした影響と思われる。

警察、大企業の信頼度は、その後、大きく回復していることから、2000年の落ち込みは不祥事による一時的なものだったことが分かる。

■先進国の中で日本はマスコミへの信頼度の高さは特異

各組織・制度への信頼度についてのこうした傾向は日本だけの特徴なのだろうか。

他国もマスコミに対する信頼度はやはり高く、政治に対する信頼度はこんなに低いのであろうか? こうした点を理解するには、諸外国、特に先進国の状況と比較する必要がある。

図表2では、宗教団体、慈善団体、軍隊(日本は自衛隊)、新聞・雑誌、労働組合、警察、議会(日本は国会)、行政、テレビ、政府、政党、大企業、環境保護団体、裁判所、国連、EUという16組織・制度について、どの組織・制度に対する信頼度が高いかを信頼度区分別の表形式で示した。なお、国によっては対象項目が少ない場合がある。

結果を見やすくするため、宗教団体は黄色の背景、新聞・雑誌とテレビというマスコミについては赤字フォント、政府は青字フォントであらわした。

取り上げた対象国は、先進国の代表である日本・欧米の計7カ国であるが、先進国以外の参考事例として、この2月1日に国軍によるクーデターが起こり、政権トップのアウン・サン・スーチー国家顧問兼外相らが拘束されたミャンマーの結果を付け加えた。

先進国の場合、総じて軍隊、警察、裁判所の信頼度が高く、議会(国会)、政府、政党の信頼度は低いという一般傾向が認められる。

政府への信頼度は、英国、イタリアが20%台と低いが、日本、米国、ドイツ、フランスも30%台とそれほど高いわけではない。欧米の中ではスウェーデンが50%台と比較的高い。

政党、および政党色が濃い議会はどの国でもほぼ最低レベルである点が共通である。

党派性が強く、政治活動とむすびついている組織・制度は、軍隊や裁判所など政治や党派性からの独立を本旨とする組織・制度と比較して国民からの信頼度が低い傾向があるのである。

行政への信頼度は両者の中間が多い。民主主義国では行政機関を選挙で選ばれた政治家が率いるのが通例だからである。

■欧米諸国におけるマスコミへの信頼度は低い

マスコミ(新聞・雑誌、テレビ)の信頼度は日本で特に高く、こうした高い信頼度にもとづき、新聞・雑誌などのマスコミは日本の世論形成に大きな影響力を保っている。これとは対照的に、他の欧米諸国におけるマスコミへの信頼度は低い。特に英国では政党に対してすら下回っている。

政府の信頼度との関係では、日本では、政府発表よりマスコミの報道のほうが信じられているのに対して、欧米諸国では、「どっちもどっち」か「政府のほうがまだまし」という状況にあるのである。

宗教団体への信頼度が日本の場合10%未満と極端に低いのに対して、キリスト教の地位の高い欧米では30%台〜50%台と一定程度高くなっている。

応用問題として掲げた参考事例のミャンマーではどうだろうか。ミャンマーの調査時期は2020年1〜3月だったことを念頭において見てみよう。

途上国ではめずらしくないのであるが、ミャンマーでは種々の組織・制度への信頼度が概して高い。仏教信者が多いという背景から宗教団体への信頼度は特に厚い。先進国では低いのが一般的な政府、議会、政党といった政治組織についても決して信頼度は低くない。

こうした中で、ミャンマー国民の軍隊に対する信頼度を見ると33.3%と他の組織・制度と比較して非常に低く、スーチー氏が率いていた政府と比較しても低さが目立っていたことが分かる。だとすると、やはり、報道されているように、国軍への国会議員数割り当てを減らすという文民政権が提起している憲法改正案によってミャンマー軍はかなり追い詰められていたのだと考えられるのである。

■途上国を含めた世界の中でも日本のマスコミ優位は突出

最後に、政治とマスコミに対する信頼度の相対関係について、主要先進国だけでない、もっと多くの国の状況から日本の位置を探ってみよう。

図表3には、最新の世界価値観調査が行われた国のうち人口1000万人以上の47カ国を対象に、X(横)軸に政府に対する信頼度、Y(縦)軸に新聞・雑誌に対する信頼度をとった散布図を描いた。この散布図からはいろいろなことが読み取れる。

まず、X軸(政府)を見てみよう。

先進国で政府を信頼しているのはせいぜい国民の50%程度までであり、多くは20〜30%にとどまっている。そうした意味からは日本人のうち4割程度が政府を信頼しているのはまだいいほうとも言える。

一方、途上国(ロシアなど体制移行国を含む)では、政府への信頼度は10%以下から100%近くまで非常にばらつきが大きい点が目立っている。中国やベトナムなど社会主義国は9割以上と非常に高いが、フィリピンやミャンマーでも8割程度の信頼度となっている。もちろん、本当に信頼しているのか、それとも信頼せざるを得ないだけなのか、真情はにわかにつかみがたい。

他方、グアテマラ、コロンビア、ペルーといったラテンアメリカ諸国では政府への信頼度は10%前後と非常に低く、どの先進国をも下回っている。

次に、Y軸(新聞・雑誌)であるが、途上国については、ほぼ政府への信頼度と同じようにばらつきが大きく、また、政府への信頼度とほぼ平行して高低が分布している。すなわち、政府への信頼度と新聞・雑誌への信頼度とはリンクしているのである。

中国、ベトナム、フィリピンといった国では政府も新聞・雑誌も両方とも信頼されているが、コロンビア、グアテマラといった国では両方とも信頼できないと思われているのである。

新聞・雑誌への信頼度と政府への信頼度の相関度が高い背景としては、途上国では、ましてや社会主義国では、官製マスコミの役割が大きいという事情も作用している可能性があろう。

この点、先進国では、新聞・雑誌への信頼度は、やはり、ばらつきが大きいが、途上国と異なって、必ずしも政府への信頼度とはリンクしていない。政府とは一定の距離を保った報道機関が多いせいもあろう。

その最たる例は日本である。他の先進国がいずれも新聞・雑誌に対してはほぼ5割以下の信頼度しかないのに、日本だけ7割近くと非常に信頼度が高く、政府への信頼度と比べて差が大きい点が非常に目立っている。この散布図には45度線を描き入れてある。この線より上では信頼度が政府より新聞・雑誌が上回り、下なら逆である。日本は、45度線から上へ乖離(かいり)している程度が世界の中で最も著しいのである。

他のG7諸国、すなわち、英米、フランス、ドイツ、イタリアといった国では、日本と異なって政府も新聞・雑誌もどちらも信頼できないという国民が多いのであるが、政府はあまり信頼できないが新聞・雑誌は信頼できると見なしている点で日本人は特異なのである。

■信頼度のマスコミ優位が、なぜ、日本だけで成立しているのか

こうした政府との対比における信頼度のマスコミ優位が、なぜ、日本だけで成立しているのかについては、2000年期の世界価値観調査ではじめて気がついて以降、私は長らく考えを巡らせてきた。

政府の信頼度が低いから目立つという理由は、これまで見たように他の先進国でも低いので、当てはまらない。有力な要因と見られた「文」を重視する儒教の影響は、同じ儒教国である中国、韓国、台湾などでは共通の特徴が見られないので当てはまらない。

明治維新以降、薩長政権にアンチを貫いた旧幕臣や戊辰戦争の旧幕府側諸藩の出身者から受け継がれたジャーナリストの倫理観の高さ(のちに左翼志向として生まれ変わるが)という仮説も検証してみたが、報道人がそんなにご立派な人々だったとは必ずしも言えないことが分かった。

そこで、今のところ、私は次のように考えている。

もともと日本人は、歴史的に中国や欧米と異なり国家という存在に疎遠な民族と言えるが、明治維新とともに、外国への対抗上、思いのほか強力な国家ができてしまい、生活心情的に居心地の悪い思いをしていた。

そうしたところに、御用新聞として国家に密着したり、逆に反体制新聞として政府に反対したりするものの、実は国家とは距離を置いたジャーナリズムという存在が現れたので、日本人は「待ってました」とばかりに、これに妙に親近感を抱くようになったのではなかろうか。これが日本人特有の新聞・雑誌への高い信頼度の理由なのだと考えられるのである。

■「マスコミへの信頼度が高い人ほど幸福感が薄い」

日本人の高いマスコミ信頼度の功罪についてはいろいろな議論がある。

プラス面としては、政府の隠蔽(いんぺい)体質を暴いたり、政権の暴走を抑えたりという権力監視の役割を評価するものが挙げられる。

その一方で、批判されることもある。例えば、媒体としての存在感のアピールや視聴率向上のためジャーナリズムが内包するセンセーショナリズムが、ここ1年間のコロナ報道に見られるように国民の不安感を必要以上に煽っている、また過度の政権批判によって世論を誤誘導しているといった内容だ。

とりわけ、近年は新聞・雑誌を持つ企業が「紙」媒体だけでなく、多くのオンライン(電子)版メディアを立ち上げている関係(テレビ局も同様)で、記者クラブを象徴とする閉鎖的な「紙」vs.開かれた「オンライン」という構図で、メディアによるメディア批判も強まっている。

さらにマスコミのマイナス面として厳しい視線が注がれているのは、自社の方針や主張に沿わない事実の報道に消極的という点だ。私は、2020年10月5日公開の(テレビで異常なほど「携帯大手3社のCM」が流されている本当の理由)において、巨大な広告宣伝費を失いたくないため、主要メディアはそろってスマホの費用の大きさや心身への悪影響についての報道を控えがちだと批判した。マスコミの売上の柱のひとつは広告収入であり、通信会社を含む広告主も重視しなければならないが、これも読者や視聴者の中には偏向報道と見る向きもある。

日本人の高いマスコミ信頼度の功罪に関しては、マスコミやネットの報道を、鵜呑みして無批判的に受け入れる文化・習慣ゆえに、最近のSNSなどで発信されたフェイクニュースに翻弄されがちというマイナス面もある。

この点に関連しては、2020年1月の本連載記事(新聞やテレビを信じすぎる日本人の低い読解力)では、OECDの学力テスト(PISA調査)が、新たに、ネット記事などに対して合理的な疑いを抱く能力を読解力の一部と評価することになった影響もあり、日本人生徒の成績低下にむすびついたという点を指摘した。

しかし、こうしたマイナス面がますます識者やネット発信者によって指摘されるようになっているのにもかかわらず、図表1で見たように、日本人のマスコミへの信頼度が高位安定を維持しているのはなぜなのだろうか。

やはり、大局的に見て、諸外国と比較すれば、事実に基づく客観的な報道がなされているほうなのだと解するのが妥当なのかもしれない。国民の顰蹙を買うようなメディアの失点が他の先進国とは異なりまだ起こっていないせいなのだろう。

ただ、2020年以降のコロナ報道や政府に関する報道に関するネットを含むメディアの姿勢に対してはネガティブな意見を持つ人も多いため、次回(おそらく5年後)の調査では、マスコミの信頼度が急落する可能性がないとはいえない。視聴率ねらいの人騒がせな犯罪報道が続いた台湾で2000年代初めにメディアへの信頼度が半分以下になったという事例もある。

ちなみに、「マスコミへの信頼度が高い人ほど幸福感が薄い」という意識調査結果もある(内閣府「生活の質に関する調査」)。報道機関を「信頼している人」の幸福度があまり高くなく、また「信頼していない人」の幸福度が比較的高いという結果だが、これは社会のマイナス面の指摘に偏りがちなマスコミの報道が、自分たちの社会に対する暗い見方を必要以上に増幅するという副産物を生んでためと見られている。ということは、今後さらにマスコミ離れ現象が起きたとしても、それは必ずしも悪いこととは言えないかもしれない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)