広島市安佐南区にキャンパスを置く安田女子大学 (筆者撮影)

「ダイバーシティーの時代に女子だけなんて」という指摘もありそうな女子大学。文学部が中心の良妻賢母型から脱皮できず地盤沈下が進む女子大と、実社会に役立つ教育に舵を切り急成長の女子大との格差が鮮明になってきた。時代の要請に合わせて総合大学となり、志願者数、偏差値、実就職率を飛躍的に向上させている3つの女子大を訪ねた。いずれも女子に特化していることで、社会の即戦力となる教育ができる環境を強みとしている。

地域とともに歩む安田女子大

広島市安佐南区にキャンパスを置く安田女子大学では、2020年11月、学内のラーニングコモンズの一環で、現代ビジネス学科のマーケティング戦略ゼミの活動報告会を行っていた。森英恵がデザインした大学の制服を身にまとった3年生のゼミ生たちが相次いでプレゼンテーションに臨む。


同ゼミは、広島市を拠点に演劇を通じて地域活性を行っている劇団の活動に参加し、コロナ禍にあってもオンラインで作品を発信するために、どのようにすればよいかを研究のテーマにしていた。フィールドワークの成果や、劇団の広報誌「だるまだより」を創って発行した事などを発表。客席に集まった学生、教員だけでなく、活動に協力した外部の有識者からも温かい拍手が沸き起こった。

「地域や企業と連携して、社会人基礎力やチームビルディング力を向上させたい。学生が充実感を持って楽しく学び、幅広い教養と豊かな専門知識を修得できる教育を実践し続けることで、社会および地域社会の発展につながる」と担当教員は話す。

安田女子大学の母体である安田学園は、1915年の広島技芸女学校創立に始まり、105年にわたる伝統を持つ。1945年の原爆による被災では、安田五一初代理事長をはじめとして多くの犠牲者を出した。残された教職員そして学生は苦難の中で復興に取り組んだという。



当初は文学部のみだったが、経済および社会環境の変化や地域社会の要請もあり、2003年の現代ビジネス学部の設置に始まり、家政学部(2004年)、薬学部(2007年)、教育学部、心理学部(2012年)、看護学部(2014年)と組織を拡大。2020年4月には、公共政策分野のスペシャリストを養成する現代ビジネス学部公共経営学科が開設され、7学部14学科の総合大学となった。

今も広島の教育拠点として一歩一歩あゆみを進めている。


安田女子大学の池田智子学長補佐 (筆者撮影)

池田智子学長補佐は「本学は地域と共に歩んできた。地元を抜きにして大学は成立しない」と話す。コロナ禍においても、オンライン等を併用しながら地域および多くの企業との連携を行ってきた。

「大学の果たすべき役割は、教育・研究と地域・社会に対する貢献で、使命感を持って地域の発展に貢献する人材を養成・輩出していく必要がある。学園の創立以来、一貫して使命感を持ち、地方の大学だからこそ実現する、地域とのつながりを活かした学びがある」(池田学長補佐)

武庫川女子大はイメージ向上狙い最寄りの駅名を変更

兵庫県西宮市の武庫川女子大学は、短大から大学院までの学生数が約1万人を数える「日本一のマンモス女子大」として知られる。「阪神電鉄沿線の地味な女子大」というイメージが強かったが近年、おしゃれな形で進化を続けている。


最寄り駅の駅名を「鳴尾・武庫川女子大前」に変更 (筆者撮影)

典型例が最寄り駅の名称を、同電鉄との交渉で旧鳴尾駅から「鳴尾・武庫川女子大前」に2019年10月に変更し、カフェやレクチャールーム等も併設した「武庫女ステーションキャンパス」まで開設したことだ。

旧鳴尾駅は「駅前にたばこの吸い殻が散乱していた」(大学関係者)という沿線でも不人気の駅だった。だが2017年の駅高架化を契機に沿線のイメージアップを図ろうとした阪神電鉄と、「子育てがしやすく若い夫婦が住みやすい、学生たちが結婚して戻って来たいと思う地域にしたかった」(山粼彰副学長)という大学側の思惑が一致。西宮市も文教地区とすることを目指しており、駅名変更の話がまとまったという。

地域や企業とのコラボレーションにも積極的だ。健康・スポーツ科学部ではアスリートのための化粧品、屋外でスポーツをする子ども向けのサングラスなどの開発にメーカーと共同着手、さまざまな視点からマネジメントを学ぶ体制を整えている。



武庫川女子大は1949年開学、母体となる武庫川学院は1939年の創設から80年をこえ「財務状況の非常に良い大学」(大手銀行担当者)としても知られている。

ルーツは創設者の公江喜市郎が1930年代に英国を視察し、名門イートン校などの教育に感銘を受けたことに遡る。「若い学生たちが将来、国を背負って立つ気概を持って勉学に励んでいた様子に感動。日本なら女性の教育を通じ、子育てで『国を支える』理想を持つ人間を育てるほうが、男子1人を鍛えるより効果が大きいと考えたそうです」と山粼副学長は大学の特長を語る。


武庫川女子大学の山粼彰副学長 (筆者撮影)

2020年4月には満を持して経営学部を設置した。他の女子大が近年、相次いでビジネス系の学部を創設したのに対し、武庫川女子の動きは遅いようにも見える。だがあえて「経営学部」と銘打ったのには、それなりの意味がある。

女性を取り巻く環境は、良妻賢母の時代から、男女共同参画の機運が生まれるようになり、最近では「女性リーダーが出て当たり前」という風潮や考え方が出てきた。

「菅内閣の顔ぶれを見ると女性閣僚が少ない。その一方でニュージーランドには女性首相がいる。女性活躍の時代に柔軟に対応し、国を引っ張れるような女性を育てるためにも、女子に特化した教育が必要。男子は殻を破らなくてもすんなり進める。でも女子は中から自分の殻を破る力を身につけさせ、外から殻をつついて支援する、禅の『啐啄同時』の教育が必要になってくる」(山粼副学長)。

昭和女子大は経営人材の育成に注力

東京都世田谷区の昭和女子大学は1920年創立、2007年に学長に就任した坂東真理子氏(現理事長・総長)のもと、6学部14学科を擁する総合大学となった。



2019年8月には、米ペンシルベニア州立テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)を誘致、日米のキャンパスを同一敷地内に置くのは国内初で、日米両方の大学の卒業資格を得られる「SWU-TUJダブルディグリー・プログラム」も2018年度に開始した。コロナ禍で思うような国際交流プログラムが行えないが、アメリカ流の学び方に刺激を受ける学生も多いという。

さらに2021年度に開設されるのが、オンラインも活用した、社会人対象の1年制大学院2つの新設だ。

保育・福祉マネジメント大学院と消費経営大学院の2種類で、いずれも男女共学、平日夜間と土曜日に開校し、オンライン授業を併用する。医療や福祉、保育に携わる社会人が対象で、目標は「経営に関する視野を持つリーダーの育成」だ。

昭和女子大では保育士や幼稚園教諭を輩出してきたが、そのマネジメントに特化した教育はこれまで手薄だった。

「待機児童解消で保育所は増えているのに、経営ができる人材の供給が追い付いていない。また消費の相談窓口にいる女性は多いけれど、経営にその視点は生かされているのかどうか。苦情はビジネスのシーズ(種)です。効果的な組織運営は、所属する人と人との強みをどう引き出すかという会社経営と同じ。その力をつけるリカレント教育の場としたい。実績を積み上げて、ゆくゆくはグローバルMBAに改組したい」と坂東総長は、立ち上げたきっかけと将来構想を語る。
 


2007年に学長として赴任した坂東真理子氏は、現在理事長・総長として法人全体の改革を推し進める (筆者撮影)

ベースにあるのは、女性が活躍できる「ブルーオーシャン」を探すことだ。かつて女性の働き方として推奨された保育士や幼稚園教諭、薬剤師といった「資格を取って働くこと」ではないという。

「家庭に入り、再就職する際に手に職があったほうがよい、という考え方では、同じプロフェッショナルでも『セカンドクラス』の資格になってしまう。医師や弁護士といった資格では決してない。それよりはリーダーを目指す女性を育てなければ。日本のメンバーシップ型雇用では、男性は資格を大学で取らなくても企業に入れば育ててもらえるが女性は違う」と坂東総長。

そして「人が必要だけれど足りない『ブルーオーシャン』へいかなければ。また、これまではグローバルに力を注いできた。でもコロナ禍により、これからはデジタルも重要だとはっきりしましている」と続けた。

学生たちにデジタルリテラシーを身につけさせる授業科目も順次、増やしていく。「数学の抽象概念を学ぶよりは、ITを使いこなしSNSの怖さを理解できる人材を育てるイメージです。女子大の存在意義はまだ十分にある。同じ能力の男性とは違う壁を、めげずに乗り越えなければいけません」(坂東総長)

時代に合わせたカリキュラムを作れるか

私事ながら筆者は東京都内の私立女子中・高出身だ。共学だと無意識のうちに、男子が委員長、女子は副委員長などサポートに回る傾向はあるのではないか。それが女子のみだと男性目線を意識せず、すべて自分たちで仕切ることになる。「女子校育ちは自立心が自然と養われる」というのが実感だ。それが大学だとどうなるのか、が今回の取材の出発点だった。

今回、紹介した3つの女子大は、いずれも中堅クラスとされてきたが、今や一流女子大としての評価が定着しつつある。いっぽう、変化に乗り遅れ、偏差値と志望者数を減らし続けている旧名門女子大は全国に少なくない。東京郊外にある女子大のOBで、50歳代の会社員は「同窓会がうるさくて変化を許容しない」と、保守的ゆえに母校が凋落している現状を嘆く。「女子のみ」という環境をプラスにとらえ、時代に合わせたカリキュラムを作れるかどうかが、生き残りの条件となるだろう。