12月16日、ニッパツ三ツ沢球技場。試合前のウォーミングアップでは、寒空の下でボールを蹴るキングカズこと三浦知良(横浜FC)に注目は集まっていた。先発は外れたものの、途中出場が有力視され、自身が持つJ1最年長出場記録(53歳9カ月20日)の更新に期待が高まった。

 カズは顔を上気させ、楽しげにリフティングをした後、最後の一蹴りとばかり、右手を上げ、人差し指で「一本」と合図した。ポストをひとり立たせ、リターンを右足でゴール左隅を狙ってシュート。地を這うような一撃はコースを突いていたが、GKに防がれてしまった。

 後半37分、カズは19歳の斉藤光毅と交代で出場した。それは快挙と言えるだろう。

 しかし、この試合で積み上げたサッカーを見せつけたのは、0−2で勝利を収めたアウェーのガンバ大阪である。

 ガンバは、最終節を前に2020年シーズンの2位を確定させている。戦術的に鍛え上げ、総合力で勝ち取った成果と言える。横浜FC戦、キックオフ直後の先制点は、今シーズンの戦いを象徴していた。


横浜FC戦の前半1分、先制ゴールを決めた倉田秋(ガンバ大阪)

 まずは、前線から激しくボールを追う。相手センターバックが蹴ったロングパスを、左サイドの倉田秋が下がってカット。これをボランチの山本悠樹が素早くFWパトリックの足元に縦パスをつける。パトリックはダイレクトで左サイドへ叩き、流れていたFW渡邉千真が中央に折り返す。走り込んで受けた倉田がパトリックに出したパスは合わなかったが、流れたボールを右から突っ込んだ矢島慎也が右足でシュート。GKにブロックされたが、こぼれ球を倉田が押し込んだ。

 前線からチーム全体でプレッシングを行ない、ボールに対して鋭い反応をし、奪ったら電光石火でゴールに迫り、各自がポジションをとってセカンドボールから波状攻撃を行なう。チームとしての練度の高さがよく出ていた。全員の集中力が高かったし、確信があるのだろう。

「先制点は今シーズン、とても多かった形で。あれは11人全員でやらないとはまらない。(宮本恒靖)監督が求めていることを、全員が同じようにやれるようになった結果だと思います。守備の強度の高さは、出し続けられたんじゃないか、と」(G大阪・東口順昭)

 今シーズン、ガンバでは下部組織出身者の若手が数多く抜擢され、選手層が分厚くなった。誰が出ても、戦力的に落ちない。故障者が出ても、変わって台頭する選手がいた。チームとして、確実に成長を示した1年だった。

 その根幹となっていたのは、やはり守備の整備にある。

 横浜FC戦も、バックラインがチーム全体を動かしていた。もっと端的に言えば、センターバックに入った三浦弦太、昌子源の2人が、丁寧に、果敢に、大胆にラインを作った。味方に対する指示も的確で、ポジション的な不利を極力、生じさせていなかった。結果、攻められているように見えても、単独でエリア外から放たれたシュートが多く、守備組織を崩された回数は数えるほど。裏に出たボールへの対応も淀みなく、守備でリズムを作っていた。

 リトリートしても、ただラインを下げるだけではない。チーム全体で、じりじりとボールの出どころを潰しながら下がり、相手が怯んだら再び上げる。うんざりするような細かい作業を、誰ひとり怠っていなかった。チームとしての戦いが明確化されていることで、例えば若いボランチの2人(山本、奥野耕平)も防御壁になりつつ、出しどころにもなっていた(山本がときおり見せた縦パスは非凡なものがあった!)。

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細かいラインの作り方は、かつて日本代表でディフェンスの中心にいた宮本恒靖監督の真骨頂と言えるか。

「(ボールを持つ)時間を持てず、我慢が続いた試合だったと思います。ただ、選手たちは今シーズン、特に後半戦は割り切ってプレーをしていて、そこでやられない粘り強さも見せてくれるようになりました。追加点をしっかりとあげてくれた」(G大阪・宮本監督)

 80分、ガンバは敵陣で相手のつなぎのミスを誘発させると、奪い取ったボールに放たれた矢のように出てきた倉田がシュート。これはGKに防がれたが、それを拾った渡邉が、再びエリア内で右足を振る。これもGKにブロックされるも、最後はこぼれをパトリックがねじ込んだ。しつこい守備、攻撃への切り替え、選手の立ち位置、波状攻撃などの質の高さで決着をつけた。

 2位確定によって、G大阪は、変則的な形式で行なわれる天皇杯、そして来季のアジアチャンピオンズリーグの出場権を確保している。決して派手な戦い方ではない。しかしその硬骨さが、宮本ガンバの可能性だ。