スタイリングとパッケージングを両立した地味セダン

 かつての日産「スカイライン」やトヨタ「マークII」兄弟、スバル「インプレッサ WRX」、三菱「ランサーエボリューション」といったモデルは、専用パーツが装着され、見た目もスポーティで、実際走らせても速かったものです。

 しかし過去には、見た目はベーシックグレードとほぼ同じながら、エンジンや足回りに手が加えられスポーティに走れるモデルがありました。

【画像】見た目は地味すぎ! でも走ると速い羊の皮を被った狼的なモデル(22枚)

 今回は、見た目は地味なセダンなのに、走るとスポーツカー顔負けの、「羊の皮をかぶった狼」な2リッター以下のクルマを5台紹介します。

●ホンダ「シビックフェリオ SiR」

 扱いやすいサイズと手頃な価格で、世界的な人気車となっている「シビック」。

 もともとは1.3リッターから1.6リッターエンジンを搭載したハッチバックでしたが、高い走行性能をも併せ持つことでスポーティなイメージも強い人気モデルです。

見た目は普通のシビックフェリオでも走ると速い

 そんなシビックですが、1991年に登場した5代目に追加された4ドアセダンが「シビックフェリオ」です。

 ハッチバックに実用性をプラスするために誕生したシビックフェリオですが、当時のホンダはF1で大活躍中。

 そのイメージを反映させた可変バルブタイミング機構「VTEC」を搭載したエンジンラインナップを強化していたこともあり、セダン版のシビックフェリオにもハイパワーなVTECエンジンを搭載したグレード「SiR」がありました。

 このSiRに搭載された1.6リッターVTECエンジン(B16A型)は、ターボなどの過給器でハイパワーを生み出すのが常識だった当時、自然吸気で高回転までエンジンを回すことでパワーを生み出すレーシングカーと同じ手法を実用化。

 当時としては驚異的な170馬力(5速MT)を実現させた名機といわれています。

 大人しい外観に、最強といわれた自然吸気の1.6リッターエンジンを搭載したシビックフェリオ SiR、まさに羊の皮をかぶった狼的なセダンに仕立てられていました。

●三菱「ギャラン フォルティス」

 いまではセダンのラインナップが消滅してしまった三菱ですが、かつては優秀なセダンを数多く輩出したメーカーでもあります。その代表格が「ギャラン」や「ランサー」です。

 そして、ギャランとランサーを統合した形で誕生したのが、2007年に登場した「ギャラン フォルティス」です。

 全長4570 mm×全幅1760mm×全高1490mmのボディは、車格的にもひとつ上のクラスでも十分通用するサイズです。

 このギャラン フォルティスには、「ランエボX」譲りのエンジンを搭載するスポーツグレード「ラリーアート」が用意されていました。

 最高出力こそ240馬力に抑えられているものの十分速い2リッターMIVECターボエンジンを搭載し、6速ATでイージードライブも可能です。

 AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)は装備されていませんが、ランエボXで鍛えたフルタイム4WD機構を採用していました。

 派手なエアロパーツはありませんが、ランエボの優れた走行性能を扱いやすくしたうえに、ロケットスタートも可能な「狼」に一瞬で変身できるセダンです。

見た目は普通でも中身はアスリート!?

●トヨタ「カローラGT」

 1966年に初代が登場して以来、長きにわたり国産車のベンチマーク(基準)として親しまれてきた「カローラ」。

 最近はコンパクトカーのラインナップが充実しクラスアップしておりますが、ちょっと前までは自家用でも会社の営業車としてもトップに君臨してきた、偉大なる「普通のクルマ」です。

トヨタ7代目「カローラ」(写真は通常仕様)

 当時は販売台数ナンバー1の座を死守すべく、クーペやワゴン、ミニバンなどボディ形状が違うモデルにもカローラの冠をつけていましたが、ベースモデルはあくまで実用的なセダンでした。

 しかしそんな優等生のボディに、あの「カローラレビン」や「スプリンタートレノ」に搭載されたスポーツエンジン「4A-GE」を搭載したスペシャルなモデルがありました。

 それが、1991年に登場した7代目カローラ追加された「カローラGT」です。

 全長4315mm×全幅1690mm×全高1385mmの標準的なセダンボディに、1.6リッター直列4気筒エンジンを搭載。

 通常のエンジンが16バルブであるのに対し、ヤマハが開発に加わって20バルブ化(プレミアムガソリン仕様)されたことで、最高出力を165馬力にまで引き上げています。駆動方式はFFのみでした。

 見た目は地味な大衆セダンでありながら、ハイパワーなエンジンを搭載した、特別なカローラに仕上がっていました。

●日産「サニー GT-S」

 いまでも各メーカーは同じようなクラスに同じようなモデルを投入しますが、かつてはもっと露骨に対抗モデルをラインナップしていました。

 そして、カローラの好敵手として存在していたのが日産「サニー」でした。

 カローラが時代のニーズに応じてガラッとデザインを変更するのに対し、サニーは無骨な直線基調のデザインを採用し、差別化を図っていました。

 歴代サニーのなかでも大きく進化したといわれているのが、1985年に登場した6代目です。

 当時の日産ではフォルクスワーゲンとのライセンス契約によりVW「サンタナ」を製造・販売したことで、品質や性能が世界水準まで大きく向上したといわれています。

 そしてバブル期真っ只中の1990年に登場した7代目は、6代目の長所を受け継ぎつつもさらに高品質にこだわり、直線でありながら角に丸みを持たせたデザインになりました。

 そんな7代目サニーにも、カローラGTに対抗すべく開発されたスポーツグレードがありました。それが「サニー GT-S」です。しかもライバルに負けないセールスポイントとして、4WD機能を採用しています。

 この当時の日産は、「スカイラインGT-R(R32型)」でスポーツ4WDという新境地を開拓。このフルタイム4WD新技術「アテーサE-TS」を、全長4250mm×全幅1670mm×全高1390mmのボディに組み込み、ハイオク仕様により140馬力を発揮する1.8リッターエンジンを搭載しました。

 このさりげない高性能こそが、羊の皮をかぶった狼的モデルの特徴であり、当時は派手なクルマに乗ることに抵抗がある人も多かった時代だったことから、見た目は地味でも中身はこだわったモデルにニーズがあったようです。

●マツダ「ファミリアセダン GTX」

 マツダ初の小型乗用車として1963年から2004年まで生産された「ファミリア」。

 現在でも車名は続いていますが、1994年から2018年は日産「AD/ADバン」のOEM、2019年からはトヨタ「プロボックス」のOEMとして、商用車のみのラインナップになっています。

 ファミリアといえば、1980年に誕生した5代目のハッチバックが有名です。

 当時憧れだったVW「ゴルフII」に似た直線基調のデザインが高評価を獲得。赤いファミリアは「プアマンズ・ゴルフ」と呼ばれるほど、大人気になりました。

 また、フォードと資本提携を結んだ関係もあり、実用性の高さが特徴の保守的なクルマといったイメージでもありました。

 そんな実用主義なファミリアでしたが、じつは現在のスポーツセダンの元祖ともいうべきメカニズムを搭載したスポーツモデルが存在しました。それが「ファミリアセダンGTX」です。

 空前のスポーツワゴンブームを巻き起こしたスバル「レガシィ」より先にDOHCターボ+フルタイム4WDの組み合わせを実現。

 高い実用性はそのままに、スポーツ4WDという新しい時代の走りも楽しめるセダンとして誕生しています。セダンのほかに、ハッチバックのGTXもありました。

 ボディサイズは全長4250mm×全幅1690mm×全高1385mmとコンパクトセダンそのものでしたが、180馬力を誇る1.8リッターDOHCターボ(プレミアムガソリン仕様)を搭載。

 また世界ラリー選手権(WRC)にもこのGTXベースの車両で参戦し、3度の総合優勝を果たすなど、レガシィのライバルともいえるような本格的なスポーツ性能が魅力でした。

 デビューから30年以上経った現在でも完成度の高いデザインと、現在のスポーティセダンの基本形ともいえるフルタイム4WD+ターボを生み出した、隠れた名車です。

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 羊の皮を被った狼的なセダンは、派手な見た目は好みでないけど、走る楽しさを追求したい人にぴったりの選択です。

 現在はエコを優先したクルマが多く、またセダンも人気復活とまではいかない状況ですが、羊の皮をかぶった秀逸なモデルが登場してくることを願っています。