真っ赤なジャケットに袖を通し、優勝後のリモート会見場に現れた原英莉花は、ラウンド中のキリリとした緊張の表情とは違って、なんとも幸福そうで柔和で、頬も紅潮していた。

 今年最後のトーナメントとなるJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ(宮崎・宮崎CC)。原は初日から首位を守る完全優勝で、日本女子オープンに続いてメジャー大会2連勝を飾った。

「ほんっとにうれしい気持ちでいっぱいです。2020年は自分のゴルフ人生で、大きな第一歩を踏み出せた年になったと思います。(来年末まで続く長いシーズンの)賞金女王争いにつながる一歩だし、『海外で戦いたい』という、そこに向けて自信にもなる第一歩だったと思う」


今季国内メジャー2勝目を挙げた原英莉花

 今年一年を漢字ひと文字で表すと――年末恒例のお決まりの質問にはこう答えた。

「『幸(さち)』ですかね。やっぱり2勝できましたから」

 アウトスタートの初日、原は2番パー5で、サードショットが直接カップインし、イーグルを奪取する好スタートを決めた。飛ばし屋の原にしては、意外にもこれが今季初めてのイーグルだった。

「今週のベストショットであり、今季のベストショットかな。やっぱりずっとイーグルを獲れなかったので」

 通算10アンダー、2位の西村優菜に1打差をつけてスタートした最終日は、「さすがに緊張して、ナーバスになっていた」と振り返る。初日にイーグルだった2番でボギーが先行した。

「ピンポジションや風にもよりますが、他の選手がみんな伸ばしてくるだろうなと、構えてしまった。自分もしっかり伸ばせるところまで伸ばしていこうという心構えではいたんですけど、序盤からパー5でボギーがきてしまって......苦しい展開になりました」

 同組の西村は序盤で大きくスコアを落とし、現在ツアー2連勝中の古江彩佳が猛追する。だが、原は6番パー4でバーディーを奪い、古江との差を広げ、7番、8番は厄介なパーパットを強気のパッティングでセーブする。

「(今季1勝目の日本)女子オープンの時とはぜんぜん状況が違って、あの時は自信を持ってショットに臨めていた。今週はショットに信頼を置けない状況で、『ここ(首位)で戦えているのがすごいね』とキャディさんと話しながら回っていた。

 反対にパッティングは、今までの自分とは違うプレーで、『誰のプレー?』って感じ(笑)。グリーンが難しいコースだからこそ、自分が納得できるまで悩んで、ラインが信じられるようになってから、しっかり打つという作業に取りかかりました。とにかく、パッティングに支えられました」

 今大会が通常のスリーサムではなく、ツーサムでのラウンドだったことも自身の闘争心に火を付け、優勝をたぐり寄せられた要因だった。

「自分は勝負が好き。ツーサムだと1対1の戦いというか、目の前の選手と戦っている感じがして、自分を奮い立たせるというか。『負けられない』という気持ちが芽生えて、普段入らないようなパットも気持ちでねじ伏せられたんだと思います」

 原は前週の大王製紙エリエールレディスの初日のラウンド後に、右膝痛を理由に途中棄権した。帰京後、鍼灸院に通い、日曜日には師匠のジャンボ尾崎邸にも向かった。そこでの"鶴のひと声"もまた、このメジャー優勝につながった。

「自分が気づかないうちに、右膝の痛みによって、いろいろな身体の部分をかばってスイングするようになっていた。ジャンボさんに見てもらうと、『おまえ、そんなにトップの位置が低かったか?』と。トップの位置がかなり低くなっていて、クラブが開き気味で上がっていたんです。ジャンボさんに指摘されて修正すると、一瞬で打球が変わった。『単純なヤツだな』と言われました(笑)」

 最終日こそスコアを伸ばせなかったが、通算10アンダーで、完全優勝を遂げた。2つ目のメジャータイトルを手にし、昨年まではプロゴルファーとして遥か先を歩いていた畑岡奈紗や渋野日向子ら、同じ1998年度生まれの"黄金世代"のライバルの背中を、視界に捉えたのではないか。

「これから同じ舞台で、どんどん戦っていきたい。まずは世界ランキングを上げて、海外メジャーに出場したい気持ちもあるし、ゆくゆくは海外のツアーに行きたいと思っている。まだゴルフに波があって荒いし、アプローチのバリエーションも少ない。一歩一歩、力をつけていきたい」

 173cmの長身で、スケールの大きなゴルフが魅力の原が見据える舞台もまた大きい。