Appleの新しいスマートホームスピーカー「HomePod mini」が11月16日に発売された。なんと、価格は1万800円(税別)というお手頃プライスだ。早速、米ローリングストーン誌のライターが、メインスピーカーとして2週間使ってみたというレビューをお届けする。

高性能なオーディオハードウェアと音楽ストリーミングの気軽さの溝を埋めようと、Appleは2018年に初代「HomePod」を発表した。11月16日に発売された1万800円(税別)の「HomePod mini」は、こうした体験をもっと多くの人に提供するために設計されたスピーカーだ。この製品は、圧倒的な成功を収めたワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」の後にAppleが初めてリリースしたスピーカーであり、ホームオーディオにもAirPods Proの勢いを還元させたいという同社の意図がありありと現れている。

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5分でセットアップ完了


Appleは、「Apple Watch」をモデルとしたスリム化されたセットアッププロセスをHomePod miniにも導入した。そのアプローチは、見事に功を奏している。さっそく筆者がHomePod miniをコンセントにつないでiPhoneを近づけると、「スピーカーをセットアップしますか?」とメッセージが表示された。「Yes」とタップすると、AppleはiPhoneのカメラを起動し、HomePod miniのタッチスクリーンに表示された渦のようなイメージをスキャンするよう指示した。

スキャンした瞬間、iPhoneの「Home」アプリがApple MusicのIDなどの設定をHomePod miniに移行したいか、Siriのリクエストをパーソナライズしたいかと尋ねてきた。後はすべてHomePod miniにお任せし、スピーカーをコンセントにつないでからおよそ5分後には音楽を聴く準備が整った。

シンプルで親しみやすいデザイン

製品名にふさわしく、HomePod miniは見た目も使い心地もAppleのフルサイズのスマートスピーカーのミニチュア版のようだ。高さは84.3ミリで、両サイドが少し膨らんだ丸い形をしている。スピーカーの上と下は完全にフラットで、見た目は対称的だ。家電らしくない外観の製品が好みなら、きっとHomePod miniの美学を気に入るだろう。

外観は地味かもしれないが、メッシュ素材のカバーの下に潜むHomePod miniのオーディオギアはかなり複雑だ。Appleは、この新作スピーカーにフルレンジドライバと、さまざまな方向に音を届けるデュアルパッシブラジエータを搭載した。「アコースティックウェーブガイド」というコンポーネントがスピーカーの下の部分から音を伝達し、360度のオーディオエフェクトを生み出す。4つのマイクのアレイは、大音量で音楽を聴いていてもSiriに対応できるよう設置されている。

HomePod miniは、Apple Watchシリーズ5でデビューした、カスタムデザインの「S5チップ」を搭載している。このチップのおかげで、HomePod miniはユーザーが聴いている曲に応じて音を調整し、最適化することができるのだ。フォークソングとハードロックの聴こえ方は変わるだろう。というのも、S5チップは両方を最高のサウンドにするためにあるのだから。

手堅い選択

説明だけでもHomePod miniのオーディオハードウェアが優れていることが伝わってくるが、筆者は実際にスピーカーの音を試してもっと嬉しくなってしまった。Appleは、初代HomePodで到達した高いレベルのオーディオクオリティを維持していることはもちろん、それを1万800円という価格で実現したのだ。誤解しないでほしいのだが、フルサイズのHomePodのほうがサウンド的にははるかに優れている。だが、HomePodの価格は3万2800円(税別)だ。1万円代のHomePod miniは、独自のカテゴリーの製品といえるだろう。

筆者は、メインスピーカーとしてHomePod miniを2週間使用し、使うごとに感心させられた。ローカルのミュージックライブラリのトラック、Apple Musicでストリーミングした楽曲、TIDAL(訳注:ノルウェー発祥の音楽ストリーミングサービス)から入手したフルクオリティのオーディオファイル--筆者は、これらのポイントをもとにHomePod miniを検証した。ほとんどの楽曲は、「AirPlay(Appleのワイヤレス再生機能)」を介してiPhoneからストリーミングされたが、直接Siriにリクエストしていくつかの楽曲も再生してもらった。オーディオ好きであれ、気軽に音楽を楽しみたいリスナーであれ、HomePod miniのサウンドには両者を魅了する多くの点があるというのが筆者の結論だ。

さらにHomePod miniは、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの「Dream On」のしんみりとした雰囲気を捉えることに成功し、とりわけボーカル部分を見事に強調した。ジョニ・ミッチェルの「Willy」のピアノの調べの自然さにも感動させられた。それだけでなく、ザ・フレーミング・リップスの「Ego Tripping at the Gates of Hell」のような高密度の楽曲も驚くべき明瞭さで再生してくれた。同楽曲のミックスの奥底に潜むシンセサイザーのような音は聞き取りにくかったものの、全体的にHomePod miniの仕事ぶりは見事だった。

ミッドレンジやハイの音域をモヤッとさせずに小型スピーカーがディープなベースを再現するのは難しいだろうが、HomePod miniではそんなトラブルはなかった。筆者がHomePod miniで初めて聴いた楽曲のひとつはショーン・メンデスとカミラ・カベロの「Senorita」で、同楽曲はベースとギターの独特な相互作用で始まる。いともたやすく両方の楽器の要素をはっきりと忠実に聴くことができた。

ワイヤレススピーカーの欠点のひとつは、こうした製品のほとんどがモノラル再生である点にある。要するに、左右のチャンネルからの楽器の音が「折りたたまれた」状態になり、楽曲によっては不自然に聴こえたり、楽曲に合っていないように聴こえたりするのだ。HomePod miniのオーディオシステムは、こうしたオーディオ異常を巧みに削減してくれるが、これはよくある問題だ。ありがたいことにAppleは、2台のHomePod miniをペアリングすることで正真正銘のステレオ再生による音楽が楽しめるという解決策を提供してくれた。

2台のHomePod miniによってステレオ再生が可能になると、この製品は完全にワイヤレスなオーディオシステムを提供してくれるAppleの名品、AirPods Proに限りなく近いスピーカーになる。2台のHomePod miniをペアリングしてステレオ再生することにより、「Ego Tripping at the Gates of Hell」のサウンドは完璧なものになった。すべての要素が再現され、ひとえに最高のサウンドを提供してくれたのだ。

もし、あなたが音楽をストリーミングでしか聴かないなら、2台のHomePod miniは従来のホームステレオの代わりに十分なり得ると言い切ってもいいだろう。レコードプレーヤーで音楽を聴く、あるいはiPhoneやMacでは聴きたいトラックが入手できない場合は、従来のオーディオスピーカーや高性能なオーディオ機器を使い続けるのが無難だ。

それでも筆者は、コンパクトなパッケージで最高品質の音質を追求していたAppleに称賛を送りたい。HomePod miniは、まさにその成果なのだから。

徐々によりスマートに


HomePod miniはスピーカーとしては申し分ないが、同製品の「スマート」機能はSiriとAppleのソフトウェアによって制限されている。他のApple製品を使っていれば、HomePod miniのおかげで生活はいくらか便利になるのが関の山だ。

iPhoneをHomePod miniに近づけるだけで音を自動的に送信できる機能はかなり時短になるが、成功率はおよそ60パーセントだった。Apple TVのスピーカー代わりにHomePod miniを2台使用したときも、同じような結果だった。

Appleの「Media Streamer」アプリを使えば、スマートでワイヤレスなホームシアターシステムのオーディオアウトプットとしてHomePod miniを設定することができる。期間は短かったものの、筆者はこれを機能させ、その結果はかなり満足のいくものだった。だが、Apple TVを試すようになってからは、HomePod miniをオーディオアウトプットに設定するというオプションが表示されなくなった。奇妙にも、同じネットワークにつながっているいつものHomePodを検知し続けたのだ。

HomePod miniに本当に驚かされたのは、家族や友人に同時に音声メッセージが送れる「インターコム」というAppleの新機能と一緒に使ったときだ。この機能を使うと、色んなAppleデバイスに短い音声メッセージを送ることができ、その魅力はHomePod miniによって際立っている。セットアップが完了すれば、HomePod miniからメッセージを送信し(例えば「5分後に上の階のキッチンに行って夕飯の支度をするよ」など)、他のHomePodスピーカーが再生してくれるだけでなく、筆者のiPhoneにも通知してくれるのだ。

音声メッセージの送信は自然で、HomePod miniのマイクのおかげで音声もクリアだった。インターコムはHomePod限定の機能などではなく、iPhone、iPad、Apple Watch、AirPods、さらには「Carplay」を使えば車でもメッセージのやりとりができる。メッセージをやりとりするデバイスは制限可能で、自動で再生するかどうかも選択できる。自宅にあるデバイスだけでインターコムのメッセージを再生するというオプションもある。

インターコムは、Apple独自のハードウェアとソフトウェアの統合によるメリットをまざまざと見せつけてくれる。だからこそ、すべての機能を使いこなすのがここまで複雑なのは、本当に残念だ。この問題は、ここ数年にわたって同社がこの分野で直面してきた葛藤を象徴しているが、実のところ、HomePod miniは筆者にかなりの期待を抱かせてくれた。

1万800円のスピーカーは、3万2800円のフルサイズ版よりも絶大な人気を博すだろう。HomePod miniは、スマートホームテクノロジーに対する新たな関心を象徴しており、より盤石なソフトウェア開発の重要性をAppleに強調する製品である。

結論


あなたがAppleのハードウェアとサービスのユーザーなら、1万800円のHomePod miniはスマート機能というおまけ付きの素晴らしいサウンドのスピーカーだ。2台購入すれば、お気に入りの楽曲を聴くのがこの上なく楽しい体験になる。

HomePod miniは、スリム化されたセットアップと簡単な使い方が特徴の手頃で優れたオーディオ機器開発に力を注ぐAppleの姿勢を明確に象徴している。依然として同社のスマートホーム戦略には時々欠点があるものの、HomePod miniはそれさえ変えてしまうほど普及するかもしれない。