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"選ばれし男(The Chosen One)"が頂点に戻るのか。ロサンゼルス・レイカーズの大黒柱レブロン・ジェームズは、そんな期待をさせる渾身のパフォーマンスを、デンバー・ナゲッツ相手のNBAウェスタン・カンファレンス・ファイナルでも見せてくれた。


レイカーズをファイナル進出に導いたレブロン

 特に現地時間9月24日に行なわれた第4戦の終盤には、絶好調だった相手エース、ジャマール・マレーのガードを自ら買って出て封じ込め、接戦を制する原動力になった。その勝利で3勝1敗と王手をかけると、26日の第5戦では第4クォーターだけで16得点と大爆発。この試合は38得点16リバウンド10アシストで、史上2位となるプレーオフ通算27度目のトリプルダブルをマークし、驚異的な粘り強さを見せてきたナゲッツを退けた。

「第4クォーターをあんなふうに支配したのは、これまで見たことがなかったかもしれない。すごかったよ」

 レイカーズを率いるフランク・ボーゲルHC(ヘッドコーチ)の言葉も大げさには思えない。あらためて"キング・ジェームズ"の底力を思い知らされたファンは多かっただろう。

「俺はこのためにここにきたんだ。『LAに来た理由はバスケットボールじゃないんじゃないか』とかいろいろ言われたけれど、俺の目標はずっと変わらなかった。またその目標に近づいたよ」

 一昨年まで8年連続でプレーしたファイナルの舞台に戻ることが決まり、レブロンの言葉は力強かった。9月30日(日本時間10月1日)から行なわれるマイアミ・ヒートとの最終決戦でも、その一挙一動から目が離せない。

 9月下旬、レブロンは今季のMVP選考について不満をぶちまけた。シーズンMVPを決めるメディア投票で、ミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボが101票中85票の1位票を集めて2年連続受賞。自身が1位票を16しか獲得できなかったのが気に入らなかったのだという。

「投票結果には憤っているよ。全部で101票あるMVPの1位票のうち、16票しか俺に入っていなかったからだ。受賞者(アデトクンボ)がMVPに値しないと言っているわけではない。だが、俺は不満に思っている」

 今年12月に36歳になるレブロンだが、今季も67試合に出場し、平均25.3得点(FG49.8%、3P 34.9%、FT 69.7%)、7.8リバウンド、10.2アシストをマーク。チームをウェスタン・カンファレンスのトップシードに導き、プレーオフでもすばらしい働きを続けているのは前述の通り。今年1月、コービー・ブライアントの事故死という悲劇に見舞われたレイカーズを、通算17度目の優勝にあと1歩のところまでけん引してきたことは高く評価されるべきだ。

 ただ、MVPはあくまでレギュラーシーズンのアウォード(賞)であり、プレーオフでのプレーは無関係。中断もあった2019−20シーズンに、アデトクンボ以上にハイレベルな数字を残した選手はいなかった。

 今季のアデトクンボは63戦で平均29.5得点(FG54.7%、3P 30.6%、FT 63.3%)、13.6リバウンド、5.6アシストを残し、バックスをリーグ最高勝率に導いた。ディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ジ・イヤーも初受賞し、リーグ最高の2ウェイプレーヤーとみなされるようにもなった。

「最高勝率チームのベストプレーヤー」であるアデトクンボは、十分にMVPに値する。個人、チーム成績の両方でレブロンを上回っているのだから、あくまでレギュラーシーズン中と限定すれば、1位アデトクンボ、2位レブロンというMVP投票は妥当だっただろう。

 この件に関して、レブロンが実際にどんな思いを抱いていたかは定かではない。2009、10、12、13年に4度のMVPに輝いたレブロンだが、"リーグの看板"として君臨し続けながらも、それ以降はMVPに縁がなかった。「そんな結果は適切ではない」と、メディア、ファンにメッセージを送ろうとしたのかもしれない。

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 答えはどうあれ、個人としては2年ぶり10度目のファイナルを迎え、モチベーションを掻き立てられていることは間違いない。シーズンMVPの結果は変わらなくても、レブロンには通算4度目の「ファイナルMVP」を手にする大きなチャンスがある。それを成し遂げた時には、再び"現役最高の選手"の称号を欲しいままにする可能性もある。

 さすがのレブロンも30代半ばを迎え、もうピークを超えたと見る関係者、ファンが多かった。そんな背景から、最近ではアデトクンボ、ロサンゼルス・クリッパーズのカワイ・レナードをNo.1選手に推す声が増えていた。

 ただ、アデトクンボが率いるバックスは、今季のプレーオフではカンファレンス・セミファイナルでヒートに敗退。昨季に続き、イースタンのナンバーワンシードでありながらファイナル進出を果たせなかった。スーパースターの真価は、やはりポストシーズンで計られるもの。現時点でアデトクンボを「No.1プレーヤー」として認める選手、関係者は多くないかもしれない。

 また、優勝候補の呼び声高かったクリッパーズも、ウェスタンのセミファイナルで一時は3勝1敗とリードを奪いながら、デンバー・ナゲッツに5戦目以降3連敗を喫して敗れた。チームが崩れていくのを止められなかったことで、レナードも少なからず批判を浴びる結果になった。

 NBA再開の地であるオーランドのバブル(隔離空間)で現代のスターたちが敗れていく中、圧倒的な存在感を放ち続けるレブロンの価値が、あらためて高まっている印象もある。再び頂点に立てば、実力と影響力が再評価されることになるだろう。

「シーズンMVPを目指してプレーしているわけではない。史上最高のプレーヤーを目指し、その結果として(ファイナルの)MVPに3度選ばれてきたんだ」

 そう意気込むレブロンは、ファイナルでヒートを蹴散らし、4度目の栄冠を手にするのか。そして再び、満場一致の現役ベストプレーヤーとして君臨することになるのか。

 新型コロナウイルスの影響で長くなった、2019−20シーズンの最後を飾る最終決戦でも、最大の注目選手はやはりレイカーズの背番号23。この戦いを終える頃、現役選手の中で、そして歴代のレジェンドの中で、レブロンがどんな立ち位置なのかがはっきりと見えてくるかもしれない。