かつてロシア代表でキャプテンを務めた名手が、ありえない蛮行に及んだ。ゲーム中に激高し、あろうことか主審をボコボコにしてしまったのだ。

 衝撃のシーンが引き起こされたのは、現地月曜日だった。ロシアの公共テレビ局『Matchtv』が主催しているアマチュアリーグの試合で、この日は元代表選手や芸能人、著名人らが多く参加。そこで看板スターとし出場していたのが、CSKAモスクワやゼニトで活躍し、ロシア代表としても57キャップ(14得点)を刻んだ攻撃的MF、ロマン・シロコフ氏だ。EURO2016を最後に現役を引退した、現在39歳のレジェンド。『Matchtv』とテレビ解説などの専属契約を結んでいる。

 現役時代もサポーターに食って掛かるなど癇癪持ちとして有名だったシロコフ氏。言うなれば草サッカーで、なぜそこまで怒りを爆発させたのか。まず不満を露わにしたのは、ニキータ・ダンチェンコ主審のジャッジに対してだ。相手DFにエリア内で倒されたが、PKの判定が下らない。これにシロコフ氏は猛然と抗議。この際に相当汚い言葉で主審を罵ったとされる。

 シロコフ氏に元へ駆け寄るダンチェンコ主審。そこで元代表主将は「俺にレッド(退場)を出してみろ! お前を殴り倒してやるからな!」と恫喝する。ダンチェンコ主審が迷わずカードを提示すると、即座に強烈な右フックをお見舞いして主審をKOしてしまったのだ。さらに酷かったのは、倒れ込んだ相手に右足で無情のキックまで打ち込んだところ。チームメイトらになんとか抑えられて、シロコフ氏はピッチを去った。

 試合の模様はテレビでライブ中継され、視聴者はスタープレーヤーの乱心に大きなショックを受けたようだ。テレビ局には抗議の電話が殺到したという。
 
 ロシア国内で著名なフットボール記者、アルトゥール・ペトロシャン氏は自身のツイッターで激しく糾弾。「なんて愚かな男なんだ! ダンチェンコは警察に被害届を出すだろう。それも当然だ。サッカー界におけるシロコフの影響力は絶大で、彼は審判のキャリアの岐路に立たされるかもしれなのだから」と綴った。

 世間の大バッシングを浴びて、シロコフ氏は翌朝になって謝罪のメッセージを発した。「ニキータさんに対する不適切な行動に関して、心の底からお詫びしたい。いくら明確なPKでレッドカードを提示されたからといって、許されない行為に及んでしまった」と記し、「ニキータさんが一日でも早くピッチに復帰できる日を待ち望んでいる。そして試合を主催した事務局やチームメイトにも謝りたい」と続けた。

 しかしペトロシャン記者は「不十分な謝罪だ」と指摘し、「彼が本当のプロなら、まず彼がなすべきはMatchtvへの当面の出演自粛だ」と要求した。
 火曜日の夜、自身の想いを明かしたのがダンチェンコ主審だ。左目付近が痛々しく腫れあがったセルフィーを掲載しつつ、次のように言葉を紡いだ。

「病院に担ぎ込まれて、20分ほど集中治療室にいた。バチバチと目の上の傷をホッチキスで止めてもらい、いろんな検査を受けたよ。幸いどこにも異常はなく、いまは気分も優れている。今回の一件は私のことを強くしてくれた。これから困難が待ち受けるけど、たくさんの励ましの言葉をもらって救われたし、とても感謝している。前を向いて、歩んでいきたいと思う」

 シロコフ氏に対するメッセージは発せられなかった。

 大会運営の責任者であるゲルマン・ポプコフ氏も弁護の余地はないとキッパリ。「シロコフが腹に据えかねて主審を殴打した。それだけのことだが、許容などとうていできない、嫌悪に満ちたおぞましい事態だ」と批判し、「ライブ中継で何百万人が目撃した。実に嘆かわしい」とうなだれた。

 はたしてロシアの英雄を巡る騒動は今後、いかなる展開を見せるのか。軽率な愚行によって、あまりにも大きな代償を支払うことになりそうだ。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部