コロナウイルスの影響がなくても厳しい決算になっていた

 中国・武漢で新型コロナウイルスの発生が話題となったのは、2020年1月あたりが最初でした。当初は中国もしくは東アジア限定の流行と考えられたこともありましたが、3月以降世界的に拡大。いまも、その影響は残り続けています。

 当然、グローバル企業である自動車メーカー各社も、新型コロナウイルスの影響は大きく受けています。感染防止などから工場は停まり、計画通りの生産ができていないというのは、どのメーカーにもいえることで、経営的にも非常に厳しい状況になっています。

 そうした影響を数字で見ようとすることは非常に難しいですし、単純に前年比で見るのもナンセンスでしょう。この状況で、前年比マイナスになることは、どこも避けられません。

 とはいえ、2020年3月期(2019年度)の決算に限って言えば、新型コロナウイルスの影響はさほど大きくなかったといえます。前述のように、2020年3月期の対象期間に限れば、北米や欧州といったマーケットは、ほとんど影響を受けていなかったといえるからです。その証拠に、北米を主要マーケットとしているスバルの、2020年3月期の決算は世界販売台数・売上・営業利益・当期利益のいずれも前年比でプラスになっています。

 以下、日本の主要乗用車メーカーの2020年3月期決算の数字を並べて比べてみましょう。

 世界販売台数(ホンダとスズキは四輪だけの数字)は各社とも減っていますが、ここで基準とすべきは6.9%という数字になります。というのも、2020年3月期における全需(世界の合計販売台数)は8573万台で、これは前年比6.9%減だからです。つまり、6.9%より多く減っているメーカーは新型コロナウイルスの影響に関係なく販売台数は減っていたといえますし、それよりも減少幅が少なければ新型コロナウイルスがなければよい結果につながっていた可能性があるといえます。

 前述したように、日本の自動車メーカーで販売台数が前年比で増えているのはスバルだけですが、トヨタも0.3%減ですからコロナ禍のなかで健闘したといえます。逆にいえば、この2社以外のメーカーはコロナがなくとも販売減になっていた可能性が高いといえます。とくにスズキはインド市場における減速の影響が大きく、非常に厳しい数字となっているのが目立ちます。

 新型コロナウイルスの特効薬もまだ生まれておらず、いつ第二波、第三波が来るのか戦々恐々としているのが現実でしょう。いわゆるウィズコロナ社会といえる状態であって、多恵忍ぶ時期となっています。

トヨタは“仲間”とともに盤石の体制を築けたのが強みに

 こうしたときにものを言うのが内部留保などの企業体力です。工場などの設備を維持するためのコスト、人件費はもちろん、アフターコロナの社会に向けてさまざまな研究開発を止めるわけにもいきません。内部留保が大きければいいのですが、「貧すれば鈍する」で思考停止になってしまうと、アフターコロナを生き残ることは難しくなります。

 新型コロナウイルスの対策として「ソーシャルディスタンス」という言葉も広まりましたが、アフターコロナはパーソナルスペースを確保できるモビリティとして自動車の価値が高まることが予想されます。そうした未来に向けて、新しいニーズを満たす商品を生み出すことは、生き残るための道ですし、そのためには技術開発は必須です。

 そうした点で、とくに心配なのはアライアンスを組む三菱自動車と日産の2社でしょう。日本の自動車メーカーとして、当期利益が赤字になってしまっているのは、この2社だけですし、日産に至っては営業利益さえも赤字になっています。もっとも、ルノーを含めたアライアンスとして次世代モデルについては「共同開発したモデルの外観を変えることで3社展開する」といったビジネスモデルを発表しています。

 要は、軽自動車のデイズとeKがやっているようなフロントマスクによるモデルの差別化を、ルノー日産三菱自のアライアンスにおいてグローバルに拡大していくということです。効率よく魅力的な商品を開発しようという思惑どおりにいくのかどうか、アライアンス効果が上手く発揮できれば、企業体力は確保できますから、アフターコロナでの躍進が期待できるといえます。

 一方、緩やかな「仲間作り」をしているトヨタは、その「仲間」であるマツダ、スバル、スズキの3社と合わせると世界販売台数は1600万台に迫るもので、コネクテッドなどスケール(規模)のメリットが大きい領域においては強みを発揮するであろうことは、決算の数字からも見て取れます。

 なにしろ、これだけ厳しい決算ながら当期利益を2兆761億円と前年比10%増にまとめてきたトヨタですから、多方面に技術開発を進めているはずです。ウィズコロナでじっと耐え忍ぶなか、どこまで次世代の技術開発を進められるかは、アフターコロナで自動車市場が復活した際に、大きな差となって自動車メーカーの勝ち負けをはっきりさせることでしょう。