“仕事”は、給与をもらうための手段。
そう割り切って仕事をしている人も多いのではないだろうか。
倉田梨沙もそのうちの1人。ごくごく普通のOLで出世欲もない。
しかし、出世欲に目覚めた平凡な女の子でもキャリア女子になれるのか？
◆これまでのあらすじ
4年前の梨沙は“仕事ヤル気ゼロ”の他力本願なOLだったが、今や、出世欲に燃え、営業に明け暮れる日々を送っている。一方、恋愛は、“頼ってくれる元カノと一緒にいたい”と恋人に言われ、別れを受け入れた梨沙だったが、その2年後…
「よし、この案件が決まれば、営業の年間目標を140％で達成できるわ」
梨沙は電話を切った後、心の中でガッツポーズをした。
先週初回訪問したお客様から、本格導入に向けた打ち合わせをしたい、と連絡がきたのだ。
2年前、役員が参加する会議に参加して以来、梨沙の評判は上り調子だった。役員が、堂々とプレゼンする梨沙の姿を部課長に褒めたようで、その評判が段々とメンバーにも伝わっていった。
若手にはまだ早いと言われていた大型案件の提案や、新サービスの初回導入案件など、梨沙がやりたいと言えば、周りが応援してくれる体制ができている。
−当たり前だけど、評判って本当に大切なんだなぁ…。自分でもこんなに上手くいくだなんてびっくりしてるもの。
勝ちパターンは増え、自分でも無敵に思う瞬間もある。
ーまぁ実際は、いつも終電近くまで残ってるし、土日返上だけどね…。
「倉田さん、ちょっといい？」と課長に声を掛けられた。
課長に呼ばれ、言い渡されたこととは…？
会議室に行くと、聞かされていなかったが、部長が待っていた。
ーえっ、なんでいきなり部長がいるの？
一瞬で緊張が走るが、悟られないよう「お疲れ様です」と会釈して席に着く。
そんな梨沙をよそに部長がいきなり高いテンションで話しかけてくる。
「お疲れさま！倉田さん。今じゃ、うちのエースだからね！最近はどんなお客様を捕まえたの？」
さっそく、今日連絡がきたお客様の話をしてみせる。
部長は嬉しそうに「やっぱり、倉田さんはパワーが違うね！」とさらに褒められ、こう続ける。
「実は、来年から新規開拓専門の課を作ることが決まって。倉田さんに、その課の課長を任せたいと思ってるんだけど、どうかな？」
早く出世したくて、人の何倍も頑張って働いてきた努力が報われた瞬間に、時が一瞬止まる。
「倉田さん、女性で営業課長は史上初だよ。しかも、最年少での課長昇格だからね。期待してるよ」
「ありがとうございます！期待に応えられるよう頑張ります！」
梨沙の顔に、思わず笑みがこぼれる。
そして、来年度が始まるまでの2ヶ月間で、部課長と共に組織づくりの準備をしていくことになった。
自席に戻り、梨沙は喜びを噛み締めていた。
ーこの2年間、プライベートをかなり犠牲にしてきたけど、ようやくその努力が報われたわ…。
2年前に加藤と別れてから、彼氏がいたこともあったけれど、仕事を優先しすぎて長続きしていない。
“自分で何でも出来てしまう女”認定を加藤にされてから、落ち込んだこともあったけれども、それでもプライドを持って懸命に仕事に取り組んできた。
一方で『後輩たちのロールモデルになれるだろうか』という不安が同時に生まれた。
梨沙がかつて出世したいと思った時、ロールモデルが少なかったことから、後輩たちのために、自分こそがロールモデルになろうと頑張ってきたことを思い出す。
◆
部課長会議に梨沙が呼ばれていることや、新規開拓専門の課ができることなどから、数日のうちに、梨沙が課長になるのではないか？という噂が社員に広がり始めていた。
「この提案書、使えないんだよ。誰だよ、この提案書作ったやつ」
いつものように、梨沙は、課の立ち上げ準備と通常の営業活動に追われていると、佐々木のイライラしたような低い声が2島後ろの席から聞こえてくる。
佐々木直治、41歳。
たまに見えるスーツの裏地は遊び心のある派手な柄で、仕事が出来る印象を相手に与えるが、ずっしりと重そうなカバンの中身は大量の自己啓発本ばかりだ。
梨沙よりも営業経験は長いが、目標を達成した、という話を聞いたことがない。
「倉田が書いた提案書らしい」と、その島全体で話をしているようだ。
ヒソヒソと話をしているつもりらしいが、ハッキリと聞き取れてしまう。
−私、提案書に変なこと書いたっけ？
さっそく、梨沙の出世を阻む人物が・・・
「すみません、私の提案書に何か不備がありましたか？」
佐々木の真横に立って話しかけたが、反応がない。
−え？聞こえなかった…？！
梨沙はもう一度話しかける。
すると、「これ導入までの流れが抜けている箇所があるよね、直さないと使えないんだよ」と梨沙の顔を見ることもなく佐々木がこたえる。
−この人…何を言っているのかしら…？
「導入環境はお客様によって変わるから、基本的な流れをもとに、お客様の状況に合わせて資料を作り変えるものですよね？」
自分よりも年上の佐々木に、当たり前のことを言うのは、多少躊躇するが、それ以外の言い方が思い浮かばなかった。
しかし、「いや、提案書はそういうものじゃない」と訳の分からぬことを言う佐々木が、だんだんと理解し難いモンスターに見えてきて、背筋が寒くなる。
−忙しいのに、言いがかりをつけられて、時間を取られるなんて…！
「お手数をお掛けしてしまい、申し訳ありませんが、お客様に合わせて修正をお願いします」と言い、梨沙は何とか切り上げることができた。
ー翌日ー
部課長と来年度の新組織についての打ち合わせのときに、部長が、梨沙が受け持つ課の体制図を見せてきた。
−げっ…、部下に佐々木さんがいる…。
内心、弱腰になったのを悟られないように、笑顔を作りやる気をアピールした。
◆
「先輩、お腹結構目立ってきましたね！来月から産休でしたっけ？」
会議が終わり、梨沙は、棚橋みどりとのランチを楽しんでいる。みどりとは、評価面談の対策を一緒に行ったことをきっかけに、定期的に二人でランチに行く仲になっていた。
みどりは、幸せそうにお腹をさすりながら、梨沙に佐々木の件を振ってきた。
「そういえば倉田さん、佐々木さんに絡まれて大変だったみたいね。あの後、佐々木さん、“あんなのに負けない”なんて色んなところで言いふらしていたみたいよ」
急に梨沙の顔が曇る。
「言いふらすって…」
そんな佐々木が部下になると思うと、さらに弱腰になっていく。
「まだ言えないと思うけど、新規開拓専門の課を任されるんでしょ？きっと佐々木さん、自分よりも若い人に先を越されるのが悔しいのよ」
「はぁ、先輩だから話せますけど。出世できるのは嬉しいですけど、今から気が重いです…」
みどりとのランチを終えた梨沙は考えていた。
女性としての幸せをしっかり掴んでいるように見えるみどりとは対照的に、梨沙は恋愛の方はさっぱりだが、出世街道を突き進んでいる。
ーこれでいいのかな…。
仕事に邁進するほど、恋愛偏差値が下がっていくのではないか、というジレンマに陥り、小さなため息が漏れ出てしまう。
周囲から“寂しそう”と思われないように、美容や外見にはかなり気を遣ってはいるが、本音を言うと着飾った自分が虚しく思えることもある。
それに、課長になるってことは、年収1,000万円近くまで上がることになり、経済的に見ても、その辺の男よりも生きる力があることになる。
ーますます、“自分で何とか出来てしまう女”になってしまうのかな…。
きっとこれが男性だったら手放しで喜ぶだろうし、むしろ出世すればするほどモテるだろう。
それに比べて、女性が出世することへの世間のイメージが、まだまだ追いついていないことを痛感する。
梨沙は、気分を変えようと何気なくふとFacebookを開く。
すると、なぜか佐々木から友達申請が届いていた。
承認はしたくなかったが、無視するのもと思い承認した後、彼のタイムラインを見て後悔した。
『見返してやる』と紫色の背景にデカデカとした文字で強調されている投稿が目に飛び込んできたのだ。
“何を”見返してやるのかが分からない投稿に対して、“頑張ってください”、“応援しています”と適当なコメントが続く。
佐々木がそれらのコメントに、『いいね！』のスタンプを返しているのを見て、全身に鳥肌が立つ。
こんな子供じみたことをする人が部下になると思うと、恐怖しか感じない。
来年度の組織発表はもうすぐ。
出世の内示で嬉しいはずなのに、前途多難な日々が待ち受けているのを感じ、目の前が灰色になっていく―。
〜梨沙が学んだビジネスルール〜
�々堝阿靴覆い般ね茲和鵑韻覆�
�⊆�分の領域でしっかりと成果を出すことに集中する
��スタッフ部門とライン部門の特性を把握し、キャリアを考える
�ち蠎蠅�求める役割を「演じる」ことで主導権をとる
�ド床舛気譴襪里鯊圓弔里任呂覆�、日々の成果アピールと準備してから面談に臨む
�Σ餤弔任楼娶�を求められるのを待つのではなく、自分から発言し存在価値を高める
�Ъ�分なりの勝ちパターンを作る
��有利に進むよう意図的に印象・評判形成する
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最終回：課長となって奮闘する梨沙。仕事が出来ない佐々木への対処法とは…？！
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